〜Mission01:『〈R.Y.U〉』〜
宙歴65年。
〈メナス〉との戦闘後、強制的な睡眠に入っていた主人公コウヤ・ヤガミが2年間の眠りから目を覚まし、シンイチロウ・キサラギから〈メナス〉対抗策が提案される。
宙歴65年
人類初の宇宙戦闘敗走から8年が経過した。
全地球人類がこの戦争はすぐ終わると、この降って湧いたような災厄はすぐに過ぎ去ると思っていた……。
だが、気付けば〈メナス〉の地球侵攻が始まってから8年の月日が経過し、地球人類は生活圏の拡大の為とはいえ、自分達は手を伸ばし過ぎ、触れてはならないものに触れたのだと後悔した。
宙歴65年3月下旬、地球は西暦2030年頃から温暖化が一気に加速し、気温27℃と3月下旬とは思えないくらいの気温になっていた。
日差しが照りつける墓園に1台の車が停車していた。
墓園の中に1人の青年が“如月家の墓”と書かれた墓石の前にしゃがみ墓前で目を閉じ手を合わせていた。
歳は18歳くらいだろうか、暑い中長袖の軍服を着て、足元には青年の物と思われる刀が置かれている。
時間にして5分程度経った頃、合わせていた手を膝に置き瞼を開いた。
「早いものだね……。あれからもう7年経つんだね……。」
青年は閉じていた目を開き、合わせていた手を膝に置き直し、穏やかな表情でその墓に眠っている者に語りかける。
「2年前の戦闘で無茶し過ぎてしばらくここに来れなくてゴメン」
誰も居ない静かな墓園に青年の申し訳なさ気な声だけが聞こえてくる。
「……」
青年はしばらく沈黙する。
「姉さんは……」
そこまで言うと墓から少し目を逸らし言いにくそうに言葉を続ける。
「姉さんは多分……、反対するかもしれないけど……」
青年は逸らしていた目を墓に戻し、立ち上がる。
「俺、コウヤ・ヤガミは本日をもって軍役に復帰します。姉さん……、俺は俺のできる事をやってくるよ」
少し微笑み、コウヤは足元に置いていた刀を拾い上げ、敬礼をした。
「いってきます。サヤカ姉さん。時間ができたらまた来るよ」
そういうと先程まで向かい合っていた墓石に背を向け、コウヤは墓園の出口に向け歩き出した。
墓園の入口に1台の軍用車両がハザードランプを点滅させ停められていた。
エンジンは動いている様だが、エンジン音がせず排気ガスも出ていない。温暖化が進み続けている昨今、化石燃料で動く乗り物等は姿を消し、今では電気で動く乗り物が主流となっている。
「すまない、待たせ…」
「遅いわああああ!!」
金髪でツナギの作業着の袖を二の腕まで捲りあげている、アレックス・ケリーが軍用車に乗り込もうと、助手席のドアを開けた瞬間にコウヤを怒鳴りつける。
日差しが照りつける中、車内でずっと待たされていて、どうやらイライラしていた様だ。
アレックス・ケリー、コウヤより2歳年上で、コウヤが〈E.D.F〉に入軍してから知り合い、パイロットと整備士の関係になり、3年以上の付き合いになっている。
「だからすまないと言った。それに、遅いと言っても30分程度しか経ってないだろ」
助手席に乗り込んだコウヤはドアをバタンっ!と閉め、怒鳴りつけてきた運転手の青年に呆れた感じで言い返す。
「お前なぁ、この直射日光が当たって、尚且つアスファルトの照り返しが酷い場所に30分も待たされてみろ!カラッカラに干からびてアレックスさんの干物ができてしまうわ!!」
暑さでイライラしていたアレックスが喚き散らす。
「干物になった方が静かでいいかもな」
「うるせぇよ!」
アレックスが干物になった姿を想像したのか、コウヤがフフっと笑いながら言葉を返し、それを聞いたアレックスはまたコウヤに怒鳴る。
「それより、早く関東支部に行こう」
怒鳴るアレックスにコウヤは行き先を告げ、車を走らせるよう促す。
「わぁってるよ!ったく!」
