規格外
10
「おかーさん」
「お邪魔します」
やってきました。
トキ君のお家。
小さめで、ほかのお家からは少し離れていて、広い畑がある。お父さんはおらず、母子で住んでるそう。
上にも兄がいるらしいが、最近帰ってこないとのこと。
夫婦で畑をしていたらしいけど、お父さんがある日突然…という不幸があり、お母さんが必死に働いていたが、広すぎる畑に追いつかず、いまは寝込んでいると。
どうやらかなり無理して働き続けていた模様。ダメなやつ。
しかし子ども育てるために無茶したくなる気持ちもわかるので、そこは特に突っ込まない。
ベッドにはトキ君によく似た人が寝ていて、ほっそりとしている。
これは元々痩せていたというより、やつれてる感じだな。
そしてこの痩せかた…あんまよくないやつだよなぁ…。
「あ…すみません、起き上がりもできず」
「いえいえ、お気になさらず。そのままで。すぐ済みますよー。」
「薬師殿、ポーションなら起こさないとむせてしまうのでは…」
「門番さん、わたし、色んなことに興味があるんですよ。なので、まずは、できるかどうか試したいんで、みててください」
ベッドに近寄り、考える。
さて、これは病魔があると仮定してそれを取り除くイメージでいけるかな。どこにあるかわからないから、光を纏うようなイメージ…。
包まれているような…うーん…手のひらから、光の粒子をたくさん出して、それが病魔を取り除いていく。
何度も、イメージし直しながら、手で水を救うようにお椀にして、そこから光がゆっくり室内に広がる。
幻想的ですね…!
さぁ、仕事だよ光の粒子たちー!
「え、あの」
「大丈夫、治してみせます」
ざぁっと光がトキ君のお母さんを包み込む。
特に光が1点に集中して集まってるところがあり、そこから徐々に光が落ち着いて、ものの1分ほどで終了。
もう大丈夫なんだろうか?
しん…とした空気に、声をかけるのを少しためらうけど…。
「えーと、気分悪いとかないですか?」
「おかあさん!」
「え、ええ…すごく、楽です。すごい…あぁ、息がしやすい…」
なるほど?集中してたところは肺かな?
ゆっくり深呼吸を繰り返してるけど、特に不自由そうな様子もない。
病気の知識とかないけど、肺の病気だったのかなー
とりあえず治せてよかった!
うんうん、体起き上がれてるし、大丈夫そうだねぇ。
「いやー、…やればできるもんですね」
「…薬師殿、普通はやればできるじゃないんだが」
お前何してんだよみたいに眉間をぐにぐにマッサージしていらっしゃる門番さん。
やっぱりそんな反応になるんだなー、あっはっはー。
確実に規格外なコースを突き進んでおります、わたくし。
「さて、とりあえず換気しましょう!閉めっぱなしはよくない。トキ君窓開けて」
窓が開いたのを確認して、室内の空気をゆるく動かす。風魔法でね!
サーキュレーターとか便利だよねぇ。
台所には大きな水瓶があって、そこに水を貯めておくらしいけど、重たいし、かといって水魔法が使えないとのことでほぼ空。
じゃあ足しておこうかーと、軽く洗浄してから水を貯める。
それさえも門番さんがどデカため息をついたので、はははと笑っておく。
あ、ついでに魔力水にしておこうかな。
体に良さそうだし。
で、トキ君母からお腹の音が響いたので、食べられそうだねーと食事を…重いか?カップケーキ…。
いやでも疲労回復だしな…。
体力無くなってるだろうから、とりあえず回復してもらいたいんだけど、無理そうなら考えよう。
「あぁ…おいしい…あまくて、すごくおいしい…」
と思ったけど、案外食べられてる。
その様子をニコニコ見てるトキ君も幸せそうで何よりだ。
しかしこれで解決でもないんだよなぁー。
仕事をしないといけない。
生きるためには必要なことだ。
さて、そうなると、出会ったのも縁だから何かいい方法はないかなー?と。
窓の外には広大な畑。荒れ模様。けど、使えると思うんだよねぇ…。
そのためには、とりあえず…
確認することがあるな!
