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第22話 面倒なのがやって来る前の脱走劇

「…………」

「………………」


【ミスティア、今がチャンスだと思うんだけど】

【風に乗って前みたいに飛んでいく?】


「……姉様」

「……ええ」


 呆然として座り込んで、ぼとぼとと涙を零すランディを見ても、ミスティアは特に何も思えない。冷たい、人でなしと思われようとも、全てをこちらのせいにしてくる十歳の子供だなんて、ちょっと手に負えないと思うし、この家でいつまでも仲良く過ごせばいいと思う。

 だから、ステラに目配せをして双方頷き合うと、風の精霊にも目配せをした。


「お願いね」


【はぁい!】


 風の精霊たちは元気よく返事をして、ミスティア、ステラ、それぞれにくっついていた面々がぱん!とお互いの手を合わせる。


【風の道を、今ここに!】

【ボクらの愛し子を、いざ運ばん!】


 閉じられていた窓が風によって、ひとりでに思いきり開く。

 のろのろと顔を上げたランディの目に入ったのは、ふわりと体を浮かせたミスティアとステラ。まずい、と察したのか手を伸ばして駆け寄ろうとするがペイスグリルから借りてきた水の精霊が、濡れないもののとんでもなく重たい水球を出現させて、ランディの上にのしっ、と落とした。


「うわぁ!?」


【追いかけてこられても迷惑なんだよ!】

【ステラとミスティアが逃げるまでそれに押しつぶされとけばーーか!!】


「お、重い……」


 じたばたともがいているランディには目もくれず、ミスティアとステラは慣れた様子で勢いをつけてそのまま飛び立った。


「姉様、馬車なんじゃ」

「あらうっかり! ミスティアちゃん、そのまま馬車のところへ!」

「はーい」


 小さい頃から風の精霊に力を貸してもらい、風魔法を操っている間にいつの間にか浮遊魔法を覚えていたこともあり、ミスティアはこうして飛ぶことに抵抗などなかった。

 むしろ、こうして飛べることによってストレス発散をしたり、精霊たちと遊んでいたりもした。久しぶりのこの感じを楽しまなければ、と感じたミスティアはドレスであることも忘れ、くるりと回転して、楽しそうに笑って馬車の停めてある場所へとふんわりと着地した。


「ミスティア様!?」

「まぁ、お久しぶりね!」

「わたくしもいるわ~」

「す、ステラ奥様! ご無事ですか!」

「無事じゃない、だなんてないでしょう?」


 ぱちん、と可愛らしくウインクをしたステラを見て、御者はほっと一息つく。

 屋敷の中での騒ぎの主を探していることは間違いないようで、何やらざわついているし、こちらを見て『あそこだ!』と叫んでいるような声もしている。


「あら、いけない」

「さすがにバレちゃったけど……急ぎで馬車を出してくださる?」

「勿論です! ささ、お乗りください!」


「ミスティアー!!」


【来んなし】

【マジで邪魔!】


 そう言って精霊たちは玄関から猛ダッシュしてきているリカルドを見るやいなや、風・水属性の攻撃を容赦なく叩き込んでいる。


「うわ、っ……ぶ!」


 水の大きな球に閉じ込められたリカルドだが、気合というか火事場の馬鹿力でどうにか拘束を解いて脱出し、全身ずぶぬれ状態だったのを自分の風魔法を使ってどうにか乾かす。

 だが、それをじっと観察していたミスティアの精霊たちがにんまりと凶悪に笑う。


【そーんな馬鹿に力貸してるんだー。ミスティアが愛し子なのに、愛し子に危害を加える愚か者に、へぇ~~?】


 その一言が聞こえたのか何なのか、リカルドが続いて風魔法を展開した、らしいが出てきたのはそよ風。


「あ、あれ……?」


 リカルドもランディもぽかんと間抜けに口を開いているが、ミスティアとステラはどうしてこうなったのか理解できたらしく、物凄く納得している。


「あなたたち、とっても良いお仕事だわ! 帰ったらミスティアちゃんとわたくしといーっぱい遊びましょうね!」


【やったー!!】


「な、な……なん、で?」


 自分の手を見て信じられないと震えるリカルドに、ランディがじたばたと暴れながら必死に訴える。


「お父様が魔法使えないとかどうでもいいから僕を助けてよ! 水魔法に適性が無いから逃れられないんだってば!」

「え、あ、ランディ!?」


「気付くの遅過ぎですわよね」

「自分のご自慢の息子なのに……その程度、ってことね……」


 はぁ、とため息を吐いたミスティアとステラは自分たちの精霊と共に早々に馬車に乗り込んだ。御者には『風の精霊が手助けしてくれるから、馬車の速度速くなるから』と伝えておいたので、御者も心の準備が出来たらしい。

 ついでに、馬には精霊が気を紛らわせるかのように数人付き添っている。動物とこういった精霊同士は仲良しらしく、いつの間にかそこそこな速度になっているが錯乱状態にはなっていない。

 きっと実家の厩舎で遊んだりしているんだろうなぁ、とミスティアはのほほんと実家までの馬車の速度を楽しんだのだった。

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