コウヤに催促され、アレックスはブツブツ言いながらも、ハザードランプの点滅を切り、アクセルを踏み込み軍用車を目的地に向け発進させる。
「待たされるのが嫌なら迎えに来なければよかったじゃないか?」
運転しているアレックスには目を向けず、コウヤが問いかける。
「しょうがないだろ、中将直々の命令だったんだからよ」
と、渋った表情でコウヤに応える。
「てかよ、お前2年間寝てたんだよな?もう動き回って大丈夫なのかよ」
顔は前方に向けたまま、隣りにいるコウヤに声をかける。
「大丈夫だよ、とは言っても筋肉は大分落ちてるようで起きてすぐは正直辛かったかな」
車窓から見える景色に目を向け、車内に入ってくる風を感じながらアレックスの問いに答える。
コウヤは2年前〈メナス〉との戦闘後、意識不明になり2週間前まで眠りについていた。
意識不明とは言っても戦闘で重症を負った訳ではなく、とある"力"を限界点を超えて使用し、その"力"を回復させるために強制的な睡眠が必要となったのだ。
「まぁ、2週間のリハビリもしたし問題ないさ」
「お前の"問題ない"、"大丈夫"はあまり当てにはならないんだが?」
はぁとため息混じりにコウヤに言葉を返す。
「なんだ、心配してくれてるのか?」
少しからかった感じで外の景色から視線を外し、運転中のアレックスの横顔を覗う。
「ま、ヒメルスを飛ばせるパイロットが居なくなると俺の仕事がなくなっちまうからな」
ヒメルス、〈E.D.F〉の主力航空戦闘機で現在は旧型の一式から新型の三式までが存在し、日夜〈メナス〉の機動兵器と戦闘を繰り広げている。
コウヤからの視線を感じ取り、照れ隠しをするかのようにアレックスが答え、「それに……。」と言葉を続ける。
「お前が居なくなると哀しむ奴がいっぱい居るからな。キサラギ中将は育ての親だろ?そういう人達に心配かけるような事あんまりするなよ」
そう言ったアレックスの顔は真剣だった。
「すまない、気をつけるよ」
そのアレックスの真剣な横顔を見たコウヤは目を伏せ、2年前に無茶をしてしまった自分を反省した。
前方の信号が青から赤信号に変わり、車が静かに停車する。
「あっ」
車を停車させて、少しの間を置いてから何かを思い出したアレックスが声を発する。
「そういういやぁ、お前の三式1週間前にアメリカのラングレーに輸送したなぁ」
そう言って助手席のコウヤに顔を向ける。
「ラングレー?ハンプトンの空軍基地に?」
「そ、関東支部であの機体を改修するには手狭だろ?。ほとんど原型が分からないくらいの改修が必要だしな」
信号が青に変わり、アレックスは顔を前方に戻し車を発進させる。
コウヤは「ふむ…」と言って腕組みをして考え込む。
「三式を改修するということは…、あの計画が上層部で承認されたって事か?」
そう言ってコウヤは、アレックスの顔を見る。
「承認はまだされてねぇよ。けど今日の会議でキサラギ中将が議題に出すはずだぜ?まぁ、〈メナス〉の機動兵器の事考えりゃ、今時戦闘機なんて時代遅れだろ」
「そうだな…、この長く続いている戦争を終わらせるには"あの力"…、"マテリア"と〈M.G〉の力が必要になってくる……」
会話を続けながらアレックスは軽快に車を目的地まで走らせる。
「ところで……、関東支部はさっきの信号を右じゃなかったか?」
そのまま直進で車を発進させたアレックスに方向が間違っていると問いかける。
「あれ?そうだったか?俺はこのまま真っ直ぐだと思ってたんだが」
アレックスは特に気にする素振りも見せずコウヤの問に答える。
〈E.D.F〉関東支部。
会議室に各国の軍上層部11人が楕円形の机を囲み各々神妙な面持ちで席に着いている。12席用意してあるようだが1席はまだ空席になっている。
「では、定刻になったので議会を始める」
制服に大将の襟章を付けた白髪の髪をオールバックにした将校リアム・ローレンス議長が議会の始まりを告げる。