「ちょっとギルド行ってきますねー!すぐ戻ってくるから待ってて貰えます?あ、門番さん…は、一緒に来て!」
たのもー!と開けたのは、そう、お馴染み生産ギルド
「レックスさーん」
「はい!こんにちは!…おや、門番さんまで引き連れて如何なさいました?」
「いやー、ちょっと確認?ご相談?」
個室に入って、早速。
採取してポーションにしていなかった分の薬草(改)をマジックバッグから取り出して、テーブルに。
「これ、いくらで売れますかね?…いや、買い取っていただけますかね?」
「では、拝見します。」
「普通の薬草では…なさそうだな?」
「…すみません、ええと、マスター呼んでも?」
「もちろん」
では、と席を外したレックスさん。
きっとギルドマスターを呼ぶのだろうなぁ…まぁ、うん。
目立つのは仕方ない。腹くくろうじゃないか。
「薬師殿は、規格外がすぎるな…」
「褒め言葉として受け取りましょうかねぇ…」
「まぁそうだな…自衛はしてくれると助かるな」
「ああ、いまのうちに…この街で生活しようと思ったら、1日どれくらいのお金がかかりますか?」
そうだなぁ…としばらく思案して、提示されたのは10万レンぐらいあれば生活はできて、ゆとりをもってというならプラスアルファだろうなぁ…とぼやく。
ふーむ…。
考えているとノック音がして、入ってきたのは…
「マスターのルーシィだ。」
エルフだー!!
めちゃくちゃ整ったお顔!!
ロングヘアなのにさらっさら!すっご!!
「…は!ええと、アキ・コタニです。」
「あぁ、噂はよく聞く」
やっぱり噂なの?いやもうほんと広がるのが早いよねー。いいものも、わるいものも。
いやー、しかし美しい。
バッグに花とかあるような気さえしてくる。
乙女ゲーならきっと攻略対象にいるやつね…。
…ツンデレあたりか…実は寂しがりとか…
投稿しているあいだに、レックスさんが薬草を渡して、これを見ていただきたくて…とお願いしている。
というか、エルフだって思ったけど、どうなんだろ?
エルフという種族がいるのか?似たようなものなのか?
エルフっぽいならたぶん薬草とか詳しいんじゃないかなー?
じーっと薬草をみて、わたしをみて、薬草をみて…
整った顔がこっちを見ると何もしてないけど照れる。
こんな美形の免疫ないからね!
「これは…?」
「コタニさまからいくらで売れるかと伺われたのですが…」
「これはどこで手に入れたかお伺いしても?」
「ここのマスターとの事なので、信頼してお伝えしますね。これは、私が育てました。」
『え?』
「え?」
………
いやいや、時が止まったぞ?
なんで?え?あまりにも時が止まるからポッポーって鳩でも出てくるかと思うわ
なんだっけ?しーんとした時を天使が通ったとか言うけどそれとは別よねこれ
まさに、絶句!!!
「薬師殿、本当に?」
「え?あ、はい。試したんですよね、わたし。できるのかなー?って」
「あの、コタニさま、疑う訳では無いのですが、本来薬草は栽培できないと言われていて…」
「え、…えぇ…いやいや…ええー…」
そーりゃあ絶句案件だわ!!
なにそれ!めっちゃ簡単に出来たけどどういうことかな!?
わっさわさできてるよ!?
…あ!疑われている!わたし!なるほどあかんやつ!!
「…よし、じゃあ、試しましょう再び!もし成功したら、その薬草いくらで買取していただけますか?魔力量は多いはずですよ」
「それは…通常の3倍はある…だが、マスターとして簡単に信じられんというところだ、そこはすまないが…ただ、本当ならこの薬草はひとまず、ひとつ500レンで買い取ろう」
「わかりました!では失礼します!あ、門番さん先にトキ君のお家…ていうか、振り回してますが仕事大丈夫です?いまさらですが…」
「わたしから伝えておくよ、マスターなので融通はきくさ」
「すみません!ありがとうございます!」
生産ギルドを後にして草原までダッシュ…は、無理だった。
息切れぇ!!きっつ…ゆるやかなのぼり…
はー、あったあった。
一旦水分補給からの、薬草を根ごと採取!
