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四月十八日、金曜日。
私の住む岐阜県某市にある長良町では激しい雨が降った。
バケツをひっくり返したような雨が、強い風に煽られて横なぶりに地面に叩きつけられる。教室の窓からその様子を眺めていた私は、これは大変だなと危機感を覚えた。長良町は山に囲まれた田舎なので、土砂災害が多い。このまま激しい雨が降り続けば、また土砂崩れが起きてしまうんじゃないかと怯えていた。
「みんな、聞いてくれ。四時間目で今日の授業は終了して緊急下校することになった」
三時間目の英語のライティングの授業が終わったあとの十分休憩中に、担任の磯村先生が緊急の連絡を伝えにきた。こういうことに慣れているクラスのみんなは、特に驚く様子もなく、早めの下校を喜んでいたように思う。
そんな中、来海はどこかぼうっとした様子で窓の外を眺めていた。
何を考えているのだろうと気になりはしたけれど、私と同じように激しく降る雨の様子を見ていただけだろうと、その時は深く考えることはなかった。
親に連絡がつく人は迎えに来てもらい、それ以外の人は通学バスに乗り込んだ。私も来海もバス組だった。来海の隣の席に座った私は、「来海ちゃん、大丈夫?」とそっと伺う。彼女が、相変わらず無表情で降り頻る雨を眺めていたから、ちょっとだけ心配になった。
「うん、大丈夫」
たったそれだけの返事だった。まるで、私が聞く前から答えを用意していたかのようなそっけなさが滲んでいた。
「そっか。雨、早く止むといいね」
だから私もそれ以上は何も言うことがなく、二人の間には沈黙が流れた。バスがそれぞれの生徒の家の前で停止するたびに来海の顔を窺ったけれど、彼女はずっと真顔で、眉ひとつ動かさなかった。
私が見た、来海の姿はその時が最期になった。