第11話 道中、思うこと
ミスティアとステラは、ステラとペイスグリルとの結婚式で双方きちんと会った。
顔合わせのときには会っていたけれど、ステラは将来の義妹にはさほど興味がなかったのが本当のところだったりする。
それに、ミスティアとのタイミングも何となく噛み合わずに、ペイスグリルと会っているとしても家で遭遇しなかったりしたから、会話の機会があまりなかったのだ。
「もっと早くミスティアちゃんに会っておけば良かったわ」
【どうして会わなかったの?】
「あんまり興味がなかったの」
【何で?】
何で? どうして? と精霊たちは不思議そうに問いかけてくる。
「そうねぇ……」
昔を思い出しながら、ステラは語り始めた。
「まず、仲良くなりたい、って思ったきっかけなんだけど……わたくしとミスティアちゃんが、たまたま二人きりになったことがあってね」
ふふ、とステラは笑う。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――居心地が、とても悪い。
ステラはもぞもぞと居心地悪そうに身じろぎをしてしまう。向かいに座るミスティアは、静かにお茶を飲んでいる。何とも対比的な二人だ。
ミスティアとステラ。
将来家族になるのだから、別に二人で会っていても話すことが思い浮かばない。
「あの……ミスティア嬢、別にわたくしの相手などしなくとも……」
「いいえ」
遠慮がちに言ったステラだったが、はっきりとミスティアに否定された。
即答だったこともあり、余計にステラは驚いた。
「え……」
「私、是非お話してみたかったんです。だって、ステラお義姉様は風属性の精霊たちととっても親和性がお高いでしょう?どのような術をお使いになるのか、とか……色々とお話したくて!」
キラキラとした目で言われ、ステラはあの時程こう思ったことはない、と未だに言う。『なんてわたくしはちょろいのでしょうか』と。
しかし、精霊の加護を得ている者としては、そういわれるととても嬉しい。
同じ属性で、ミスティアはかなりの使い手だとも聞いているけれど、義理の妹になるというだけで、どことなく警戒していたのかもしれないな、とステラはほんの少しだけ苦笑いを浮かべた。
「……あの、ステラ様。もしかして、私は何かお気に障るようなことを……?」
「……いいえ、違うの」
馬鹿よね、と笑って前置きしてから、ステラは正直に胸の内を吐露していく。
「わたくし、勝手にミスティア嬢に対して身構えてしまっていたみたいなの」
「はぁ……」
「ほら、義姉だとか義妹だとかって、色々あるでしょう?」
「ああ、確かに」
言われてみれば、と頷いたミスティアは思わず笑ってしまった。
だからステラの様子が自分と会う時は、少しおかしかったのか、とここでようやく理解したのだ。
「勝手な思い込みを持っていて、ごめんなさい」
「いいえ。これからは……あの、ミスティア嬢、などではなく……」
「え?」
「その、姉妹になるのですし……えっと」
もごもごと何かを言い淀んでいるらしい様子のミスティアを見て、ステラはにんまりと笑う。ああ、この子は何て可愛いのだ、と顔が緩んでしまって仕方ない、と思いながら思いきり立ち上がってミスティアをぎゅうっと抱き締めた。
「やだもう可愛い! これからはミスティアちゃん、って呼ぶわー!」
「あ、えっと、はい」
嬉しそうに頷いたミスティアと、更に嬉しそうに微笑んでいるステラ。これまで一体何を悩む必要があったのか、と思うくらいに呆気なく仲良くなれた。
そこからは、色々ととてつもなく早かった。
『いつの間にそんなに打ち解けたんだい!?』とペイスグリルに驚かれたり、一緒に出掛けるようになってからはステラの両親にも『あらまぁ、ミスティア嬢にやたらと敵対心を持っていたのにねぇ』と言われたステラが『ちょっと御黙りになって!』と騒いだり、ミスティアの両親も『義理とはいえ、姉妹仲が良好なのはとても良いことだ』と喜んでくれたり。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「っていうことがあったの」
【人間って思い込み強いよね】
【そういうの良くない】
【ヘンケン無くなって良かったね】
「……ねぇ、どこで偏見、だなんて言葉を覚えてくるのかしら!?」
うっとりと思い出を語り終えたステラに呆れている精霊、という何とも不思議な光景だが、馬車に乗っているおかげで外からはほとんど見えていないのが幸いだろうか。
騒がしくも愉しい道中、という状態でステラは馬車に揺られる。
ミスティアがいるローレル伯爵家まではさほど時間はかからないはずだから、精霊と戯れつつ到着を待った。