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【書籍化決定】さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~【完結済】  作者: みなと


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第57話 どの口がほざくか

「あなた、馬鹿なんです?」

「ば、馬鹿!?」

「私がいつ、あなたのことを、愛しているだなんて、言いました?」


 一言ずつ区切られて、はきはきと問われた内容に、リカルドははて……としばらく考える。

 結婚してからのことを思い出してみると、とても穏やかに過ごしていた日々がすぐに過ぎっていった。


 だが、どれだけ思い出そうとしてもミスティアが『愛しています』などと言ったことはないのだ。


「あ、あれ?」

「そもそも、この結婚が何故、というところはご理解いただけておりますでしょうか」


 またミスティアは、リカルドに淡々と問いかける。

 何でか、と言われればセレスティンから『念願叶うのね!』というようなことしか聞いたことがない。


「何で、って……お前の方から申し込んだんじゃ、ないのか」

「…………」


 ミスティアとペイスグリル、揃ってレオルグに刺さるような視線を送れば、先程まで怒り狂っていたレオルグが、深々と頭を下げた。


「すまん!」

「いやぁ……さすがにこれは……」

「私も予想外です……」

「ここまで思い込みが激しく、己に都合のいいようにしか考えておらんとは……」


 三人が思いきり溜め息を吐いているのを見たリカルドは、あれ?あれ?と、慌て始めた。

 セレスティンから聞いていた話とそもそも違うような、と考えてからぱっと視線をやれば、物凄い勢いでセレスティンはリカルドから目を逸らした。


「はは、うえ?」

「……ほう?」


 犯人は、お前か。そう言わんばかりの鋭い目でレオルグは己の妻をギロりと睨みつけた。


「ちち、ちがうの! だって、あの、えぇと」

「だっても何もあるか!!」


 またビリビリと空気を震わせるかのような大きな怒声が響く。

 わぁ、とランディは思わず耳を塞いだが、それで防げるようなものでもなかった。


「どこまでも都合のいいように解釈して、人様に迷惑をかけて、挙げ句、殺しかけていた自覚がまだないのか! ここまで来て誤魔化そうとするのか!」


 怒りだけでは無い。

 自分の妻が、信じて色々と任せていた人が、こんなにも浅ましい思考回路だとは思わず、レオルグは悔しそうにぎりり、と拳を強く握った。


「…………見損なった」


 怒鳴らず、ただ、静かにそう告げたレオルグの様子に、さすがにマズいと思ったらしいセレスティンだったが、もう遅かった。


「こんな勘違い馬鹿どもだと理解出来ていなかった、わたしに責任の全てがございます」


 静かに、レオルグは言葉を紡ぐ。

 先程までの怒り、失望、何もかもがなくなった状態で、ただ、淡々と。


「馬鹿に巻き込まれてしまったミスティア嬢には、できうる限りの謝罪と償いを。……婚姻していた事実こそ消えませぬが、離縁の原因は全て当家にあるということ、非人道的な扱いをされたが故に悪評のようなものが広がってしまったということ、何もかも、全て手配いたしましょう」

「それでは、レオルグ様の御名前にも傷が!」

「……わたしが、もっと家庭を省みていれば、こんな馬鹿みたいなことは……起こらなかった。それは、事実でございます」


 床に膝をつき、今にも土下座しそうなほどに頭を深くさげたレオルグの姿に、這いつくばっているセレスティンとリカルドは、ようやく自分たちの『終わり』を察したらしい。

 ここまでされて、ようやく、というところがやらかした張本人たちらしいといえばそうなのだが、それでも遅い。


「ペイスグリル殿、貴殿の妹君には大変失礼なことをしたばかりか……ましてや、命を奪いかけてしまっていたこと、深く……深くお詫び申し上げる!」

「……レオルグ様……。あなたがこれ以上謝る必要なんてない。本当に謝らなければいけない人達は、あなたにただ責任を押し付けているだけなのですから……」


 ペイスグリル、そして頭を下げっぱなしで表情が伺えなかったレオルグが顔を上げ、セレスティンとリカルドを向いた。


「ひ、っ」

「っ……あ……」


 兄として、妹を守れなかったことの後悔。

 義父として、家長からは引退しているとはいえ家の中の管理ができていなかったことへの後悔。


 色々な感情が積もり、混ざり、ペイスグリルとレオルグ、二人の顔から表情が一切、消えていた。


「ご、ごめんなさい!! 謝った! 謝りましたわ!!」

「すまなかったミスティア! 俺も謝ったぞ!」


 へらへらと媚びへつらうような二人を見て、ステラも怒りが一気に膨れ上がるが、それ以上に怒ったのは、ランディだった。


「…………僕、こんな奴らが最高の親だとか、おばあさまだとか、思ってたんだ…………」

「ランディちゃん!」


 慌ててセレスティンがランディを呼んだが、向けられた目は、嫌悪感に満ち溢れていた。


「……気持ち悪……」

「あ……」


 大好きな孫から、汚物を見るように見られ、セレスティンは嫌だ、やめて、と泣き叫びながら懇願したが、ランディは一切聞き入れなかった。


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