プロローグ
WFE【ワールド・ファンタジー・エルサレム】。
ソフトの帯には 経験を駆使して世界中にあるダンジョンを攻略し、ゲームの歴史を創る場所 聖地〚終焉の遊戯場〛を目指そう と書かれている。
そう、PRから読み取れるようにWFEのジャンルは異世界RPGである。
しかも、ただの異世界RPGではなく体験型RPGとしても販売されている。
世界中のオタクたちが『ついに漫画やアニメの世界が体験できる!』と瞬く間に注目を集めた。
今から約10年くらいに開発された〚ファウノン〛と呼ばれるメガネ型デバイスを装着することによって、ゲームの世界が疑似現実に変わることが可能になった。
そんなWFEのプレイヤーの一人である四条ユウマはプレイヤー名【ユーマ・シリアス】としてゲームを楽しんでいた。
彼はWFEの初期プレイヤーであり、ゲーム内では五大色の一人である。
五大色とはプレイヤーランク1000以上かつ英雄級の活躍を成し遂げる5名に与えられる称号である。
WFEでプレイヤーランクを100上げるのに一般的な人は1日4時間やったとしても最短3ヶ月はかかる。
そのためプレイヤーは五大色に敬意を称して二つ名をつけている。
そしてユウマには 漆黒を歪ませる者を殲滅する【終焉の漆黒】と呼ばれていた。
現在、ユーマは終わりの地〚終焉の遊戯場〛に五大色であるミーヤ、ラクノス、カイト、アヤメと攻略に来ている。
ミーヤ…デバフや回復系統を専門とする補助者
ラクノス…罠設置や身体妨害、戦闘援護を専門とする暗殺者
カイト…物理攻撃や雑魚敵の一掃を行う戦闘狂
アヤメ…魔法妨害や魔法支援、攻撃を専門とする賢者
ユウマ…前線では魔法や剣術を駆使して暴れ、後衛では支援や調合などを行う全能者
最強かつ、バランスの取れたパーティーである。
〚終焉の遊戯場〛には〚マギ〛という自称AIが居る。
初代到達者によるとそのボス自ら名乗ったそうだ。
マギは俺達人間と同じ姿、言語、知識を扱っている。
だが、決定的に違うのが戦闘技術だ。
全プレイヤーのデータを分析、学習している。
まるで全てを否定する力を持っていそうということで別名【神殺し】とプレイヤーから呼ばれている。
「これで何組目なんだか・・・」
「そうか」
「お前らも俺を討伐しに来たのか?」
「そうだ」
「いいだろう、我が名はマギ。パーティー名は?」
「五大色だ」
「五大色、さあ楽しませてくれよ!!」
「ミーヤは回復、バフ頼む!カイトとアヤメは敵の妨害、ラクノスは召喚される雑魚敵の駆除を!!」
「「「「了解!」」」」
さすがWFE内ラスボス、攻撃があまり当たらない。
それどころか戦闘を楽しんでいやがる。
この感じだと長期戦はこっちが不利になるだけか。
こうなると、序盤でアレを使うべきなのか?
「今までのプレイヤーよりも結構強いな」
「そりゃどうも」
「でも、長期戦はお互いに不利だろう」
「!!」
「悲しいがここでお前には死んでもらう」
マギの背中にに白いオーラが現れ、目は白く輝いているだと?
まるで何か準備しているような・・・。
今までの到達プレイヤーからは切り札らしき報告は来ていないはず。
いや、コイツが今までの戦いを遊びとしていたら?
切り札の一つあってもおかしくはない。
魔法だったらアヤメがなんとかできるが、もし戦闘補助系だとしたら非常に厄介だ。
「アヤメ!魔法に注意してくれ!」
「了解です!」
「ミーヤは俺に神格魔法である【偽神化】の準備を」
「【偽進化】って、いくらゲームとはいえ精神面的に危ないですよ!」
「わかっている!だが、それ以外にいい方法が思いつかない」
「わかり・・ました」
【偽神化】、神の試練でミーヤが手に入れた最強級の魔法の一つ。
【偽進化】は対象の職業を対象が加護を受けた神に最も近い職業である【偽神】に変える。
そうすれば、この自称AIと互角に殺し合いができるかもしれない切り札。
「神格魔法【偽神化】!」
「我が漆黒にして厨二病を司りし神———」
「失望したよ、今まで挑戦してきた者ですら詠唱をしようとする馬鹿なんていなかった。よって死ね!」
マギがユーマに無詠唱で【魔砲】を放つ。
しかし、カイトたちによって阻まれた。
「ッ!」
「こういう馬鹿を守ったりするのが俺達の仕事なんでね」
「おいクズ!こっちだ!殺してみやがれ!」
カイトが【挑発】を使用しマギの意識をユーマから離す。
アヤメもマギが発動しようとしている魔法全てを無効化している。
「——全てはユメを叶えるため!偽神【異世界を司る神】」
「クソ!私としたことが・・・」
詠唱が終わると、ユーマの背中に黒い翼と頭に黒い天使の輪が現れる。
そこに加え、目の色が黑から赤色に変わった
まさに厨二病の象徴というべき姿である。
「勝負だ、マギ!」
「いいだろう。では、神変改革【全ての始祖】」
辺りに強い衝撃波が走る。
次の瞬間には2人共消えていた。
いや、消えているように見えていた。
実際はお互いに超高速で攻撃し合っている。
その姿は本当に神々の衝突のようだ。
これでは勝てない。
負ける?終焉の黑という名にそんな恥を書くわけにはいかない!
