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【書籍化決定】さようなら、家族の皆さま~不要だと捨てられた妻は、精霊王の愛し子でした~【完結済】  作者: みなと


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第54話 せめて、この人だけでも

 美人二人が顔をしかめると、とんでもない迫力があるんだなぁ、とペイスグリルやリリカはしみじみ思っていた。

 ステラは、可愛らしいに綺麗を足したとんでもなく美しい女性だし、ミスティアも綺麗系の顔立ちをしている。

 なお、リカルドも顔は良いのでランディにそれが遠慮なく受け継がれているのだが、どうやら思考回路はまるっとローレル家……もとい、セレスティンのものに染まりきってしまった可哀想な息子、という認識しかミスティアは持てなくなっていた。


「卑怯者に卑怯者とか言われたくありませんし」

「どちらかと言えば、卑怯者に加えて穀潰しなのはそちらの皆様かなー、って思うんです」

「大体、血統こそ関係あれど引き継がせることは自分では選べない、とあれだけ言っているのに私のせいにしまくる人もおりますし」

「大前提、人の話を聞いていないのよね」

「耳はあっても聞いているだけ、理解していない」

「理解していない、というより理解しようとしていない、のよね」


 淡々と、こんこんと、ステラとミスティアは言い続ける。

 ぐさり、どすり、ともしも効果として見ることが出来るのであれば、セレスティンにもリカルドにもランディにもぶっ刺さり続けているこれらの台詞。


「穀潰し……」

「理解しようとしてない……」

「卑怯者……」


 意気揚々と乗り込んできたときの迫力はどこへやら。

 見事に意気消沈している三人を見て、よっこいしょ、とミスティアはランディの傍にしゃがんだ。


「ランディ」

「っ……!」

「あなた、どうしてそんなにもセレスティン様の言葉だけを頑なに信用するの?」

「え……」

「自分で、どうして考えようとしないの?」

「それ、は」


 きっとこれは、最後の賭けなのかもしれない。

 もう十歳、と言われるかもしれない。貴族として生きていたいのならば、これがもうラストチャンスだろう。


「だって、……あの……」

「……時間がかかってもいいわ、どうしてなのか考えなさい。そして、言いなさい」


 ごめんなさい、ごめんなさい、と泣いて許しを乞うていたミスティアは、もういない。いいや、これが、今のこの姿こそが本来のミスティアなのだ。

 あの時はもう見事な程に情緒不安定なうえ、自分が産んだ子を取り上げられ、世話をさせてもらえないことの悲しさ、それにも関わらず夫は寄り添いもせずに母親の言うがままにミスティアを罵るだけ。


 だから、今の状態なのであれば、ランディだけでもどうにか救わなければいけない。

 母として一緒に暮らすことは無理だけれど、この子が奪われてしまった、本当の才能を伸ばす場に、行かせてあげたい。


「ぼ、く……」

「……」

「だっ、て……おとなが、言うから……それが、正しいに、違い、ないって……」

「どうして?」

「お父様や、おばあさまの、言う通りに、なり続けたから……」

「ねぇランディ」


 ミスティアは、静かに続ける。


「そこに、私がいないことに、一度も疑問を抱かなかった?」

「へ?」

「あなたは、セレスティン様に連れられて、パーティーなんかにも参加していたでしょう?」

「う、ん」

「その時、周りの子には誰がついていた?」

「親が……いた」

「……父親だけ?」

「え、っと」


 ランディは、必死に思い出そうと頭をフル回転させる。

 誰がいただろうか、自分はセレスティンがいてくれて、皆から羨望の目で見られながらだったから、覚えているだろうか。

 必死に考えて、考えて、はっと思い当たった。


「両親が、いた」

「……ランディ、どうして不思議に思わなかったの?」

「だって、おばあさまがいたら……問題なかったから……」

「今回もそれでいい?」

「……」


 いいか悪いか、で問われれば嫌だ。それは断言出来る。

 でも、どうして嫌なのだろうか。


「嫌……かも、しれない」

「どうして?」

「僕、は……本当は風属性じゃ、ないんだよね?」

「その可能性が大きいわ」

「……やり、直したい」

「何を?」


 ランディは、ぐっと拳を握って、ミスティアをぐっと見上げた。

 初めて、きちんと母親と目が合ったかもしれない。

 ああ、本来の母はこんなにも強い目を持っていたんだ、そして今は精霊眼が発動しているから、とても綺麗な翠色。


「勉強、を」


 親子関係は、きっと無理だ。

 ランディはそこは理解はしていた。嫌だけれど、自分が招いてしまったことだから、けじめはつけなきゃ、とぐっと大きく深呼吸をして、また続ける。


「お母様に、許してなんて言えない。だから、もう、ローレル家がこんなことにならないように、偏ってない知識が、欲しい!」


 これからを考えると怖いし、どれだけ自分や祖母、父が叱られるのか想像しただけで震えるけれど、でも。


「お願いします!」

「……ええ、分かったわ」


 ぽん、と頭に乗せられたミスティアの手が、優しくて。温かくて、今になってどうしようもなく、こうしてもらえたことが嬉しくて。


「あり、がとう……」

「……ランディ、私も……いいえ、私の方がごめんなさい。そして……私からも、ありがとう」


 時間はそんなに経っていないけれど、でも、自分一人で考えて出した結論を、ミスティアは最優先させることにした。

 大人は大人で責任を追求するけれど、母としてではなく、一人の人生の先輩としてならば……もしかしたら、良い関係性が築けるかもせれない。


 そう思って、優しく、ランディの頭をミスティアは撫で続けた。


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