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第23話 残されたローレル家の人たち

 どうにかこうにかランディを助け出したリカルドだったが、まるでスライムか、もしくは巨大な水風船のような何かのようにむよむよとしている水の球を見て、改めて精霊の力に驚かされる。


「何だったんだよ! お父様、何でもっと早く助けてくれなかったんだよ!」


 十歳にもなって地団太を踏みながら怒るランディに、リカルドは困ったように微笑んだ。


「そうはいってもだな、お前はわたしとミスティアの血を引いているんだ。風魔法は得意なはずなんだから、あんな水の球をはじくかなにかすれば良かっただろう?」


 あまりに当たり前のように言われた台詞に、使用人もランディもぎょっとする。

 確かに風魔法を使えばどうにかなったのかもしれないが、まだまだランディは子供だし、そんなにも咄嗟の判断がうまくできるとも思えない。

 まして、ミスティアから強烈な拒絶を食らっているところに、水魔法で追撃されたのだから咄嗟の判断などできるはずもなかった。


「は!? お父様、自分が醜態さらしたくせに子供の僕によくもそんなこと言えますよね!?」

「何だと!?」

「旦那様、ぼっちゃま、落ち着いてください!」


 こんなことをしている暇があれば、さっさとミスティアを連れ戻す打ち合わせをした方が良いに決まっている。

 だが、二人の言い争いは続いた。


「大体、メイドたちの手癖があんなに悪いだなんて思いませんでした! 確かに僕だってお母様を除け者にしていたけど、他人の物を盗んで売りさばいて小遣いにするなんてどんな神経してるんですか!」

「なんだ、嫁のものはうちのものだろう?」

「なら、お父様のものはお母様の家のものですよね!」

「は……はぁ!?」

「そのバカみたいな言い訳をするなら、お母様だってそういう筈だ!」


 いや、言う以前の問題で、興味すら示さないんですけど……と、きっとサイフォス家の人がいれば、ツッコミを入れたに違いない。

 それにも気づかないこの親子はぎゃんぎゃんと言い訳しているが、メイドの手癖の悪さを今更知った執事長は真っ青になる。


「お前たち……訴えられたらどうするつもりだ?」

「え……」

「結構遠くで売り払ったし……」

「……足、つきますかね……?」


 一斉に動揺し始めたメイドたちの言葉に、執事長は愕然とした。

 むしろ、ここまで頭の軽い馬鹿だらけだったのか、と大きくため息を吐いた。


「え!?」

「あたしたちそんなヤバいことしてます!?」


 サイフォス家を舐めているのはリカルドもランディも同じだが、どうしてたかが使用人風情が舐め切れるというのか。

 そもそも、今の当主であるミスティアの兄、ペイスグリルは相当広い人脈を持っている。

 もしも彼が本気を出せば、誰が、どこから持ち込んだ代物で、そも品物がどんな曰くが付いているのかまでを徹底的に調べ尽くすだろう。


「おい執事長、そんなに気にしなくても……」

「……こちらが出した手紙が偽造だと知れれば……どうなりますか?」

「……」


 あ、と小さく情けない声が聞こえた。

 リカルドとミスティアの結婚だって、まともな契約とはいえないものを無理矢理になし得たもの。原因のサイフォス家先々代はきっちりと責任をとった、とも聞いている。

 ミスティアがこの家にいたから、サイフォス家が何もしてこなかっただけであって、彼女が帰れば人質を取り返したもほぼ同義。


「ミスティアは……」

「もうとっくに逃げました!」


 精霊に愛され、精霊眼を持っているあの人が離縁したとなれば、子供はいらなくても彼女だけでもどうにかわが手に!と婚姻を申し込む男が多いことも何となく想像ができる。

 ミスティアにとっての離縁とは、この家から逃げ出せるだけではなく、自分を利用してきたバカとの縁切りができるだけでもない。このローレル家の家を断絶できるほどの恐ろしさを持ち得ているのだ。


「お母様に謝らないと!」

「そ、そうだな!」


 どうにかしてサイフォス家に謝罪を!と奮起する皆がいる一方で、ランディはミスティアに言われたことをハッと思い出した。


「……僕には……精霊眼が……ないんだよな……」


 それを受け継ぐことを望まれて生まれてきた、と祖母から聞いている。

 もしも受け継がれていないことが知られたら……自分の存在価値は何なんだろうかと、ランディはぐっと拳を握りしめた。

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