仲間たち
三日後、僕はアルミーネの家で金貨七枚を受け取った。
「ごめんね。経費が増えたから、報酬が少なくなったの」
アルミーネが胸元で両手を合わせて謝った。
「魔炎爆弾を使っちゃったし、回復薬も全部なくなったから」
「問題ないよ。そのおかげで僕たちは生きて戻れたんだし」
僕がそう言うと、隣にいたキナコが口を開く。
「錬金術師がパーティーにいれば、経費が増えるのは当たり前だ。だが、その分、安全になるからな」
「ピルンも問題ないのだ!」
ピルンが右手を上げる。
「これだけあれば、美味しいものがいっぱい食べられるのだ」
「みんな、ありがとう」
アルミーネは僕たちに頭を下げた。
「で、その代わりってわけじゃないけど、私たちのパーティーの評価が相当上がったみたいよ」
「ダグルードを倒したから?」
僕の質問にアルミーネがうなずく。
「それが一番の要因ね。あの魔族は相当強かったから」
「シルフィールさんがいてくれて助かったよ。彼女がいなかったら、ダグルードは倒せなかったと思う」
僕の脳裏にダグルードの姿が浮かび上がる。
本当に強い魔族だった。一歩間違えていたら、僕たちは全員殺されていただろう。
「まあ、シルフィールさんには感謝しないとね。月光の団が出した報告書には、私たちがしっかり仕事したことも書かれてたみたいだし」
「そうなんだ?」
「うん。ヤクモくんが気に入られたおかげかも」
「気に入られたのかな?」
「そうでないと、月光の団に誘われないよ」
アルミーネは笑った。
「でも、本当によかったの? 月光の団の団員になったほうが名声もお金も多く手に入るし、部屋だってもらえるんでしょ?」
「いや、僕はこのパーティーがいいんだ」
僕はテーブルを囲んでいるパーティーの仲間たちを見回した。
「だから、追放されない限り、ずっとこのパーティーにいるよ」
「ヤクモくんを追放するわけないでしょ。必死に引き留めたんだから」
アルミーネは呆れた顔で僕を見た後、ふっと笑みを洩らす。
「……ありがとう、ヤクモくん。あなたがパーティーに入ってくれて、本当に幸運だったよ」
「やはり、聖剣の団に感謝すべきだな」
キナコが口を開いた。
「あいつらがヤクモを追放したおかげで、ヤクモは俺たちの仲間になったんだからな」
「だよね」
アルミーネはキナコの言葉に同意する。
「そういや、聖剣の団はいろいろと大変みたいだよ」
「えっ? 大変って?」
僕はアルミーネに質問した。
「今回の依頼で二十八人も団員が死んで、早々に撤退しちゃったからね。団の評価がすごく落ちたみたい」
「でも、ダグルードはすごく強い魔族だったよ。強化された骸骨兵士も五百体以上いたし」
「それでも、月光の団はダグルードを倒して、調査団を救出したからね。それにおまけだった私たちのパーティーも活躍したし。これから、聖剣の団への依頼も少なくなるんじゃないかな。実力が不安視されちゃったから」
アルミーネは首を右に傾けて頭をかいた。
「と、そんなことより、これからのことを話そうか。夕食でも食べながら」
「ピルンはお肉が食べたいのだーっ!」
ピルンが瞳を輝かせた。
「西通りの月の宝石亭に黄金牛のお肉が入荷したからな。あれは食べておかないと人生百年は損するのだ」
「じゃあ、そこにしようか。キナコもいいよね?」
「問題ない。美味い肉をつまみにして酒を飲むのも悪くない」
キナコが答える。
「ヤクモくんもいいかな?」
「うん。もちろん」
僕の頬が緩んだ。
仲間といっしょに食事って、やっぱりいいな。聖剣の団にいた頃は、下に見られてたせいか、食事に誘われたこともなかったし。
アルミーネの家を出ると、既に夜になっていた。
夜空の東側に巨大な月が昇っていた。柔らかな月の明かりが前を歩く仲間たちの姿を照らす。
僕は足を止めて、みんなの後ろ姿を見つめる。
このパーティーの一員になれて、僕は幸せだな。みんな信頼できて、僕を認めてくれる大切な仲間たちだ。
【魔力極大】のユニークスキルが復活して、僕は強くなった。
でも、この世界は危険に満ち溢れている。ダグルードより強い魔族や町を滅ぼす災害クラスのモンスターもいる。
そして六魔星や魔王も……。
そんな相手と戦うためには、もっと強くならないと!
「ヤクモっ!」
数十メートル先の十字路でピルンが僕の名を呼んだ。
「急ぐのだ。黄金牛のお肉がなくなってしまったら、最悪の事態なのだ」
「あ、ごめん!」
僕はピルンに謝りながら、月明かりに照らされた道を走り出した。
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