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第33話 使用人の末路としては

【そろそろ飽きたー】

【ぽいしよ、ぽい】

【そいや】


 ひとしきり使用人達を水の球の中で遊びに遊んでから、精霊らしく、とも言うべきか、反応もなくなってきたのでもういいか、くらいのもの。

 精霊達は水の動きをぴたりと止め、水をすっと消した。

 これにより、ぼとぼとと使用人達が落とされることとなり、ようやく水責めから解放された彼らは『うぅ……』とうめき声をあげている。


「生きてますかね?」

「生きてる……よね、お前たちー?」


【生きてる生きてる】

【調整したもん】


 結構恐ろしいことをしれっと言い放った精霊を困ったようにペイスグリルは見て、こいこいと手招きする。


【なーにー?】


「あんまりおいたが過ぎると、ミスティアにも叱られるぞ?」


【それは困る!】

【でもミスティアを虐めたやつとか万死に値するんだもん!】


「あの……確かミスティア様、ってサイフォス家からローレル家に嫁がれた……」

「そうです、わたしの妹ですよ」


 にこやかにペイスグリルが答えれば、警備隊の面々は『ああ!』と納得したように頷いている。


「おや、ご存じで?」

「ミスティア様は、確か学生時代に学院の推薦を受けて騎士団へとたまに来ておりまして」

「……ああ」


 そういえば、そんなこともあったな、とペイスグリルは思い出した。

 当時、風属性の魔法の使い手として名を馳せていたミスティアだったが、清掃活動などで学院生にアルバイトを募集する際に先生の推薦もあって何度も行っていたようだ。


「道理でミスティアは学生なのにも関わらず、お財布が温かだった、というわけか」

「いやー、当時の団長が報酬を弾んでいたようでして」

「当家の人間が役に立ったのならば、何も文句などございませんよ」


 はっはっは、と双方笑っているが、風の精霊がペイスグリルの所に飛んできて、ぺしぺしと額を叩く。


「こら、やめさなさい」


【あのゴミども起きた】


「ほう」


 うう、とうめき声をあげている使用人達を見てから、警備隊の団長に声をかける。


「団長、とりあえず起こすんでその前にあいつらぐるぐる巻きにしてもらえますかね」

「ああ、承知いたしました。やれ!!」

「はいっ!」


 団長の号令で、わっと警備隊の団員が使用人を一人一人ぐるぐる巻きにしていく。

 さすがは警備隊の面々、普段から悪人を捕まえることには長けているためか、あっという間に全員の捕縛が完了した。


「こんなもんですかね」

「いやぁ、見事な手際で」


 感心していれば、水責めから辛うじて目を覚ました執事長がとぎれとぎれに質問する。


「……これで……、満足、でしょうか……?」

「満足?」


 はて、と首を傾げたペイスグリルに、まだこれ以上の責め苦を味わえというのか! と顔を引きつらせるもの、絶望から泣き出すもの、様々な反応をしている使用人達をぐるりと見渡して、ペイスグリルは口を開いた。


「法で裁きを受けるか、それとも法で裁きを受けない代わりに使用人として裁きを受けるか、どちらがいい?」

「へ……?」

「そんなこと、で……?」


 ペイスグリルの言葉に顔を輝かせている者が大半の中、警備隊の面々は顔を引きつらせていた。まさか、と思っていると回復した使用人から手を上げて、次々に『使用人としての方を選びます!』という自己申告がされていく。


「取り消しは不可能だが、良いんだな?」


 念を押すペイスグリルにも、使用人としての裁きを受ける方を選んだ面々は『はい!』と元気よく返事をする。何なら、彼の顔は輝いてすらいる。


「(法で裁かれないなら問題ないな!)」

「(さすが、馬鹿女の兄、ってやつね!)」


 ひそひそ、クスクスと笑い合う彼らに、ペイスグリルは微笑んで警備隊を振り返った。


「じゃあ、手伝いお願いできますか? ちょっと人数多いので……補助していただければ」

「うわ……」

「俺、初めて見るぞ……」

「……こっち選ぶのって、余程の間抜けだ、って聞いたことあるんだけど……マジでいるんだな、考え無しの馬鹿って」


 あれ、と使用人達は不思議そうにしている。

 どうしてそんなにも憐れむように見られるのだろうか、と思って、ここでようやく使用人として裁きを受けない方を選択した一人のメイドが手を上げた。


「あ、の」

「何だ?」

「彼らは……どのような、罰を……」


 本当に知らなかったのか、と驚くペイスグリルだが、それはあくまで驚くふり。

 きっとこいつらは知らないままに、『法で裁きを受けるくらいなら』という安直な理由で、使用人としての裁きを受ける方を選んでいるという確信はあった。


 だから、満面の笑顔で告げた。


「簡単だ、ちょっと手首を切り落とすだけだから」

「………………え?」


 告げられた内容に、皆揃って顔を真っ青にする。


「何でそんなに重い罰なんだよおおおおおお!!」

「主の物を盗むような馬鹿にかける情けはない、という意味が込められているんだが、まさか貴族の屋敷で働くというのに本当に知らない、とは言わせんぞ」


 そして、彼らは思い出す。


『主の物を盗む=窃盗。犯罪者を雇っていた責任もあるが、そもそも盗人の方が悪いのだから、今後犯罪を犯さないように手を切り落とす』


 そんな内容が雇用契約書に記載されていたのだ。

 なお、法で裁きを受ければ罪として前科ありとの記載がされるものの、今後の働き口に少し困る程度で、五体満足のまま。


 気付かなかった方が悪いだろう、とペイスグリルは凶悪な笑みを浮かべた。


「――さ、手短にすませてしまおう」


 告げるペイスグリルの狂気じみた笑顔を、彼の後ろに控える精霊を、無感情にこちらを見下ろしている警備隊を、きっと……彼らは忘れることは、決してないだろう。


 もう、彼らは使用人としても、普通に働くこともできない。

 何かしらの魔法が使えるのならば、日常生活は問題ないかもしれないが……そうでなければ……後は推して知るべし。


「やってしまったものは、己で責任を取る。それが大人だ」


 そうして、使用人にとっての惨劇が、無情にも開始されたのだった――。


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