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第12話 知っちゃった

 馬車が到着し、悠々と降り立ったステラはじっと屋敷を見上げる。

 ここに義妹がいるのね、と嬉々とする一方で、虐げていたら何が何でも容赦しないからな、と心に決めれば精霊たちも呼応するようにきゃっきゃとはしゃぎまわる。


【ここ、ミスティアの気配する!】

【ミスティアに遊んでもらう!】


 風の精霊たちは遊んでもらう! と喜んでいるのだが、目に宿る光は本気そのもの。

 何かやったら全員消し飛ばしてやる、という本気っぷりが見える、何ならそれしか見えないのが厄介すぎるポイントでもある。


「さぁて、参りましょうか」


 こつ、とヒールの音を鳴らして歩いていく。

 ステラが歩いていき、門番が『誰だ!』と止めるがにこりと笑って問いかけた。


「わたくし、ここの夫人であるミスティア・フォン・ローレルの義姉です。家族に会いにくることに理由など必要かしら?」

「え……?」

「奥様、ってあれだろう? あの『役立たず』……」


「へぇ?」


 ぶわ、とステラの殺気が放たれ、瞬間的に魔力も膨れ上がり、門番二人ともが門扉へととんでもない風圧で押し付けられる。


「ぐあ……!」

「なん、だ、これ」


 薄ら微笑むステラからは遠慮なく殺気が放たれ、彼女を取り巻く精霊たちもじりじりと殺気を高めていっている。


【ミスティアのことを、役立たずって言った】

【真空にしてやろうかな、コイツの周り】


「それやる前に、この無駄に大きな門を吹き飛ばしてくれるかしら、かわいこちゃんたち」


【はーい!!】


 門番に対して殺気を放っていたが、そもそも門番がミスティアに対してこんなバカげた認識をしているのだから、余程命が要らないのだろうな、とステラは判断した。


 決して許さない。

 許してなんかやるものか。


 大切な家族を、義妹を、軽んじた馬鹿なんか、どうなろうが知らない。


 ローレル家の門は、精霊たちの風魔法により、歪に形を変えて邸内の方へと門が吹き飛んでいく。

 がごん! ととんでもなく大きな音が響き、続いてがらんがらん、と少しだけ余韻が響いて、もう門は役目を果たすことは出来ない。


「……門番ごときが、可愛いミスティアちゃんを『役立たず』ですって……?」


 こつ、と一歩、歩みが進む。


「ということは……そうやって教え込んだ馬鹿がいるということでしょうからねぇ……」


 こつ、こつ、とステラが歩くたびにヒールの音が響く。

 そしてローレル家の中では、敵襲か、いいやおかしな気配はないぞ!など、混乱が広まりつつあったのだが、ミスティアだけは窓から様子を見ていた。


「あらぁ、ステラ姉様だわ。とってもお久しぶり」


【ステラ来た!】

【ねぇミスティア、ペイスグリルの水の精霊の気配もするよ!】


「え、お兄さまの精霊もいるの? でもいきなりどうしたのかしらね」


【さぁ……】

【何で来たんだろうねぇ?】


 はて、とミスティアと精霊たちは仲良く揃って首を傾げている。

 来る用事って何があったんだろう、と思って少し考えるが、ここ最近手紙もろくに送れていないのでステラがやって来る理由が本当に分からない。


「とはいえ、私帰るまではここに引きこもること決めちゃったわけですしねぇ……。相手しなくても良いかしら」


 のほほんとしているミスティアや精霊たちなのだが、ローレル家の中はまさに大混乱、である。

 いきなり知らない女性がやって来て、門をぶち壊して入ってきているのだから、これは恐怖以外の何物でもないのだが、ミスティアはどこ吹く風。

 何故なら突入してきた人を知っているから。あと、突入してきた人に関しては『何で来たんだろう』くらいの感覚でしかないので、仮にやって来たとしても『どうしました?』と聞けば良いし、くらいしか思ってない。


「どうしましょう、私お出迎えした方が良いのかしら」


【でもステラのことだから、来るならミスティアに連絡すると思うー】


 だよなぁ、とミスティアも精霊も悩んで『うーん』と唸り声をあげてしまう。


「ミスティア!! 助けてくれ、ミスティア!!」

「……旦那様とかいう人じゃないですか……面倒……」


 閉じこもって以来、一番聞きたくなかった人の声だ、とミスティアはげんなりしてしまう。

 どうしてこの人の声が、しかもミスティアに助けを求めているのか。


「面倒だけど……応答くらいはしましょうか……」


 のそのそとミスティアは座っていた椅子から立ち上がり、ドアを内側から叩いて、声をかけてみた。


「何でしょうか」

「お願いだ、助けてくれ! あの人は君じゃないとどうしようもないんだ!」

「……えぇ……」


 面倒くさい、と声にも乗せて返答すれば、どうやら本当に困っていいたらしいリカルドから、ドンドンと扉を叩かれる。


「君の義姉だろう!? そして俺たちは家族じゃないか!」


 なぁ頼む!と懇願してくるリカルドだが、必死な様子だったのがひっ!と情けない悲鳴が聞こえた。


「へぇ……ミスティアちゃんはこんな貧相なところに閉じ込められていますのね……?」


 その直後に聞こえた、きっとリカルドにとっては鬼。ミスティアにとっては救いの女神、ステラの声。


「これ、死人が出ちゃうかしら」


【出るかも】

【ミスティアはボクたちが守るね】


 そういった風の精霊の心強さは、とてつもないな、とミスティアはしみじみ思ったのであった。


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