洗ってマジックバッグ!
とりあえず…10…いや、20?
…50で!!
で、向かうはトキ君のお家!
「お邪魔しまっす!畑見させてもらいますね!」
「え、えぇ」
畑は謎の草が…ポッケのモンスターじゃないよ!
根っことかもごろんごろん。
荒れるとこうなるのかぁ畑…。
「…すみませーん!トキ君のおかあさん、お名前はー?」
「ユキですが…」
「ユキさん、この畑、お借りしても?」
「ええ、どうぞ。助けて頂いた恩がありますし、お手伝いいたしますよ。」
「助かります!」
では。
まずは土をふかふかにしないといけない、のかな?
どうやるのか?とユキさんに聞いたら、土魔法だと。
土ふかふかの畑になーれってとこか?
いい畑の土がわからないけど…
50くらい植えるならどのくらいとかわからないので、広めに耕してしまいましょう!
さーて、ふっかふかのいい土になってー!
兄弟錬金術師の様に手を叩いて土に触れてみた。
ちょっとやってみたかったんだ…。
ら、あっという間にきれいなフカフカ土になりました!
「まぁ!…すごい、あっという間ですねぇ」
ほんとにねー!?
さてさて、じゃあここに…薬草を…さすがにひとりじゃ無理よ!
「トキ君!トキくーん!お手伝いしてー!」
「はーい!」
薬草を手渡し、植えるように伝えると、トキ君までもが、枯れちゃうよ?と言ってきたので、この世界の常識は薬草は栽培不可。
なるほど、覆してみせるわ!!!
病み上がりのユキさんも、少しなら、と手伝ってくれる。
いやもう休んでて!?と思ったけど、体が動くのでじっとしていられないのだとか。
働き者だな〜。
で、全て植えたところで、手元に大きめな水球を作ります。
魔力足して、魔力水球にします。
それを植えたところの上空に動かして…
「散・開!」
そうすると、なんということでしょう。
あんなに丸々していた魔力水球から小粒な魔力水が雨のように降り注ぐでは無いですか…!
「わぁ!すごい!きれい!」
ただこれはトキ君親子にしてもらうには、水瓶に魔力水ためておいてまいてもらう…?
…いや、そもそも魔力水って私以外も作れるのか?
ユキさんは土魔法使えるって話だから魔力はあるな…?
トキ君は何が出来るのか?
「トキくんは魔力ある?」
「あるよ。でも魔法はつかえないんだ。」
なるほど?
ならば魔力水できそうだなー。
水撒き終わったので、とりあえずお家にお邪魔して
「トキ君、このお水に魔力よ移れ〜ってイメージしてみて」
「え、おれ水魔法もつかえないよ?」
大丈夫!
と、とりあえず実践。
そもそも魔力がよくわからないと。
うーん…感覚的に体の中に流れてる…あ、わたしの魔力を感じてもらうとか?
実験だー!
手を繋ぎます。
私がゆーっくり魔力を動かしてトキ君の手に伝えます。
「わ…わわわ…なんか、なんかわかる」
「それが魔力!じゃあ再びそれを意識してお水にどうぞ!」
水に触れてる方がわかるかな?
手のひらを水につけて、じっと集中している…真剣…
お、おお…?おー!
「できたねー!」
「…すげぇ…きらきらしてる…」
「では、トキ君にはこうして作った魔力入りのお水をあの薬草に水撒きするということと、できた薬草採取のお仕事を依頼します!あ、お母さんとね!無理ない程度で!」
『はい!』
さぁさぁこれで上手く育てば儲けもんよー!
ブックマークや評価ありがとうございます。
励みになります。
私は最近膝治療に勤しむ日々です…。




