第27話 反撃の狼煙はもう既に上がっている
「申し訳ございませんでした……!」
「良いんですのよ、別に」
にこ、と微笑むステラの迫力に、質屋の主人は可哀想なくらい真っ青になって震え上がっていた。
こうなってしまったのは、ひとえにこの店主が原因なのだが仕方ない。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いきなりサイフォス家夫人がやってきたかと思えば、『盗品販売に手を貸したのだから相応の対価を払っていただけますか?』と言ってきたのだ。
そんなバカな話があるわけない、何かの間違いだ! と反論したけれどステラは微笑みを一切崩さなかった。それどころか、微笑んだままこう続けた。
「少し前に、こんな感じのアクセサリーが持ち込まれておりませんでした?」
はいどうぞ、とステラが差し出したのは絵で描かれたネックレス。
とても詳細なところまで書き込まれたそれは、確かに見覚えがある。
いくらで店に出そうかな、とほくほくしながら考えていたところだが、どうしてこれが盗品だと言えるのだろうか。
「奥様、確かに持ち込まれましたが、これが盗品という証拠は……」
「はいどうぞ」
ステラは全く同じデザインのそれを、バッグの中から取り出した。
「え……?」
「これね、特注品なんです。それからおまけにこういう仕掛けもしておりまして」
ステラが器用にネックレスのトップを触って、かち、と小さな音がした。何の音か分からない、むしろ家鳴りの音か?とも誤解されそうなほどの小さい音に、はて、とステラの向かいでこの店の主は首を傾げた。
時を置かず、宝石部分が淡く光って、宝石部分から広がっていた光が収束していき、一筋の光となる。それが、まっすぐに店の奥を指しているではないか。
「あの、これは」
「対になっているの、それぞれ。離れていても、たとえ何かの災害が起こっても、瓦礫に埋もれたとしてもすぐに見つけられるように」
何かの間違いです、そう続けようとして店主がステラを見た、その時だった。
「だから、他にないの。この世界、どこを探しても、わたくしのこのペンダントの対になっているものだなんて、アレ以外には」
ステラは、微笑んでなどいなかった。
いつの間にか微笑みが消え、表情は『無』そのもの。
「……っ!」
「もう一度、聞くわ」
ステラが、ゆっくりと口を開く。
「少し前に、こんな感じのアクセサリーが持ち込まれておりませんでした? 盗品なんですのよ、それって」
ひゅ、と喉から奇妙な音を聞いた。
店主は察する、ごまかしなんかできない、と。
「あ、あの」
「はいか、いいえかでお答えなさい」
「も、持ち込まれました!」
カウンター越し、双方立って話していたが、店主は腰が抜けてへたり込んでしまう。
盗品を取り扱っている、と知れ渡れば店の信用にかかわってくる。そんな品物を扱っている店で、誰が買い物をしようと思うのか。
売却されてきたものだから、安価で……とはいえそこそこの値段で売れば良い儲けになる、くらいしか考えていなかったのだ。
「持ち込んだ馬鹿は、男? それとも女?」
「お、おんな、です」
「特徴は?」
がたがたと体が震える。
それに伴って、歯もがちがちとなっているが、ステラは答えを待ってくれている。
しかし、嘘を吐けば殺されてしまうかもしれない。
それくらいの迫力を有しているのだ。
「あ、あの、こちらに、情報を、記載して、もらい、ました!」
口で言うよりも、もう見せてしまえ。
店主の中で、もう一人の自分が囁く。身を護るため、店を守るためなのだから、問題ない。だって相手は盗品を売りに来た犯罪者なのだから目の前のこの人に協力しても……いいや、協力しないとこの店も自分も消されてしまう、と恐怖した。
「まぁ、見せてくださるの?」
「どうぞ!! 大変失礼を……いいえ、ご無礼申し訳ございませんでした、サイフォス男爵夫人!」
満足そうにステラは微笑んで、帳簿を確認する。
「あら、複数人いるのねぇ……」
「お品物は即、お返しいたします! いいえ、わたくしめの手垢がついてしまったので、磨き上げてから」
「不要ですわ、お心遣いありがとう。とりあえず今ここに品物を持ってきてくれる?」
「はい!!!!」
店主が引っ込んだのを見て、ステラはじっと帳簿を見る。
あのローレル家のメイド二人が、恐らく手分けしてここに持ってきたのだろう。一つ、と聞いていたがまだこのもう一つある分については、単に調査が間に合っていなかったのだろうか。
しかし手癖の悪い使用人だ、とステラは嫌そうな顔になる。
「……わたくしとミスティアちゃんのお揃いのネックレス。それから……いやだわ、これ、お義母様からの嫁入り道具の指輪……? お義母様がお義父様にいただいた、っていう大切なものを引き継ごうとして嫁入り道具としてあげた、と聞いていたけれど……」
経緯を知らないにしても、主人の物を盗んで売るとはどういう了見だ、と。
しかもこの売りさばいた使用人達は、一応子爵家の令嬢だったり子息だったりしているのだが、ここから彼らは犯罪者のレッテルを貼られて生きていくのか……と思ったステラはほくそ笑む。
「……ご愁傷様、ペイスグリル様もきっと同じく動いておりますわ」
ステラの言う通り、ペイスグリルも勿論のこと動いていたのだがそれ以上に動いているリリカもいる。
周りから、少しずつ。
けれど徹底的に息の根は止める気でいく、というのがミスティアの味方の面々の総意だから。
「さ、紹介状を持っていても再就職できないくらいには潰して、ついでに貴族ならば潰しにかかりましょうね」