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第24話 ただいま、大好きな家族の皆さま

「ただいま戻りました、ミスティアちゃん救出成功ですわ」


 朗らかにステラが宣言し、サイフォス家の扉を開いてご機嫌そのもので中へと進んでいく。

 使用人たちが『お嬢様!』や『お帰りなさいませ!』と皆が声をかけてくれる。勿論ながら見知った人たちばかりで、ミスティアは嬉しそうに微笑む。


「はい、ただいま! ようやく帰ってこれましたわ!」

「ミスティアお嬢様!」


 執事長がミスティアの姿を見て、ほっとしたような表情を浮かべ駆け寄ってくる。


「ディオ! ただいま!」

「ご無事でようございました……! ぼっちゃまがうっかり乗り込みかけたのを、このディオ、どうにか止めておりましたところで……」

「まぁ、わたくし日帰りでここに帰ってきましたのに……」


 むぅ、と不満げにステラが頬を膨らませているが、そこにミスティア帰還を知らされたペイスグリルが物凄い勢いで走ってきた。


「お兄様!」


【ペイスグリル、ミスティア無事ー!】

【ボクら、ミスティアに遊んでもらったー】


「良かった……あのクソ家を今から潰しに行こうとしていたところだ」

「潰しに、って」


 兄の発言を聞いてミスティアは思わず後ずさるが、ステラがむぎゅ、とミスティアのことを抱き締めてくれる。


「あなた、とりあえずミスティアちゃんを休ませてあげませんと」

「ステラ」

「ミスティアちゃん、どうやらとんでもない環境にありましたの、ねっ」

「あー……」


 そういえばそうですねぇ、とのんびりした口調で言ったミスティアは、あの家でされていたことを簡単に告げていく。

 まず、精霊封じのお香によっていつも通りの魔法が使えていなかったこと。

 そもそもずっと眠らされていて、生きている今がきっと奇跡なのだ、ということ。


 それを聞いたサイフォス家の面々は、皆弾かれたようにミスティアをじ、と観察した。


 明らかに、今のミスティアは状態が全般的に良くない。


 使用人達が全員目配せをし、各々頷いて物凄い勢いで持ち場へと戻っていく。


「……ん?」

「ミスティアちゃん、お部屋はちゃんと綺麗だから、ちょっと休みましょうか。起きた途端に動いたから、多分……」

「……あ、駄目です姉様」


 安心したのかふにゃりと力が抜けたミスティアは、そのまま倒れ込んだ。

 ミスティア! と聞きなれた兄の声を最後に聞いた気がする。大丈夫、ここは安心できる場所だから何があっても、ミスティアのことを守ってくれるから。

 それを確信しているから、安心して意識を手放せたのだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ステラ」

「抜かりなくやってしまいましょう。まずは、ミスティアちゃんのアクセサリーを取り戻すところから」

「……何だと」

「あなたがあげたアクセサリーも、わたくしがあげたものも、どうやら使用人が盗んで、売り払って小遣いにしたそうで」


 ステラからの淡々とした報告に、ペイスグリルの堪忍袋の緒はもう切れそうだった。

 あの家の人間は、本当に碌な奴がいない、と改めて思うが、これで遠慮する必要がないことも分かったから一つ収穫だ。


「そうだなぁ、まずはあの家の使用人共を潰そうか。それから、ステラにお願いしたいことがあるんだが」

「何でしょう?」

「ミスティアの子がいただろう、あれに精霊眼は継承されているか調べられるか?」

「ああ、それなら継承されておりませんわ」

「…………ん?」


 仕事が早いな、と思っていたが、ステラは微笑んで告げる。


「風の精霊ちゃんたちが教えてくれまして」

「……ああ」


 そうか、と納得する。

 調べるまでもなく、精霊たちには分かっている。本能とでも言うべきか、ともかく、生まれた子に精霊眼が継承されていないことはラッキーだった。


「あと、息子に関しては引き取らなくても良いかと思います」

「そうなのか?」

「ええ、精霊眼を継承できていないことをミスティアちゃんのせいにしているくらいのクソ……ごほん、性悪な子ですもの」


 今、クソガキ、って言いかけたな……と思わずツッコミを入れかけたペイスグリルだったが、内容を聞いて『ああ、クソガキだわ』と認識した。

 そんな子、ローレル家に置いてくれば良い。

 そもそもミスティア自身、そんな子なら未練もへったくれもないだろうと思ったペイスグリルは、こちらを伺っている使用人達を振り返った。


「どうしたんだ、皆」

「ご主人様、ミスティアお嬢様の御食事についてですが」

「任せる。ちゃんとミスティアが普通に過ごせるようになるまでは、この家で匿う。回復次第、ミスティアのさせたいように過ごさせよう」


【ペイスグリルー!】


「ん?」


 ひゅ、と飛んできたのはいつもミスティアにくっついている風の精霊だった。

 何か心配事でもあるのだろうか、と手を差し出すと、指先にくっついてひし、と抱きついた。


「どうしたんだ」


【ミスティア、愛し子だから、ボクたちの王に会わせたい】


「…………え?」

「ミスティアちゃんが……愛し子?」


 精霊によって知らされた新しい事実に、ステラとペイスグリルは揃って顔を見合わせたのだった。


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