第14話 割と容赦ない
容赦なくリカルドの手首を殴りつけて手を離させて、ミスティアを解放したステラだったが、歩きながらきょろきょろと邸宅を見回していた。
「姉様、どうしたんです?」
「いえ、ミスティアちゃんがどんなところで住んでいたのかしらって思って見ていたんだけれど……そもそも、あんなところに閉じ込められていたんだから、住んでいるも何もないわね、って思っていたところよ」
思わずあー、と納得したようにミスティアは呟いた。
実際、ミスティアがしっかりとした部屋で過ごせていた期間はあまりない。
「とりあえず私は実家に帰りつつ、離縁出来たらそれでいいんですけれども」
【ミスティアの扱いについてボクらはぜーんぜん納得いきませーん】
【ボクらの愛し子に対しての行いの数々を後悔させないと気がすみませーん】
「あっ」
しまった、とミスティアが思うのとほぼ同時、ステラがにっこりと笑っている。
微笑みの強さというか、笑顔の種類がステラは尽く違うから、今のこの微笑みはとてもタチが悪いものだとすぐに理解出来た。
というか、これは『絶対許さないからな』という怒りマシマシの笑顔。
「あの、姉様」
「どぉんな扱いをされていたのか、教えてくれるかしら、精霊ちゃんたちー?」
【はいはーい!】
元気のいいお返事だが、今は求めてない!と叫びたくなったミスティア。
なお、この二人は会話をしながら歩いているのだが、ミスティアがここまで感情を出せると知らなかった使用人たちがとんでもなくザワついているのだが、本人達は気づいていない。
「どんな扱い、というか……まぁ、えぇと」
【ミスティアのこと家族じゃないとか言ってた】
【あと、ミスティアの家からお金むしり取ってた】
「はぁ!?」
「あの、姉様」
「許すまじ、ですわ」
【あとねぇ】
【ミスティアの息子、ミスティアの血は引いてるけど精霊扱えない】
「……え?」
怒りに満ち溢れていたステラだったが、ふっとその怒りが霧散した。
「ミスティアちゃんの子供なのに……?」
「わたくしの子だからと、確実に精霊を操れる能力があるとは……」
「ミスティアちゃんの子なのに?」
さっきと言ってること同じですが姉様、と心の中で突っ込んでいると、ステラは心底深い溜息を吐いた。
「才能って……後で開花することもあるけれどほら、親から引き継がれることだってあるじゃない? 精霊を扱えないばかりか、いやちょっと待って」
「はぁ」
「精霊眼は?」
【使えない】
【役立たず馬鹿】
ひどい言われようであるが、精霊の認識というものはこんなものなのだ。
しかもミスティアが愛し子であるが故に、精霊側だって期待したのだ。きっと我らが愛し子の子供ならば、その子供は素晴らしい精霊の扱い手になるのでは、と。
結果はお察し、なのだが。
「はーーーーーーーー役立たずなことこの上ないですわね」
【ものは考えよう】
【サイフォスに迷惑かけないならそれで良いんじゃん?】
軽い。
精霊の口調は、とんでもなく軽い。
サイフォス、つまりミスティアの生家に迷惑さえかけなければいい。
自分達の愛し子が無事で、健やかであればそれでいいのだ。
なお、ミスティアがしばらく何もできなかったことに関しては全面的にミスティアの味方なので、精霊たちはきゃっきゃとミスティアの周りを飛びながらどうやって報復するか話し合っている。
「こんな物騒な子たちだったかしら」
「元来、精霊なんて身勝手なものよ」
「それはそうなんですが……」
「ミスティアちゃんが愛し子だから余計に執着して溺愛しているというか」
やだ何それ、とミスティアが小声で言うがしっかり聞こえていたらしい。
【だってミスティア、精霊の王に愛された家に生まれた子】
【ミスティアの力、サイフォスの初代くらいすごい】
「へ?」
「あらまぁ」
精霊たちからほいほい出てくるミスティアが知らなかった事実に、ミスティアもステラも目を丸くするが、それ以上に驚いたのは少しだけ精霊を認識できるリカルドだった。
「何で……そんな……」
ここまでの精霊の暴露をうっかり聞いた彼は、容赦のない現実に打ちひしがれたのだったが、時すでに遅し、であったことにようやく気が付いたのだった。