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第21話 爆弾発言(この隙に逃げたい)

 呆然と床にへたり込んでいるランディをちらりとだけ見たミスティアだったが、気にかけている暇はない。

 とりあえず、と辛うじて残された装飾品の数々をささっと回収して、ステラがドレスは何があるのかとクローゼットを開いて、嫌悪感を丸出しにした。


「姉様?」

「なぁに……これ」


 まともに社交界に出ていけるドレスなんかない。

 形落ちしたデザイン、明らかに『これは普通に着ないだろう』というダサいにも程があるデザイン、ミスティアには似合うはずもない色。

 あげればきりがないが、とんでもない状態だ、ということだけはすぐに分かった。


「こんな状態で……ミスティアちゃんは過ごしていたの……?」

「そうです。おかげでとっても笑いものにされ続けておりまして」

「やっぱりお買い物が先よ!! こんな布切れ、ミスティアちゃんが持って行く必要なんかないわ!」

「今着ているドレスと、実家から持ってきたドレスは死守しましたのでそれさえ回収できれば……あったあった」


 のほほんとした様子のミスティアを見て、ステラは勝手に『健気な義妹……!』と思っているのだが、実際ミスティアはさほど気にしていなかった。

 確かに当初は辛くて仕方なかった。


 でも、今は違っているではないか。


 大好きな家族が味方で、義姉も自分を大切にしてくれているのだから、自分はとんでもない果報者だとしみじみ思う。

 当たり前だが、この間、ランディのことはフル無視をしているので何がどうなっているのかは知らないし興味も持てない。


「姉様、完了です!」

「なんて早い荷造り……」


【ミスティア、つらかったねぇ】

【ミスティア、帰ったら気晴らしにボクたちと遊ぼうね】


 おいおいと泣き喚く精霊たちは、本当にミスティアのことが好きなんだと分かる。

 ステラはそんな精霊たちを『大好きなミスティアちゃんを慰めてくれるだなんて、なんていい子達なの……!』と感動しているのだが、次いだ台詞にミスティアは硬直した。


【ついでにちょっとこの部屋の中のもの、ふっ飛ばして庭に捨てよう?】

【だってこれゴミだし】

【ねー】


 きゃっきゃと話しているのだが、ミスティアは困ったように微笑んで一応注意をした。


「駄目よ、ゴミを増やしてお掃除が大変になってはいけないわ」


【ゴミ放置よりはいいかな、って】


 てへ、と精霊はおちゃらけている。


 なお、このやり取りも何もかも、ランディには見えていない。

 どうして見えないんだ、きっと母親であるミスティアは精霊と会話をしているだろうというのに。自分が見えないのはおかしなことだ、とぐぐ、と手をきつく握った。


「……おかしい……」

「はい?」


 もうミスティアは荷物を済ませた。

 化粧品は捨ててしまえば良い、それこそ再起不能なまでに叩き壊していけば、メイドたちに再利用もされないだろうから安心だ、と考えていたところに何なのだろう、とミスティアもステラもはて、と首を傾げた。


「何がです?」

「どうして僕には何も見えないし何も聞こえないんだ!」

「……」


 これ本当のことを言っても良いのだろうか、とミスティアは悩む。

 ステラはさっさと現実をもっと叩きつけて、メンタルをぼこぼこにしてやれば良いのでは、と物騒なことを考えているのだが、口に出さないので誰も気付かない。


「精霊眼ってもうそろそろ発現するはずなんでしょう!? 僕、もう十歳なんだけど!? お母様はどこまで役に立たないの!?」


 ぜぇはぁと荒い呼吸を繰り返し、ミスティアを睨みながら気丈にも怒鳴ってきたランディを見たミスティアだが……。


【才能ないからなのに、何寝言ほざくんだこのクソガキ】

【だめだよ、一応ミスティアの子なんだから】


「……ええと、そんなの簡単に答えに行きつきませんかね?」

「は!?」


 段々怒りの方が大きくなってきているらしいランディを見ても、ミスティアは冷静なままだ。

 どうしましょう、とステラに目で問うが『もうばらせばいいと思うの』という雰囲気のことが伝えられた。まぁいずれは知るわけだし、と思ったミスティアはしれっと告げた。


「精霊眼がないんですって、あなた」

「…………え?」


「あら」


【ミスティア、はっきり言ったあ!】

【事実だし仕方なくない?】

【それはそう】


 風の精霊も水の精霊も、うんうんと頷き合う。

 精霊眼は早ければ三歳くらいでも発現する。そう、ミスティアのように。


 相性、天性のスキル、色々と言われているのだが受け継がれるための明確な何か条件は分かっていないから、精霊眼が発現した人を手に入れようとしたがるのだ。

 ランディはきっと自分にも、という期待を抱いていた。


 ――だが。


「私があなたと同い年くらいの時には、とっくに発現しておりましたので……どうしようもないんですよねぇ」


 ミスティアがあまりに明るく普通の声で言ったものだから、ランディは呆然とすることしかできなかった。

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