愛し子@5歳児(ミスティアの場合)
ミスティアの記憶にはあまり残っていないらしい、過去の微笑ましい(かどうかは分からないけれど)出来事について、ここに記す(Byペイスグリル)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「にーさま、にーさま」
「何だ、どうかしたのかい?」
ちょうど当主教育が終わったペイスグリルを呼び止めた、小さく愛らしい妹・ミスティア。
ぽてぽてと歩いてきたミスティアの方を振り返った途端、ペイスグリルはびしりと硬直した。妹が、何かを鷲掴みにして、満面の笑顔でずい、と兄に差し出してきた。
「……ミ、ミスティア……それは……?」
「これ、みつけた。飛んでたの捕まえた!」
【はなしてぇ……】
べそべそと泣いているのはミスティアの手の中にいる、風の精霊。
なお、『離して』の理由はとても簡単。ミスティアに鷲掴みにされてしまっていることと、そこそこ力が強いから。
幼子は基本的に容赦しないのだ。
【ボク何もしてないぃぃぃ……】
「ミ、ミスティア……あの、精霊を鷲掴みにするのは……」
「これ、せいれい?」
「そうだよ、いい子だから離してあげよう?」
「…………」
じぃ、とミスティアは精霊を見つめている。
鷲掴み、とい構図さえどうにかなれば、大変愛らしい光景なのだが、今はまさに精霊にとっては地獄そのものだろう。
「……おーい、ミスティア?」
【あのね、ミスティア、離してほしいな?】
「……」
何やら真剣に考え込みながらミスティアは風の精霊をじぃ、と見る。離して、とお願いはされているものの、どうにもこうにも離す気配が一切ない。
「こらミスティア、そろそろ離してやって……」
「逃げない?」
「ん?」
「このこ、逃げないかなぁ?」
ミスティアは少し寂しそうにペイスグリルに問いかける。
ペイスグリルは、精霊に視線をやってから優しい口調で問いかけた。
「……だ、そうだ。逃げないかい?」
【逃げないよ、ボク】
「ミスティア、逃げないって」
「……ほんと?」
【ほんとだよ、ミスティア】
にこ、と精霊が微笑みかけ、ミスティアも理解してくれたのかちょっとだけ微笑んでから、そっと手を離した。
【ありがとうミスティア!びっくりしたよー、いきなり鷲掴みにしてくるんだもん】
「つかまえたいな、って思った!」
そっかー、とどこか力の抜けたような、乾いた声で呟いたペイスグリルは、ごめんな、と精霊にも謝ったが風の精霊はふるふると首を横に振る。
【ミスティアがそうしたいなら、良いの】
「いや、しかし」
「……? ねぇ、私の名前、知ってるの!?」
【知ってるよ!リリカの子供でしょ?】
「お母さんの名前も知ってる!!精霊さんすごーい!!」
はしゃぐミスティア、何だか誇らしげな風の精霊。そして、呆気に取られているペイスグリル。
三者三様の反応をしているところに、母リリカが入って来た。
「ミスティア、今日のお勉強……って、あら」
【リリカ!】
「まぁ、風の精霊さん。どうしたの?」
【あのねぇ、さっきミスティアに鷲掴みにされた!】
「……ん?」
リリカも反応も、ペイスグリルと同じものだった。
まさか、我が子が精霊の体を鷲掴みにしてしまうとは思わないし、リリカはミスティアの肩をがし、と掴んだ。
「ミスティア、よーく聞きなさいね」
「はい、おかーさま」
「精霊さんを掴んじゃいけません」
「掴めた」
「そうじゃなくて!! 掴んじゃいけません!! お返事は!!」
「……はぁい」
ぷく、と頬を膨らませたミスティアだったが、母の言うことは素直に聞かないとこの後がとんでもないことになってしまうのは理解している。そう、悪戯大好き五歳児は既に何度も叱られているので、身に染みているのだ。
「ほらミスティア、精霊さんにごめんなさいして」
「ごめんね、精霊ちゃん」
ぺこ、と頭を下げて素直に謝罪をしたミスティアを見て、風の精霊はにこー、と笑ってからミスティアの丸い頬にぺたり、とくっついてきた。
【良いよぉ、気にしないで?】
「うん、ありがとう」
へら、と笑ったミスティアだったが、ここでふとリリカがあることに気が付いた。
(……ミスティア、精霊の言葉が理解できているのかしら)
普通、精霊の言葉は精霊側が気を付けて声を発しなければ、人間側に声が届くことはない。
リリカは風属性に特化しているから、精霊に力を貸してもらうことだって多い。精霊とも仲が良いから、力を貸してくれているから会話が出来ないと不便だから、精霊自身が配慮している。
精霊言語こそ離せないが、意思疎通ができるのはこれまでの経験あってこそ、という状態。
だが、ミスティアは既に精霊と意思疎通が出来ているのだ。
(この子……)
きっと、物凄い風魔法の使い手になるんじゃないだろうか、そう思ってリリカは精霊とじゃれている我が子の頭をよしよしと撫でてやる。
撫でられたミスティアは嬉しそうに目を細め、精霊も【ボクも~】と言ってリリカに甘えてきている。
仕方ないな、と笑ったリリカは精霊のこともしっかりと甘やかしてから、ミスティアの小さな体をひょいと抱き上げてやった。
「さぁミスティア、精霊さんと遊ぶのは良いんだけど……お勉強の時間ですよ」
「はぁ~い」
勉強の時間を誤魔化せると思っていたミスティアは、またもや頬を膨らませてぎゅう、とリリカに抱き着きつつ、精霊に手を振る。
「精霊ちゃん、またねぇ」
【うん、また遊ぼー!】
手を振って、一旦精霊と離れたミスティアだったが、翌日また精霊がミスティアのところにやって来て、遊ぶことになる。
なお、そんなミスティアは幼い頃から無意識で精霊眼を発動していたのだが、誰も気が付くことはなかったうえに、しれっと精霊言語を覚えて話すようになったり、他にも色々な事件を引き起こしていくことになるだなんて、屋敷の誰も思っていなかった――。