より強く!より早く!神よりも強く!!
「「死ねぇぇぇぇ!」」
次の瞬間、お互いに静止していた。
そして、マギが生まれ仰向けになって倒れた。
そう、ユウマがマギに勝ったのだ。
「クソ、認めたくないが、お前はいい戦闘センスを持っている。ユーマ、一つだけ助言をしておこう」
「ツンデレか!お前は。それで、なんだ?」
「お前・・・、ツンデレの意味分かって言っているのか。とりあえず、そろそろお前の眼の前にヤツが現れるだろう。もし現れたら決して全てを信じるんじゃないぞ」
「おい、それはどういう―」
「まあ、少ない時間を大切にな」
息絶えたか。
少ない時間?それにヤツって・・・。
今度はどんなイベントだよ。
「あの?ユーマさん?大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だよミーヤ。少し体が動かないだけでしばらくすれば大丈夫だと思うよ。」
こうして神殺しとの戦いが終結した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ゲームクリアを祝って、乾杯!」
俺達は今ゲーム内にある酒場にて打ち上げ中である。
ゲーム内の酒場なのでリアルに帰ったら酔は消えてしまうかもしれないが。
「最後のスキル合成、すごかったじゃないかユーマ」
「そんなことないですよ、アヤメさん。アヤメさんこそ、魔法のレジストを常に行っていたわけですからとてもすごかったですよ」
「そんなこと言ったらカイトの方がすごいじゃないか。あの子一人でボスの物理攻撃を止めているし。」
「はぁ!?俺はバーサーカー何だぞ!それくらい当たり前だ!」
「そもそもカイト、よく静かにユーマとマギの会話聞いていたな」
「ラクノス―。なんだ?俺にそんなキャラが合わないと?」
「いやぁ、いつもムードーメーカーでうるさい君がおとなしいとねぇw」
「殺すぞ!」
「まあまあ落ち着いて―—」
あぁ、幸せだな。
パーティーを組んで、戦って、笑い合う。
陰キャに成り代わった僕には無縁だと思っていたんだがな・・・。
「ユーマ」
「どうしたんですか?カイトさん」
「あの言葉の意味についてどう考えているんだ?」
「確かに私も気になります!」
「ミーヤまで・・・。でも実際、俺自身も良くわからないかな」
「そうなると、バージョン情報ちゃうんか?」
「ラクノスさん、またエセ関西弁になっている気が・・・」
本当にあの言葉については俺自身よくわかっていない。
『おそらくそろそろお前の眼の前にヤツが現れるだろう。もし現れたら決して全てを信じるんじゃないぞ』
ヤツとは何か、信じるな、それに少ない時間を大切に?
次のバージョン情報にしては俺の核心部分をついている気がする。
「ユーマさん、本当にこれで最後になっちゃうんですか?」
「そう・・・ですねミーヤさん。これが本当に最後ですね。」
「そうですか・・・。その、よかったらんですけど何で辞めるかを教えてもらえますか?」
僕がこのゲームをやりだしたきっかけか。懐かしいな。
遡ること去年の秋、医者に突然告げられた。
「四条さん、あなたは心臓癌です。それも最悪の状態でもう全身に転移し始めています。もって1年といったくらいです。」
ユウマの顔が蒼白色になっている。
急に汗を掻き始め、呼吸も荒くなっている。
「そんな―。嘘・・・ですよね。いつもみたいに冗談って言ってくださいよ!」
「残念ながら、そう言ってあげたいですが」
そう、四条ユウマは検査によって心臓癌であることが判明。
まだ、ステージ1であれば希望の光は見えたが現実はステージ4。
いつ死ぬかわからない時限爆弾を取り付けられたも同然だった。
ユウマの家族や親戚たちは『自分たちの子が私達より早く死ぬとわかって何もしないわけにはいかない』と言って、俺が稼いでいた量の1.5倍ほどの現金を仕送りしてくれるようになった。
病院の帰り道に秋葉原でゲーム専門店の入口にWFEと書いてあるポスターが貼ってあった。
これがユウマとWFEの出会いである。
今振り返ってみても癌を言われたときのショックはとても大きかった。
『どうせ死ぬんだったら、仕送りや貯金もあるし、仕事をやめてオタクを満喫するか!』ってなったのを覚えている。
「まあ、簡単に言えば少し遠いところに行かなければならなくてね。また、戻って来れたら一緒にプレイしましょうよ。」
「そうだったんですね。遠いところでも頑張って下さいね!」
「ありがとう。」
この人生の中で女性と正面を向いて会話できたのは初めてだったかも。
やっぱりゲームはいいなぁ、もしも現実でもこんな会話が出来ていたらと考えると少し心苦しい気がしなくもないが。
「それでは皆さん、またパーティーを組めることを願っております」
「なんだその言い草は!」
「カイト、何だよ」
「まるで二度と会えないみたいな言い方はやめろ!って言いたいんじゃないか」
「ラクノス、カイト・・・」
「分かった。じゃあ、また縁が俺達を導かんことを!」
「なんか部屋に戻ってきた途端、虚無感を感じすぎるせいか、いつもよりも疲れがひどい気がするな・・・」
もう、今日は寝るか。
それにしても今度はなんのゲームを買うべきなんだろうか。
オタクである僕にあったゲームってなかなか販売されてないんだよな。
なにかの間違えでなろう系あるある起きない・・か・・・な・・・・。