「まだ一人来ていないようですが?」
空席に目を向けそう言ったのは、右分けで短い金髪のつり目をした将校、ケネス・ジャック・ウィルソン、制服の襟章は准将の階級を付けている。
「キサラギは少し遅れるそうだ」
それを聞いたケネスは「何様のつもりだ」と舌打ち混じりに呟き悪態をついた。
「まぁ、彼が来るまでまず、各国の〈メナス〉の侵攻状況と現在の戦力状況の報告を」
リアムのその言葉を皮切りに各々の国・支部の侵攻・戦力の現状を報告し始めた。
「ドイツ支部はミュンヘンで防衛線を張っていましたが、昨年フランクフルトまで前線を後退させました…。戦力の消耗も50%を割っています…。フランクフルトには死守しなければならないマスドライバーもあります。支部のあるベルリンまで侵攻されるのも時間の問題かと…」
ドイツ支部の代表将校が、されるがまま蹂躙され、為す術もなく自国が侵略されていく悔しさで拳を固く握りしめる。
「そもそも機動兵器に差があり過ぎる…。逆にこの8年余り良く持ち堪えた方かと……」
その声には諦めの感情が混ざっている様に感じる。どの国の将校の発言だったかは分からない、だがこの場に集まっているほとんどの将校が、同じ思いを抱いているに違いないのは会議室を包み込んでいる雰囲気で分かる。
「何を弱気になっているのです!」
ケネスが一喝するかの様に声を張り、議場の机をバンッ!と両手で叩き、椅子から立ち上がり、各国の将校を見回す。
「今ここで我々が諦めてしまったら〈メナス〉共に地球人類は滅ぼされてしまいますよ!」
ケネスが力強くそう言うが、その言葉で奮い立つ者はこの場にいなかった。
「そこまで言うのであれば、准将には何か策でもあるのかね?」
ケネスの発言にリアムが静かに問いかける。だが、その問いにケネスは「そ、それは…」と言葉を濁し先程の勢いが無くなり、意気消沈する。
ケネスが意気消沈したタイミングで会議室の扉がウィンと音を立てて自動の扉が開き、議場にいた全員の視線が開いた扉に集まる。集まった視線の先には、白髪混じりで黒髪の将校、シンイチロウ・キサラギが入室してくる。
「遅かったな、キサラギ中将」
リアムが入室してきたキサラギに声をかけ、議会に遅れて来て澄ました顔をし、議長から何のお咎めが無いのが気に食わないのかケネスは「キサラギ…」と呟きあからさまな敵意の視線を向ける。
「すみません議長、眠っていた息子が目を覚ましたと連絡がありまして」
そう言って、空席になっていた自分の席へ向かうのかと思われたが、リアムから斜め左側の少し離れた位置、議場の将校全員から見える場所に壁を背にして立つ。
「今日の議会は君の話が本題だ」
リアムのその言葉に、ケネス他一同が「何の事だ?」と言いたげな表情をした。
「はい」
キサラギはリアムにそう短く返事をし、制服のポケットに手を入れ、5cm程度のUSBメモリーの様な端末を取り出しスイッチを押す。すると、キサラギの手元に小さい電子ディスプレイが投影される。その手元に現れたディスプレイを操作すると、キサラギの背面にキサラギが操作しているディスプレイと同じ映像が拡大投影され、〈M.G〉〈RadiantYell Unit〉と文字だけが書かれた背景の白い画面が映し出される。
「これは…?」
映し出された映像に対して、誰ともなく疑問の声が上がる。
「〈Radiant Yell Unit〉…?」
一際目についた文字を将校の一人が読み上げる。
「そう、〈Radiant Yell Unit〉略称…」
そこまで区切りキサラギは少しの間を置き言葉を続ける。
「『〈R.Y.U〉』、 これが〈メナス〉に対する我々の切り札です」
と、キサラギは自分に視線を向ける将校達に更に言葉を続けた。
次回〈メナス〉陣営も登場予定です。