第46話 真実を知った
ローレル家から根こそぎ風の精霊がいなくなって、それでもほんの少しは力を貸してくれる精霊はいたものの、『え、愛し子いびり倒して殺そうとしてた奴らに力貸すの? お前らほんとにそれ言ってる?』と、他の風の精霊たちから散々なじられた精霊たちは、『愛し子殺しはあかん』、『いや、っていうか愛し子捕まってたの!?』、『そもそもまずヒトとしてこの家の奴らはどうなんだ』と、わらわら離れていった。
他の属性の精霊も離れたそうにしていたらしいが、自分はまだ別の属性だし……むしろ、離れることで無法地帯になっても良くない、という判断をしたらしい。
それが幸か不幸か。
ランディはべそをかきつつ風魔法を使いたそうにするも、増幅してくれる精霊がいないからと、またそれをミスティアのせいにしていた。
「あぁぁぁぁぁ!! お母様がいなくなったから!! あの人のせいだ!!」
地団駄を踏んで、魔法を使うために祖母が用意してくれていた意識を集中させるために便利だ、というマジックステッキを床に叩きつけると、呆気なく折れる。
「あー……もう!」
それもこれも何もかも。
全てがミスティアが起きて、意識をきちんと取り戻して、ここから出ていったせい、という決めつけの思考回路しか持っていないランディは、ここでようやくあることに気付いた。
「……って、あれ?」
自分はミスティアから精霊眼を引き継ぐから、属性は『風』であるはずだ、と祖母が常日頃言いまくっていた。
しかし、本当にそうなのだろうか、と。
「僕の属性って……何なんだ?」
ここでようやくランディは地団駄を踏むのをやめて、じっと己の手のひらを見つめた。
「お母様が風属性で、精霊眼をもってるからって、……風属性とは……限らない」
それを教えてくれたのは、誰だっただろうか。
もしかしたら、母方の親戚か誰かだったかもしれないが、ランディには思い出せなかった。
「属性を調べるのって……」
ひとまず、書庫に行こう。
よし、と一度大きく頷いたランディは部屋から出ていそいそと書庫へと歩き出す。
あまり普段は近寄らないけれど、今は別だ、と足も自然と早くなる。
ふと、使用人の待機室を通りかかった時に聞こえた内容にランディは足を止めた。
「どう?」
「うーん……何かあれよね、しっちゃかめっちゃか、っていうか」
「確かサイフォス家の天才令嬢が嫁いだんでしょ?」
「離縁秒読みらしいけど」
「えー」
何だ、一体何の話をしているんだろう、とランディはぺたりとドアに耳をくっつけた。
行儀が悪いと言われようが、話の内容が気になって仕方ないのだ。
「新規採用とかで声かけられたけど……中身は散々よね……」
「前の使用人が、奥様の私物を盗んで売りさばいたんでしょう?」
「げ……犯罪者を解雇したからその人員補充で雇われたってこと?」
「(え……? だって、おばあさまは、……問題ない、って……だから、あれ……?)」
「……旦那様は今必死に家を立て直そうとはしてるみたいだけど、財政難すぎよね、ここ」
あまり声は大きくないし、普通にしていれば扉の向こうの声なんか聞けはしない。
だが、様子を見に来た風の精霊はイタズラ心で、わざとランディが聞けるように声を風に乗せたのだ。
【(来てみてせいかーい♪)】
無情にも、次々に明かされていく真実に、ランディは足が震えて今にも崩れ落ちそうになるけど、必死に堪えながら内容を聞き続けた。
「大体、奥様のものだから盗んでいい、っていうのがおかしいってことに誰も気が付かないし、止める人もいなかった、ってことよね?」
「そうそう。ぼっちゃまは多分、先代夫人に洗脳されてるわよあれ」
「え、本当?」
「だって、未だに奥様のことをあれこれ悪口大会してるんだもよ」
「出ていってしばらく経つのに?」
「そう」
「でも、殺そうとしたくらいだから離縁してもらって無関係になれば、ローレル家は今後笑って過ごせるでしょうに」
「奥様のご実家からお金引っ張れないから離縁は嫌なのよ」
「大奥様は?」
「大旦那様の管理がきっちりしてるから、ここでは威張れるけどご帰還されたら小さくなるって、この前旦那様が愚痴ってた」
「あー……」
それはまぁ、仕方ないわよねー。
とてつもなく軽く締めくくられた内容に、ランディは真っ青になる。
今まで自分が信じてきたものが、音を立てて崩れていく感覚に襲われ、ようやく恐ろしくなってきてしまった。
「(僕は……なんて、ことを……)」