第44話 こんにちは、風の精霊王様
「……」
【…………】
にこにことしている精霊王と、ものすごく緊張しているミスティア。
そして、ミスティアにつられて緊張しているステラ。
更にはとってもご機嫌な風の精霊たち。
「……あの……」
【何だ?】
「私が、愛し子、っていうのは……あの」
【すまんな、こればかりはなろうと思ってなれるものでもないし、たまたまミスティアだった、というわけだ】
「いやそうじゃなくて」
どうしよう、話が通じないというか……愛し子、ってそもそも何なのですか、と聞きたいけれど、聞くタイミングを何だかなくしてしまっているような気がしている。
しかし、そもそも愛し子って何なのですか、という質問をしなければ、なぞは解決しないし、これまでのサイフォス家には愛し子がいたのかどうか、ということも疑問だ。
「……あの、王様?」
そっとステラが手を挙げる。
何となく、許可なく話してはいけないような気がしたのだ。
【ステラとか申したな、許す。話してみよ】
「ミスティアちゃん、愛し子が何なのか詳細を知らないようですし、説明して差し上げるのが良いのでは……」
【ん?】
「知りません」
ステラの言葉を聞いた精霊王は、ミスティアの方を振り返る。本当か、と確認したげな王の視線を受けて、ミスティアは先手必勝と言わんばかりに口を開き、知らないということを伝える。
何だか自分はやけに、それも属性問わず、精霊たちに好かれまくるなぁ、とは思っていたが、まさか精霊の愛し子だとは思っていなかったのだ。
当たり前といえば、当たり前。
【ふむ、そうか】
どこから説明したものか、と風の精霊王は悩む。
ミスティアの場合、最も親和性が高いのは『風』。
しかし、愛し子故に全属性を扱える、という特殊な加護を授かっているのだ。
そして、『愛し子』になる条件として、精霊との親和性がとても高いことがあげられる。
ミスティアは引いている血のこともあるが、風属性の魔法を得意としており、魔力コントロールにとても長け、更には魔力の波長が、たまたま初代サイフォス家当主のものと似ていることもあり、余計に精霊との親和性が高かった、ということらしい。
また、サイフォス家初代当主は、四大属性全てを操っていた、とも言い伝えとして残っている。
そんなとんでもない人と魔力の波長が似ていて、精霊との親和性がとても高いから彼らとの仲もよく、更には愛し子、精霊に愛されるべくして愛されている、という存在。
今は、それがミスティア、ということ。
「(情報量が……多い……!)」
【おやミスティア、どうした】
「ミスティアちゃん?」
「ステラ姉さま……頭がぐるぐるしてしまって……」
「……でしょうね……」
ステラはそもそも『ちょっと魔法がうまい』というくらいの人で、あくまで一般人。
精霊との親和性はそこそこ高いが、ミスティアと比べると大人と赤ちゃん、のようなものである。
【ふむ……目覚めたばかりで、少し情報の整理が必要なようだな】
「あ……ええと……すみません」
【謝らずとも良い良い、許す。ところで……ミスティアにまだ残っている忌々しい呪いの品について、取り除きたいのだが】
「呪い!?」
ぎょっとしたミスティアは、一体何が、と自分の体をぱたぱたと触ってみる。
呪いの品、と聞いて思い当たるのは一つしかないが、あれは香りを嗅がないと効果がないとばかり思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
精霊王を見ると、困ったような顔をしているから、どうやらミスティアやステラの認識が間違っていたようだ。
「あのお香……呪いが…?」
【精霊に愛されなかった者たちの想いがこれでもかと詰め込まれたもので、そう簡単に手に入るものではない。我らとの会話が出来なくなるどころか存在すら感知できなくなる。あのままミスティアが眠らされ、香の影響を受け続けていたら、早々に命を落としていただろう】
「……!?」
最低限の世話をするとき以外は眠らされ、意識を取り戻しかけても眠っていた時間の方が長すぎて体は思うように動かなかった。
あのローレル家にいたころは何もかもが不調すぎて、どうしようもなかったけれど、外に出て、お香の影響から外れてしまえばいつものミスティアそのもの。
ランディを産むまでは普通に生活できていたのだが、産まれたら用無しと言わんばかりにそうされた。
社交の場に出すときは、数日前から起こし、セレスティンやリカルドに『体調が悪いと嘘をついて眠るしか能のないお前を、わざわざローレル家の嫁として周知させてやるのだから、ありがたいと思え!』と起き抜け早々に怒鳴られ、訳が分からないまま過ごしていた日々。
それが何年も続けば、体の中にお香の成分も溜まって残り続けていて、悪影響を未だに与えていると、そういうことだろうか。
【そうだ】
ミスティアが考えていたことを読み取るように、王は頷く。
【此度の愛し子は頭の回転も良い。うむ、とても良いぞ!】
はっはっは!と満足そうに笑っている王の声は、帰宅したペイスグリルや他の家令たちにまで届き、この後サイフォス家が一時騒然となったことは、言うまでもない。




