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エリスの決意

「……ふむ」

『あの、エリス様?』


 腕組みをして色々と考えているエリスのところに、リーアがふわふわと飛んでくる。

 昼休み以降、何だかエリスの様子が少しおかしな事になっていたのだが、アーリャに心配されても『あ、大丈夫です大丈夫です』とにっこり笑うだけ。

 それを見た攻略対象たちは、我が我がとエリスに近付こうとしていたらしいが、エリスがそれより先にいそいそと帰路についてしまったことから、何も声がかけられなかった、ということらしい。


 らしい、というのはアーリャから聞いたから。


「あの人たち、エリスが帰ったことに気づいた途端、血眼になって探しておりましたわ。何ともまぁ気持ち悪いことで」


 と、ものすごい顔で吐き捨てるように言ったアーリャの顔を、エリスはきっと忘れないであろう。

 何というか、あの顔は公爵令嬢がしてはいけないような顔だったし、エリスを探している面子の中にはアーリャの婚約者だっているのに、と思ったけれどアーリャ曰く『もうあんな奴婚約者とは思いたくない』ということだそうだ。


「あのさ、リーア。ちょっと聞きたいんだけど」

『はいエリス様』

「エンディングを迎えるための条件ってある?」

『ヒロインを引き受けて……』

「聞かれたことに答えなさい」


 べちん、とまたエリスはリーアを叩き落とす。

 叩き落されたリーアは、のそのそと起き上がって鼻を押さえているが、エリスを見上げると不満そうに頬を膨らませた。


「何?」

『エリス様、手が出るの早くないですか』

「人の話聞かない誰かさんだからこうしてるし、そもそも色々と手を焼いてるの。で、エンディングを迎えるためにやらなきゃいけないっていうこと、ある?」

『……ええと』

「ん?」

『ヒロインの役を引き受けていただかないと……』

「ふむ」


 なるほどね、とエリスは呟いた。

 今、エリスはまだヒロインとして役割固定されていない。半分ヒロイン、半分ヒロインじゃない、という何とも中途半端な立ち位置にいる。

 ヒロインを引き受けたら、この馬鹿げた物語とやらも終わりを迎えられるのか。


「リーア、もうひとつ聞きたい」

『あ、はい』

()()()エンディングを迎えられれば、終わりになる。その終わり、つまりはこの馬鹿げたゲームとやらの世界の終焉、で良いかしら?」

『その認識でOKです』

「それは私がヒロインにならないといけない」

『はい』


 そうか、とエリスは呟いた。

 とはいえ、自分がヒロインになったと仮定して、他にどのような影響が出るのかさえ分かっていない。リーアが果たしてどこまでわかっているのか、あるいは以前のようにおかしくなったりはしないのか。


「……ねぇ、リーア。私がヒロインを引き受けたとして、何か不具合は出たりしない?」

『不具合、ですか?』

「そう。もしも引き受けたとして、よ。……範囲ってどこまで?」

『ああ。それなら大丈夫ですよ。あくまであの学園の範囲内で、尚且つエリス様が所属しているクラスの範囲内でおさまります』

「広がったりはしない?」

『はい、それは大丈夫です』


 だって、とリーアは言葉を続ける。


『あくまで、ゲームはヒロインを中心にして進んでいくものなんです。エリス様が他に無駄な接触なんかをして、ゲームの内容をひん曲げなければ、何も問題ないです』


 うんうん、とエリスは頷く。

 エリス本人が行動する範囲、尚且つそれがゲームの範囲であれば他の人たちには影響がない。

 ということは、普通に家に帰ってご飯を食べる、寝る、などの日常生活には支障がなさそうだ。ただ、ヒロインになれば恐らく攻略対象である男性たちからどっと言い寄られるのだろう、と考えるとぞわりと鳥肌が立った。


「……ゲームを完了させるためよ……そして……」


 全員にはまだ遭遇していないけれど、『攻略対象』たちに会って、エリスがどんな思いでいるのかを思いきり伝えないといけない。


「……よし」


 悪役令嬢役にされてしまっているアーリャを助けるためでもある。

 もちろん、自分がこんなバカげたものに付き合い続けるつもりがない、ということが第一なのだが、リーアを助けるためという大目的があって、そして己よりも望まない役割を一方的に押し付けられそうになって、自分の力でそれを跳ねのけたアーリャのために。


