フローラ院長とリリス
次の日、孤児院の一室で、僕はフローラ院長に大金貨二枚を渡した。
「え……?」
ドラゴンの姿が刻まれた厚みのある大金貨を見て、フローラ院長の目が大きく開いた。
「こんな大金……どうしたの?」
「冒険者の仕事で倒したモンスターの素材が高く売れたんだ」
「高く売れたって……」
「大丈夫。全額寄付してるわけじゃないから」
「でも、大金貨なんて受け取れないわ」
フローラ院長は大金貨を僕に返そうとした。
「これはあなたが危険な仕事で手に入れた大切なお金なんでしょ?」
「大切なお金だから、孤児院で使ってもらいたいんだよ」
僕は部屋の中を見回す。窓ガラスはひびが入っていて、色あせたソファーも一部が破けている。
「孤児院もガタがきてるしさ。このお金で修理するといいよ」
「だけど……」
「いいから。子供たちにも新しい服を買ってあげて」
「……ありがとう」
目のふちに浮かんだ涙をしわだらけの手で拭いながら、フローラ院長は微笑んだ。
「ヤクモくん。あなたみたいな優しい子を育てることができて、私は自分を誇りに思うわ」
その言葉を聞いて、僕は幸せな気持ちになった。
もっと、お金を稼ごう。そして、いつかは孤児院の土地を買い取って、フローラ院長が家賃を払わなくていいようにするんだ。
廊下に出ると、リリスが僕に駆け寄ってきた。
リリスはポケットだらけの僕の服を見て、ぽかんと口を開ける。
「新しい服買ったの?」
「いや、これはもらったんだよ。アルミーネから」
「アルミーネ?」
リリスの金色の眉がぴくりと動いた。
「あ、僕が新しく入ったパーティーのリーダーだよ」
「えっ? ヤクモくんは聖剣の団に入ってたんじゃないの?」
「いや、実はさ……」
僕は聖剣の団を追放されて、アルミーネのパーティーに入ったことをリリスに説明した。
「……だから、今はパーティーで仕事してるんだ」
「そう……だったんだ」
アルミーネは心配そうな顔をして、僕を見つめる。
「大丈夫なの? 危険な依頼を受けるパーティーなんだよね?」
「それは団に入っていてもいっしょだよ」
僕は笑って、リリスの肩に触れる。
「冒険者は危険と隣り合わせの仕事だからね。それに危険な仕事だからこそ、報酬も高くなるんだし」
「でも、お金よりもヤクモくんの命のほうが大切だから」
「うん。僕だって死にたくはないから、無茶なことはしないよ」
「そうかな。私が森でゴブリンに襲われた時、ヤクモくんは木の枝で戦おうとしたよね? それで大ケガしちゃって」
「それって、十歳の頃の話じゃないか」
僕は唇を尖らせる。
「それに、あの時だってなんとかなっただろ。倒せなくても粘ってれば、近くにいた大人が助けてくれるって思ってたし」
「それでも、ぎりぎりだったから。本当は私なんか置いて逃げるべきだったんだよ」
「そんなこと、できるわけないだろ」
僕はリリスの頭を軽く叩いた。
「リリスは大切な友達で家族みたいなものだから」
「友達で家族か……」
リリスは少し寂しそうな顔をした。
「そ、それでアルミーネのことだけど、その子、どんな感じなの?」
「えーと、僕より一つ年上の十七歳らしいけど、Cランクの冒険者で錬金術師でもあるんだ。右目に魔法陣を刻んでて、魔法の発動を速くしてるんだよね。だから、素材を節約せずに戦ったら、相当強いと思うよ」
「いや、そういうことじゃなくて……外見はどうなのかな?」
「外見? えーと、ピンク色の髪で背丈はリリスより五センチぐらい高いかな」
「……美人? それともかわいい感じ?」
「うーん。そのへんは人によって判断が変わるかな」
「じゃあ、胸は? 私より大きい?」
「胸? 胸はリリスより大きいと思うよ」
僕がそう言うと、リリスの頬がぴくりと動いた。
「へ、へぇ、そう……なんだ」
「で、何で、アルミーネの胸を気にしてるの?」
「それは……」
リリスは自分の胸を右手で押さえて、僕をにらみつける。
「もういいよ! ヤクモくんのバカっ!」
リリスはぷっと頬を膨らませて、僕から離れていった。
どうしたんだろう? 突然不機嫌になって。
たまにリリスは怒ることがあるけど、その理由がわからない時があるんだよな。どうして怒ってるのか教えてくれればいいのに。
僕は首を傾けて、頭をかいた。
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