リゼとナナコ。
モルドさんの娘さん、リゼという名前で、今16才だったと思うんだけど、モルドさんって整理得意じゃないし、ナナコが着れる服が、お古であるかもしれん。
村の中で歩いてすぐだし、ちょっと行ってこようかな。
「ナナコ。ちょっと出てくる。すぐ帰る」
って行こうとしたら、ナナコに裾を掴まれた。
「あ、あの」
「ん、どうした?」
「ひとりイヤ。ついていっちゃ、ダメ?」
上目遣いで言うナナコに
「ダメなわけないだろ。一緒に行こう!」
としか言えないよな。やっぱ。
村に人からは、「エイトさん」って普通に呼ばれるから大丈夫だけど、昨日のモルドさんみたく【勇者エイト】と誰かが言わないとは限らない。
解除魔法すれば良いんだけど、呪いが発動するとナナコが悲しい思いをするようだし、避けたいんだよな。
でも、まぁ、注意していこうか。
何人かの村人にあって
「エイトさん、おはよう。あれ、その子は?」
「あ、娘なんです。ナナコ、挨拶できるか?」
ナナコが俺の影に隠れる。村人が、俺に娘がいる事に、驚くものの、ナナコの可愛さにやられる。ってパターンを何度か繰り返した。
「パパ。」
不意にナナコに呼ばれた。パパって呼ばれるの慣れないけど、頬が緩む。
「どうした?」
「あいさつ。って、どうするの?」
おぉ、挨拶できてないこと感じて改善しようと……。
エライぞナナコ。流石は俺の娘だ!
ま、本当の娘ちゃうけど…。
「挨拶か。ナナコです。おはようございます。って言うんだよ。」
「あいさつか。ナナコです。おはようございます。っていうn」
「ナナコです。おはようございます。だけで良いよ。」
「あ、」
ちょっとテレるナナコ。かわいいね。ちょっと笑ってしまった。
行き道で、昼ならこんにちは、とか、夜ならこんばんは、とか、お礼は、ありがとう、とか教えながら歩いた。
モルドさんの家につくと、娘のリゼが洗濯物を干していた。
「あ、エイトさん。おはよう。」
「おぅ。リゼか、おはよう。」
リゼは、俺の後ろに着いてきている天使ちゃんの存在に気づいた。
「エイトさん?その…。」
「あぁ、娘だ。」
「ななこです。おはようございましゅ。う」
ん、最後噛んだみたいだけど、良くできたな。
「えらいぞ、挨拶できた。」
頭を撫でながら誉めてあげた。
ん、リゼの様子が、変だ。
「娘ですって、エイトさんに娘…。」
おい、子どもが挨拶してるんだから…。
「あのな、このおねーちゃんが、昨日来たモルドさんの娘さんのリゼだよ。」
仕方がないので、俺が紹介する。
「むすめさん?」
「そうだね。俺にとってのナナコ。とはちょっと違うか。」
「パパにとってのナナコは、むすめ…。」
「そうだよ。ナナコは俺の娘だよ!」
この際だ。しっかり言い聞かせておこう。君は僕の娘だって!
「パパぁ!?えっー!どういうこと?おとーさーん!」
リゼは、家の中に、しどろもどろしながら入っていった。
…なんだあれ?
「おとーさーん?ってパパのこと?」
文脈が読める頭の良いコ。それが、俺の娘だ。
さっきは、ちょっとおバカさんだったが。
ん、わざと?会話を弾ませようと?
ナナコ…。恐ろしいコ…。
「そうだね。おとうさん。とか、とうちゃん。とか言うよね。」
「ナナコもおとうさんってよんだほうが、いい?」
ん、いや、パパがいいかなぁ。でも
「ナナコが呼びたいようにで良いよ。パパって呼んでくれるのは、嬉しいけどね!」
ナナコは少し考えて答えた。
「パパが、うれしいなら、パパっていう!」
「うん。それが良いな」
うん。それが、良い!
暫くすると、モルドさんがリゼと出てきた。
「おはようございます。エイトさん。ナナコちゃん。」
「「おはようございます。」」
「その、すみません。リゼが失礼をしたようで、」
「ごめんなさい。その、エイトさんが結婚してたと思っちゃって…。」
ん?なんで俺が結婚?…あ、娘か。
「いや、結婚?してないよ、俺。まぁ、娘の事、俺も知らなくてさ。ハハハっ」
ま、正直、俺も勇者だ。戦争終結時には、リチャードほどじゃないにしても、モテモテだったわけで……。
ま、皆まで言うまい。
あれ、子ども作って、知らなかったって、人として最低だけど、この際、ナナコの可愛さに免じて、それは良いや。
まぁ、ナナコは、俺を殺しに来た暗殺者なんだけどね。
「うん。結婚してないなら、私にもワンチャン有りよね。この際、娘さんも受け入れるわ!」
なんか、リゼがブツブツ言ってるけど、良く意味がわからんよ。ワンチャンって何だよ!
というか、リゼは王都の学校を卒業して、就職せずにモルドさんを補佐するために、帰ってきた16才の女の子だ。いつまでも、こんなオッサンのこと想ってちゃダメだよ。初恋は卒業しないと。
初恋というより、ただの憧れだと思う。
ほら、俺って勇者だしね。危ないところ助けたり、魔法教えたりしたからな。
「エイトさん。リゼが戻って来たの、私を手伝う為だけじゃないこと。わかってやって!」
モルドさんが耳打ちしてきた。わかってるつもりだけど。
「モルドさんだって、娘の相手がこんなオッサンじゃヤだろ!」
ナナコの将来…。相手が、10才近くも年上……。
…そんなヤツ、殺すか…。
ブルブルっと首を振る。イヤなこと考えちゃった。
「そうだった。あのさ、モルドさん、リゼ。頼みがあるんだ。」
ナナコの替えの服の事をお願いしないと。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
ナナコちゃんにパパとかママって、呼ばれたくなった方、ブックマークや評価していただけると…。
ナナコちゃんが、頑張ってくれます。
よろしくお願いします。