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第35話 陰ながらのやり返し

 のんびりとペイスグリルが帰宅して、ステラも街から帰宅して、夫婦は揃ってにこにことお茶を楽しんでいた。


「あなた、いかがでして?」

「あっはっは、思ったより馬鹿だったからほぼ大半の使用人達はもう未来は無さそうだ」

「まぁ素敵」


 物騒なことを話しているようで話していないようで、朗らかに交わされる会話を聞いて、執事長のディオは困ったように微笑んだ。


「お二方、あまり物騒なことは言うものではございませんよ」

「物騒だなんて心外だわ」


 わたくし泣いちゃう!と言うステラだが、先程同様笑っている。

 あくまで執事と奥様のあっけらかんとしたやり取りではあるものの、ディオ自身全くこの夫婦を咎めようだなんて思っていない。


「ぼっちゃま、具体的にどのようなやり返しを?」

「選ばせただけだ」

「はて」

「使用人として罰を受けるか、罪人になるか」

「おやまぁ」


 家によって異なる、『使用人としての罰』。

 とてつもなく不幸なことに、ローレル家での罰は手首をちょん切られる、という悲惨なものだった。

 だが、選んだのは彼ら自身であり、別にそれを選べ、とペイスグリルは強要した訳でもない。


 彼ら自身が、自ら『罰を受ける』としたのだから何ら悪いことはしていない。


 もしも悪かったというならば、使用人の雇用契約書をきちんと読んでいなかった彼ら自身ではないのか、とペイスグリルは笑いながら言うだろう。


「これでアイツらは普通に働けもせず、家族に頼ろうとも由緒正しき伯爵家で働いていた本人たちの給金をどうせ頼りにしていた輩も多いだろうからな。さて、どうなることやら」

「それはそうですなぁ」

「人のものを盗む、という蛮行をする方が悪いのです」


 ステラはツン、とそっぽを向いて唇を尖らせた。

 まさかそんな馬鹿な行為をする人間がいるとは思うわけもないし、被害にあったのが可愛い可愛いミスティアだったのだからやり返しが半端ない。


「さて、売り払われていたこれらは取り戻しました」


 ステラが持っていた荷物の中から、複数の箱を取り出してテーブルにことん、と置いた。


「中を見ても良いか?」

「はい。後でミスティアちゃんに持っていこうと思いますが、それより前にちょっと……」

「ん?」


 箱を手に取ったペイスグリルは、はて、と首を傾げる。


「ミスティアちゃんに返す前に、ペイスグリル様の水魔法で洗浄できませんこと? あんなクソ……こほん、お粗末な輩の手垢がついているだなんて、この装飾品たちにも申し訳なくて……」


 はぁ、とため息を吐きながら申し訳なさそうに微笑みを浮かべつつ、しれっと色々と言うステラを見て、ペイスグリルは勿論だ、と言わんばかりに頷いた。


「当たり前だ。……さて、お前たち」


【はぁい!】

【綺麗にする!】


 ペイスグリルが水魔法を展開してやると、精霊達は我先にとわちゃわちゃ出てきた。


「綺麗にしような」


【はーい♪】


 父と子のように笑いあって魔法を操作する様子は、見ていてステラもディオもどことなく微笑ましくなってくる。


「うふふ、ペイスグリル様張り切っておられますわ」

「ステラ様のお頼み、ということに加えてミスティア様にお返しするための洗浄ですから。はっはっは、しかしあれらの品を普通に売り捌けると考える態度の能無しどもが……あの家の使用人とは、困ったものですなぁ」


 その程度の使用人しか最近はいないのか、とディオは困ったようにため息を吐いたが、自分の部下ではないからまぁいいか、とすぐに忘れることにした。


【ねぇねぇペイスグリル、風の子達が言ってたんだけど】


「ん?」


【ミスティア虐めた馬鹿に細工した、だってー】


「は?」

「え?」


 一体何だ、とステラもペイスグリルも首を傾げる。

 どういうことか聞くため、ステラがふわりと風魔法を発動させれば、ふよふよと精霊達がやってきた。


【ステラ、何の魔法使う?】


「かわいこちゃんたち、ちょっと聞きたいんだけれど……」


【なぁにー?】


 ステラの手のひらにある風魔法を強化しつつ、その魔力できゃいきゃいと遊びながら風の精霊達はにこやかに問い掛ける。


「あの家のお馬鹿さん達に、何か細工した?」


【したー】

【ミスティアにくっついてる子達と一緒にやったー】


「何を?」


【あそこの風の精霊、みーんなこっちに引きずってきたー】


「…………え?」


 引きずってきた、と言っているが一体何を、どういうことだと思わずステラは訝しげな顔になる。

 それを見た風の精霊達は、にこにこと笑って何かに手を伸ばして、わし、と掴んだ。


「そこ、何かいるの?」


【見えるようにするねぇ】


 ステラの問いかけにはにこやかに、だが、掴んだ何かには割と容赦ないらしい。

 ぶんぶんと上下に思いきり振ったかと思えば、渾身の力を振り絞ったかのように床の方に振り下ろした。


【えい】


「……え」

「何だ?」


【投げられたねぇ、あっちの家の風の精霊】


「「え」」


 夫妻が思わずハモったところで、投げ落とされたらしい風の精霊が見えるようになった。


【う、うぅ……】


「あらやだ、大丈夫かしらあの子」


【ミスティア虐めた馬鹿にくっついてた精霊だよ、これ】


「まぁ」


 聞いた途端にステラの殺気が膨れ上がる。

 それに充てられた精霊から【うぎゃあ!!】と悲鳴が上がるが、如何せんここにはミスティアを害するものに容赦ない。

 怯えようが何をしようが、手は緩めないのがステラだ。


「あの馬鹿に力を貸していた、ということね」


【そうそう。んで、もう向こうだと風魔法使えないように、頑張って根こそぎ引っ張ってきたの】


 褒めて!と言わんばかりの様子の風の精霊に先程使おうとしていた魔力をご褒美にあげた。


【わぁ!】


「つまり、あちら様ではしばらく風魔法が何も発動しない、と。かわいこちゃん、そういうことかしら」


【そうー!】


 きゃっきゃと喜んでいる精霊達と、よくやりましたと言わんばかりのステラ。

 使用人達よりも誰よりも災難をまず食らったのはリカルド、そしてランディだったようだ。


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