「……これが、誰かのためになるのなら、私はやるわ」

『エリス様……』


 何かを覚悟したのだろう、と察せるほどの真剣な表情で、エリスはリーアへと手を差し出した。


「リーア、これは一年限定、っていうことで良いのよね」

『はい』

「なら……やるわ。面倒なことは片づけて、私、さくっと就職したいんですもの!」

『…………ものすごい現実的なお考えで……』

「あら、私、夢に追いすがるほど乙女、ってわけでもないんですからね」


 クス、とエリスは自信満々な様子で笑う。

 ここ最近、攻略対象から逃れることや、どうやればヒロインになることなくリーアを助けられるのか、色々と考えたりもしていたが、蓋を開けてみれば方法はいたって簡単なことに気づいてしまった。


「リーア、とりあえずエンディングを迎えたらあなたのことも解放できるんだから、色々と協力してもらいますからね」

『それは当たり前です!』

「ちなみに、攻略対象さんが告白してきて私がお断りした場合ってどうなるの?」

『えーっと……さっくり言いますと』

「うん」

『エリス様のこと、あきらめてくれる人もいます』


 も、って何だも、って。

 エリスがそう思ったが、ゲームでなくとも現実世界だったとしても、そういえば告白してふられて、でも諦められないからと再度アタックする人もいるよな……とエリスは思った。

 そのあたりは微妙にゲームも現実世界も同じようなものかな、とエリスは考えてから、苦笑いを浮かべた。


「まぁともかく、はい」

『本当にいいんです?』

「ええ、私もちょっとやりたいことができちゃったから」

『んじゃ……いきます!』


【ヒロイン認証:エリス・ルーデア

 これからのナビ精霊:リーア

 引き続き、エリス様のお助けをしつつ、ナビ精霊としての役目を果たします!】


 何やらよくわからない声のような、音声のような、不思議な感覚と共にエリスの目の前が一瞬黒くなり、そして次に目を開けると不思議な半透明の四角いものがエリスの目の前にあった。


「……何これ?」

『えーっと、いわゆるステータス画面、っていうものでして』

「端的に説明しなさい」

『今現在のエリス様の能力なんかを数値化して、分かりやすく目に見えるようにしたものなんですけど』


 数値化、能力、何だか謎の単語だな……とエリスは考えていたが、ふとある項目が目に留まった。


「……エリス・ルーデア、頭脳……Sランク?」

『めっちゃ頭いい、ってことです。エリス様のとこのクラス分けもこんな感じじゃないですか』

「ああ、Sが一番高い、ってこと?」

『察しがとてもいい……!』


 うわあああんめっちゃ楽だよう!と感激しているリーアを横目に見つつ、エリスはステータス画面に恐る恐る手を伸ばした。


「(触れる……?)」


 つるつるとしたような指ざわりがあり、動かせば画面がするする動いていく。

 何がどうなっている、と適当に指を動かしていけば、ふと目に留まったアーリャの画面。


「(アーリャ・ロゼルバイド。ロゼルバイド公爵家のご令嬢で、王子妃となるべく幼いころから必死に努力を積み重ねてきた。役割:◇◇◇◇◇◇◇◇◇)」


 あれ、とエリスの口から小さく言葉が零れた。

 アーリャの役割が妙な感じなのだ。他の人は、と画面を動かしていけば、『攻略対象』だったり、『クラスメイト』なんかと記載されているのに、アーリャだけ、今からうめますと言わんばかりのもの。


「……もしかして……」


 悪役令嬢、という役割から力業で無理やり退場した、と言っていたから、そのせいか、と予想してみた。


『エリス様?』

「ん-、とりあえず具合が悪くなったりとかもないから、大丈夫。明日からいろいろと行動していけばいい、っていう感じかしら?」

『はい、その通りです!』

「わかんないことあれば……」

『ボクのこと呼んでください、そしたらぱっと目の前にお邪魔いたします!』

「分かった、ありがとう」


 エリスのやりたいこと、って何だろう……と思いつつ、ようやく役目を引き受けてくれたエリスのは感謝しかないリーア。

 へら、と嬉しそうに笑ってぺこぺこと頭を下げてくるリーアの頭を撫でてからエリスはぐっと拳を握った。


「さて、明日から忙しくなりそうね!」


 暗くなってきている窓の外を見て、エリスは微笑んだ。

 いよいよ、これが始まる。乗り越えられれば……エンディング=終わり、だから必死に駆け抜けるしかない。

 エリスはそう思って食事の準備ができたことを呼んでくれるメイドに返事をしたのであった。

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― 新着の感想 ―
>リーアを助けるためという大目的があって、 優しいというかお人よしと言うか(抹殺された別の妖精を想起しつつ) >アーリャの役割が妙な感じなのだ。 >アーリャだけ、今からうめますと言わんばかりのもの。…
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