第49話 待ち望んだ知らせ
一方、精霊王からの爆弾発言を聞いたミスティアは頭を抱えていた。
ミスティアが持つ精霊眼について、あくまでこれは風属性の人が持っているもの。その他の属性にも精霊眼はあるのだが、どうやらローレル家の人々は、ミスティアの子=風属性の子であるはず、という思い込みもあったことに加えて、ランディの適切な能力測定も行わず、必死に風属性の魔法の練習をさせていたことになる。
「私がちゃんとランディを見ていれば……」
「ミスティア、ランディはセレスティンに連れ去りのごとく奪われたんでしょう? それにあなた、産後の体調が思わしくなかったじゃないの。そこまで思いつめなくても……」
母であるリリカにそう言われても、ミスティアは納得できなかった。
自身の子を、どうしてもっと守ってやれなかった、と後悔する。とはいえ自分はリリカの言うように産後の体調がとても悪く、ベッドから起き上がれるような状態でもなかった。
息子に対して今、現時点で愛情はないが『もしも自分があの時……』という後悔の念が、どっと押し寄せてくる。
「嫌われていても……手を貸すべきかしら……」
【手を貸してどうにかなるものでもない】
「王……」
バッサリと切り捨てるかの如く、王は真剣な表情で言い切った。
【ミスティアがどれだけ手を貸したところで、ミスティアの子はミスティアの言葉を受け入れようとせんだろう。現に……見てみろ】
「え?」
王の手のひらの上でぐったりとしている精霊が、一人。
ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返し、しかも今にも消えそうなほどに弱まっている。
「どうして……」
【……ミスティアの子、助けられたら、って思った】
「え……?」
【でも、あの子、無理だよ……。何も反省してない……、それどころか……何もかもミスティアの、せいに、してる】
ペイスグリル、ステラ、そして母のリリカとミスティア、それぞれが顔を見合わせた。
この精霊は、もしかして……と、ミスティアがそっとその精霊に触れる。
「……あなた……もしかして」
【声封じ、しちゃった】
「でも、それだけでこんな風にはらないでしょう!?」
精霊の行った声封じは、精霊の悪戯の一種。
普通は『少し反省させるため』として、ささやかなレベルで行うものだが、この精霊が行ったのは自分の命を懸けてまでも行った、結構な大がかりなもの。
ミスティアの子を救いたい、という願いをかけて、ランディがせめて少しでもあの一家の呪いから解放されれば、目を覚ますことができれば、そして、ミスティアのところへやって来れたらきっとまともになるかもしれないと思い、その術を行ったらしい。
結果は、ダメだった。
既に消滅しかけていることから、ランディにかけた術に関しては色々な意味で《《失敗》》だったのだろう。
「……ごめんなさい……私がもっと考えて行動出来ていたら……」
【これは、ボクの我儘。ミスティアに……ミスティアの子と、幸せになってほしかったけど……ごめんね】
謝っている精霊を見て、ミスティアはぼろぼろと涙をこぼす。
ああ、私の我儘で、大切な存在を傷つけてしまっていたのだ、と思うと悔しくて、もっとあの人たちに毅然とした態度が昔、取れていたら……と考えると次から次へ後悔の念があふれてくるが、今思ったところでどうにもならない。
そこまで思った時だった。
執事長のディオがとんでもない勢いで皆のところにやってきて、こう告げた。
「皆さま、大変でございます! ローレル家の者が乗り込んできました!」
聞いた内容に、全員がばっと立ち上がり、そして揃って頷き合う。
「……とうとう来たのね」
何かを決意したミスティアのつぶやきを受け、王がミスティアの額にそっと手を当てた。
「……王?」
【今、この場でやることではないが、簡易的な祝福を、そなたに】
ぱぁっ、と一瞬眩い光があたりを照らし、ミスティアの体をふわりと温かなものが包み込んでいく。
ほわ、と温かくなったことで、少しだけ嬉しそうに微笑んだミスティアは、ぎゅっと拳を握った。
「……ありがとうございます、王。いってまいりますわ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「出てこい! この疫病神め!」
「そうだそうだ! お母様とか言いながら子供を見捨てた鬼め!」
「貴様に離縁状を持ってきてやったんだ、さっさとサインしろ!」
ぎゃあぎゃあと騒いでいる三人の前に、ミスティアは堂々と出て行った。
彼女の背後には、勿論ながらペイスグリル、そしてステラが控えている。何かあったときのために、リリカだって一緒にやってきていた。
だから、というわけでもないが、ミスティアは三人の前ではっきりとこう告げた。
「離縁上等です! さぁ、離縁状を寄越しなさい!!」
「な……!?」
離縁を申し出ているくせに、承諾されたら慌てまくっているリカルドを見て、ミスティアの心はどんどんと冷え切っていくのを感じながら、離縁状を寄越せと手を出すミスティアの様子に、まさかのセレスティンも、ランディもぎょっと目を丸くしていたのだった。




