〜Mission05:『〈神龍〉起動』①〜
広島・呉軍港。キサラギから辞令を受けた翌日の昼過ぎ、アヤネと付き人の女性士官2人が軍用ジェットヘリで呉に降り立つ。
ヘリポートには出迎えの技術士官が数名、アヤネの到着を待っていた。
「出迎え、ご苦労様です」
アヤネと女性士官2人が出迎えの技術士官達に敬礼をする。
アヤネの敬礼に倣い出迎えの技術士官も敬礼で返す。
「お待ちしていました。ヒヨク大佐。今回の訪問はご視察……と聞いておりますが……」
呉軍港の技術士官長が腰を低くして、呉軍港にも届いている辞令の内容を確認する。
「そうですね。現状の確認と、あなた達のお尻をひっぱたきに来ました」
アヤネが技術士官長に笑顔でそう答える。
技術士官長は遥かに年下ではあるが、キサラギ中将お抱えのアヤネにそう言われ、笑顔で答えてくるアヤネの表情に恐れを感じたのか眉尻がピクピクと痙攣する。
「竣工が1ヵ月遅れになっていると中将から聞いています。原因は分かっているのですか?」
歩きながら技術士官長に、アヤネが遅れの理由を問いただす。
「はっ。エンジン部のマテリアル・ドライブへのバイパスが上手くいかず……」
技術士官長がアヤネに申し訳なさそうに答える。
アヤネは技術士官の言い訳とも取れる理由を無言で聞きながら〈神舞〉の開発がされているドックへと向かう。
「……今までにない技術があるのは私も承知しています。ですが、議会で新部隊の承認が可決された今、それを理由に工期を伸ばし「間に合いませんでした」は通りませんよ」
技術士官長はアヤネの辛辣な言葉に落ち込んでしまう。
「ごめんなさい。現場の状況も理解していない私に言われる筋合いはないと思いますが、ここからは竣工まで技術士官の意地を見せてください」
アヤネは自分の辛辣な言葉に落ち込んでしまった技術士官達を気遣って、フォローとも激励とも思える言葉を続けた。
そのアヤネの気遣いを察した技術士官長は「はい!」と敬礼で答える。
開発ドックまで降りてくると、〈神舞〉の外装部に太さが人間程もあるケーブルに繋がれた〈神舞〉の姿が見え、各所で溶接の光と音が聞こえてくる。
「外装部は数日で終わる予定ですが、問題は内部構造でして……」
技術士官長が現在の問題点をアヤネに説明する。
「……。分かりました。ではマテリアル・ドライブを動かせる私が居る間に問題点を解決しましょう。技術士官の皆さんにはご無理を言うかも知れませんが、ご協力をお願いします」
アヤネは赴いたからには自分も開発に協力すると技術士官達に答える。
アヤネと付き人の女性士官2人は、一度荷物を軍の宿泊施設へ置きに行き、黒いロングの髪を束ねて軍服から技術士官と同じ作業着に着替えドックへ戻ったアヤネは、〈神舞〉のブリッジへ入り艦長席に着く。
「それでは、マテリアル・ドライヴを起動します。艦内作業者に連絡を入れてください」
付き人の女性士官2人も定位置に着き「はい」と答える。
女性士官が手元の端末に触れると、キーボードのようなものが空中に現れそれを操作する。
『今からマテリアル・ドライヴの機動を行います。近くで作業している方は気を付けてください』
艦内に女性士官の声が響き渡る。
艦内連絡が行き届いたことを確認し、アヤネが艦長席の両側肘掛にある球形のコンソールに手を乗せると、暗かったブリッジの照明に明りが灯り周囲が明るくなる。
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