〜Mission06:『〈神龍〉起動』②〜
コウヤが〈神龍〉の起動試験を始めて数日が経過していた。
〈神龍〉の双眸に一度光が灯るが、機械の起動音が鳴りやむと同時に光が消える。
数日前から行われている〈神龍〉の起動試験は難航していた。
「〈神龍〉起動フェイズ3で再びシステムダウン」
下で端末操作していたアレックスが、〈神龍〉が起動フェイズの途中でシステムダウンしたことを隣で〈神龍〉を見上げている技師長のシドに報告する。
「う~む……。コウヤ一旦降りてこい。休憩だ」
シドが難しい顔をして頭を掻き、パーソナル・デバイスで〈神龍〉のコックピットに居るコウヤを呼ぶ。
『了解』
コウヤはシドの言葉に端的に答える。
高所作業車のバスケットで待機していた技術士官がブームを〈神龍〉の腹部辺りまで伸ばし、コックピットハッチから出てきたコウヤがバスケットに乗り移る。
コウヤがバスケットに乗り移ったことを確認し、同乗している技術士官がブームを地上まで下げる。
「中々にフェイズ3をクリアできねぇなぁ……」
シドは腕を組み、エラーの出ているフェイズ3の画面を顔をしかめて眺める。
シドの見ているディスプレイには〈Phase3〉〈EngravedエングレイブドWritingライティング Errorエラー〉と表示されている。
「何度やっても、ここでエラーが出ますね……」
いつの間にかシドの隣に来ていたコウヤが、ディスプレイを覗き込み呟く。
「M・Eの刻印システムと認証システムは左手に移設してるんだがなぁ……」
M・Eとは、起動時に〈龍〉へ登録される、ホルダー生体認証用の起動キーとなっており、この刻印がされない限り〈龍〉の機動はできない。
シドの言っている”左手に移設した”と言うのには理由があった。
「問題は”これ”ですか……」
そう言ってコウヤが右手の甲を顔辺りまで上げ、少し力を入れると何もなかった右手の甲が光だし刻印が浮かび上がる。
「だなぁ……。アーキタイプの刻印が邪魔してるってのはあるな……」
そう言ってシドが難しい顔をする。
コウヤは2年前のアーキタイプの起動キーであるM・Eが右手に刻印されている。
現在の技術では先に刻印されたM・Eの上書きができないため、刻印システムを左手へ移設する事で解決しようとしたが上手くいっていなかった。
「すいません……」
「お前が謝ることじゃねぇさ」
と、自分の非力さを感じているコウヤにシドが自分達技術士官達の力不足だとコウヤを励ます。
だが、コウヤには技術的な欠陥ではなく、自分が〈神龍〉に拒まれていると感じていた。
〈龍〉に搭載されているマテリアル・ドライヴには、それぞれ固有のマテリアルクリスタルを使用したマテリアルコアが存在している。
コウヤはこのマテリアル・ドライヴを搭載した機体、〈龍〉には個々に”意思”のようなものがあると思っている。
その〈神龍〉に宿った意志によって、コウヤは起動しないのだと考えている。
「まぁもう昼だ。飯でも食って頭切り替えてこい」
シドがそう言いながらコウヤの背中を叩く。
「皆!昼休憩だー!」
シドがドック中に聞こえる声量で作業をしていた技術士官達に声を掛ける。
シドの掛け声に技術士官達はぞろぞろと地上に上るエレベーターに群がる。
「シドさんは昼に行かないんですか?」
昼休憩の声を掛けたシドが未だに端末を操作していてその場から動こうとしていなかった。
「俺はコックピット見てから行くから先に行ってきな」
そう言ってシドが高所作業車へと向かって歩き出す。
「俺達は飯に行こうぜコウヤ」
アレックスがコウヤの肩を軽く叩き、昼食を摂りに2人がドックから出て行く。
コウヤ達が居なくなりシドだけが残ったドックに、その場所には不釣り合いなワンピースを着た10歳くらいの少女が光を放ち現れる。
その少女は〈神龍〉を見上げ、怪しく微笑を浮かべる。
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