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第15話 引き留めないととってもマズいけれど

 嘘だろう、と呟いたリカルドのところに、執事長が駆け寄ってくる。


「旦那さま、一体何がどうされたというのですか!」

「……我が子に……ランディに、精霊眼が……受け継がれていない」

「……え?」


 執事長も、リカルドも、信じられなかった。

 いいや、信じたくなかった、というのが本当かもしれない。


 我が子に、どうして精霊眼が引き継がれていないというのか。


 そもそも、才能は引き継がれて当たり前だと思っていたからミスティアを娶ったというのに、というところまで考えていたら、こちらを無表情で見つめているステラとばっちり目が合う。


「……身勝手極まりないクソ男ですこと」


 まるで考えを読んでいたかのように呟かれた内容は、そこに居た全員が聞くこととなり、メイドたちが一気に怒ったのが分かった。

 古株のメイドが怒鳴りつけようとしたところで、ステラの精霊がそのメイドを思いきり吹き飛ばした。


「きゃあ!!」


【ボクのステラに何言おうとしてるんだコイツ】


「あら、物騒な気配を感じたの?」


【うん。とりあえず吹っ飛ばした】


 おりこうさんねー、と笑っているステラだが、普段はここまで怒り狂わないし、精霊が勝手をすることだって許さない。

 だってここはステラの愛しい愛しい妹をいじめたクソ野郎の巣窟なのだ。

 そんなところで手心を加えてやるほど甘くもないし、何ならメイドを吹っ飛ばしたのは序の口。ステラもステラの精霊たちも、この屋敷全壊させてからミスティアを助けたいという気持ちしかないのだから、これを知ったら一体屋敷の人間はどのような顔をするのだろうか。


「ステラ姉様、精霊ちゃんが物騒なんですが」

「普通よ」


【普通ー!】


 おおうマジか、という心の声はそっと呟くだけに留めたものの、ステラもステラにくっついている風の精霊も、確かに悪いことはしていない。

 自分から喧嘩を吹っ掛けたのは門を破壊して門番を吹っ飛ばしたくらいなのだ。


【ミスティア、これ普通。大丈夫だよ】


「あなたたちまで!?」


【大丈夫大丈夫】


 ミスティアにくっついている精霊もうんうん頷いている。

 何せ彼らは愛し子大好きさんたち。特にミスティアにくっついている精霊たちはミスティア激ラブなのだから、まぁこの発言は当たり前なのだが、他の人からすればとんでもない発言の嵐なのだ。


 現にリカルドは顔を引きつらせているし、吹っ飛ばされたメイドは何かを思いきり叫んでいるようなのだが、音が伝わらないように的確に空気の振動を操っているものだから、ミスティアたちには聞こえていない。


「(くそっ……ミスティアを実家に帰すわけには……!)」

「旦那様、ぼっちゃまに精霊眼が受け継がれていないのは大奥様は……」

「知るわけないだろう! お母様が知ったら卒倒ものだぞ!?」


 それはそうだ。

 セレスティンがもし知れば、烈火のごとく怒り狂うのは間違いないのだが、まだ幸いにして知られていないのでこのまま黙っていればいい。

 だが、メイドがうっかり口を滑らせてしまえばどうなるか。

 考えただけでリカルドはゾッと震え上がった。


「くそっ……どうしたら良いんだ……」

「ひとまず、奥様に離縁を考え直してもらうよう説得しては!?」


「あら、聞こえておりましてよ?」


「「!?」」


 ステラの声が、執事長とリカルドの会話にぶっ刺さる。

 嘘だろう、と頬を引きつらせる二人なのだが、メイドたちが敵意むき出しにしているのはどうにか対処しないといけない。執事長もリカルドもそれにはまだ気付いていないので、割とヤバいのだが。


「ここの家のメイドの質の悪さと来たら! そちらが無理矢理頼み込んできた婚約なのに、よくもまぁここまで大きな態度が出来ますわね……」

「ステラ姉様、仕方ありません。でも、もうそれも終わりますし放っておきましょう?」

「それもそうね」


「ちょっと! 何勝手なこと言ってんですか!?」


 一人のメイドが、ずい、と前に出てきた。


「アンタの知り合いのせいで、この子大怪我するところだったんですよ! あーあ、これは慰謝料もらわないとー!」

「そうよそうよ!」


 ゲラゲラと笑っているメイドだが、ミスティアははて、と首を傾げてメイドに問いかけた。


「えぇと……あなた達の管理をしているのは一応私なんですが……雇い主に無体を働く馬鹿を、許せる雇い主がいるならば是非ともその顔拝みたいんですけど」


 あっけらかんと言われた内容に、メイドたちはぎくりと硬直した。


「世話もしないメイドに無駄金をこの家は出している、と。そういうことになりますけれど……まぁでもいっか。私そろそろ無関係になりますし!」


 まずい、と思ったけれど遅い。

 ミスティアの中では離縁はとっくに確定しているのだから、引き留めるもクソもないのだ。リカルドと執事長の想いは、ここで見事に打ち砕かれてしまったのである。

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