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第36話 諸悪の根源は思い悩む

「か、風の刃を! くそっ、出ない! えぇと、だったら……」

「こ、来い! 精霊! 来いってばぁ!」


 リカルド、ランディ、共にどうにかして風魔法を発動させて精霊を呼び込もうとしているが、力の根源をぶった切りされているのに気付いていないのだから、どうしようもない。

 ついでに、ランディはそもそも論として風魔法の適性はかなり低い、ということにも気付いていないから、彼の行動は間違いなく無駄でしかないが、幾重にも魔力を無駄遣いしている。


「……どう、して」


 ここにもしもミスティアがいれば。

 彼女をそもそも虐げていなかったならば。


「……アイツが実家に帰ったからだな……」

「……え?」


 ぎりり、とリカルドは忌々しげに呟いた。

 まるで逆恨みでしかないことに気付いておらず、ミスティアのせいにしてしまえばどうにかなるとでも思っているのか。

 ランディは目を丸くして父を見上げるが、この前祖母にもそういった意味合いのことを言われた、と思い出して一気に怒る。


「全部、お母様のせい……?」

「あぁそうだ! おい誰か! ミスティアを連れ戻しに行くぞ、付き合え!」


 威勢よく言ったものの、使用人達は死屍累々、ということに改めてはっと気付いたリカルドは、どうしたものかとここでようやく困惑し始めた。

 それを見て、手首から先を失った使用人の一人がぽつりと呟いた。


「……諸悪の根源のくせに……」


 ランディがそれを聞いて、はっとしたようにそちらを向けば、恨めしそうに自分とリカルドを睨んでくる使用人達が大勢いた。


「な、何だよ!」

「お前らが奥様を悪しざまに言いまくるから、こっちだって調子乗ったんだよ」

「主人の命令、やることには私たちは従うしかないんですからね」


 本当ならば、主のやることの道理が外れていれば窘める、ということも使用人の仕事ではあるのだが、それすら知らないとでも言わんばかりに次から次へとリカルドやランディを責め立てる言葉ばかりが出てくる。


「大奥様に言われたからって、自分のお母様に対しての言葉じゃなかったわよね……ランディ様のセリフって」

「お母様なんかいらないとか、どうなんだよ……」

「お、おい、お前ら!」


 慌ててリカルドが使用人を止めようとしたが、不満が出てきて彼らの口は止まることを知らない。


「大奥様に言われたからって、盗んじゃった私たちが悪いんだけど……」

「ほんと、この家になんか仕えるんじゃなかったよ!」


 ぽろぽろと出てくる悪口をどうにか止めたいが、止められるのはリカルド一人。

 あれこれ言いまくるのは使用人ほぼ全員。

 手を失っていない人達も、そもそもこれから罪人として裁かれるのが分かっているのだから、そもそもやる気が全く感じられない。目も虚ろになってしまっている。


「ぼ、僕が色々お母様に言ったのはお前らの後押しがあったからで!」

「責任転嫁するんです?」


 即座に反論され、ランディはぐっと言葉につまる。

 母に対して罵詈雑言を吐きまくっていたといえ、まだ子供だから咄嗟の対応が苦手でも仕方ないとは思える。だが、自分がやったことに対してのあれこれを言われるのは、とてつもなく嫌なようだ。


「僕だって、お前達みたいなのが使用人じゃなかったら、お母様に妙なこと言わなかったよ!」

「……そこの当主にして、この息子かよ……」


 ハッ、と呆れ果てたように吐き捨てられ、ランディはさすがに耐えきれなかったのかぼろぼろと涙を零し始めた。


「っ……そ、それは、関係、ない!」

「あるだろうよ」

「奥様の言うこと聞いてりゃ、もっとまともな頭だったかもなぁ!」


 失うものなんて何もないから、彼らはここぞとばかりに文句を言いまくる。

 手がなくなれば働くなんてできないんだから、もうこの目の前にいる親子に対して遠慮なんかしなくて良いというものだ。


「結局、奥様の言うことが何より重要だった、ってことなんだよ! この人でなし一家!」

「おい、解雇されたいのか!」

「いやいや、これ見て働けるとか本気で思ってます~?」


 どうせ手がないから働けない、と叫ぶ使用人達にランディもリカルドも何も言えない。

 もしも切断された箇所がそのままきれいに保管されていれば。

 ……もしも、今ここに『それ』があるのならば、神官を呼んでどうにかさせたかもしれない、というところまで考えたリカルドは、はっとする。

 仮に全員分を治療するとして、治療費は誰が出すというのか。ローレル家? いいや、もしくはサイフォス家……とも考えたが、ミスティアは既に実家に帰ったのだから支援を願ったところで、力を貸してくれるとは思えない。


「……っ、ならとっとと出ていけ! 貴様らを雇った俺が間違っていた!」

「ハッ、よく言うわ」


 完全に馬鹿にした口調で、ある使用人が言った。


「俺らを雇ったのは、先代様で、てめぇに雇われたわけじゃないんだよ!」


 あ、とリカルドが呟いたがいろいろと遅かった。

 やっていられない、と着の身着のまま、使用人たちは我先にとローレル家を後にした。こんな不自由を背負ったら、紹介状があったところで次の仕事なんて見つかりはしない、とやさぐれているようだ。

 やりようによっては仕事は無くもないが、今の彼らに何を言っても通じないだろう。


 ぞろぞろと出て行った彼らがいなくなれば、屋敷の中はあっという間に静寂が訪れて、がらんとしてしまった。


「お父様……これから、どうするの……?」


 呆然としたランディの言葉で、はっと我に返ったリカルドだったがやることは山積みだ。

 執事長だけは出て行っていないが、きっとそう遠くないうちに逮捕されてしまうだろう。そうなる前に使用人の確保をしなければいけない。

 既存だった使用人への給金も支払わなければいけないし、新しい使用人には誰が仕事を教えればいいのか。


「(どうすればいいんだ……)」


 へた、と座り込んだが執事長は無慈悲に告げる。


「旦那様、座っている暇があれば屋敷の仕事も行ってくださいね。……奥様が起きたから屋敷の仕事をお任せできると思っていたら早々に出て行ってしまわれて、この家の仕事をできる可能性のある人は、今の所貴方以外いないんですから」



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