最後の戦い
龍王との戦いは、3日3晩続いた。
と言うか、どれだけ戦っていたか記憶に無いくらい。
いつから戦っていたのか?
とにかく戦い続けた。
龍王の一撃は、俺にとっても必殺だった。
ブレス、爪、尻尾、キバ。どれが当たってもマトモに入れば一撃で殺られる。
だが図体はデカい。攻撃の動作も大きい。躱しながらダメージを与える。
俺の一撃だって、それなりのもの。だがデカいだけあって、龍王は躱せない。
ダメージを蓄積させていたが、急所には入らずジリ貧。ナナコがいれば、狙い所が分かったかもしれないが…。
「らちがあかんな。」
龍王が言う。確かに、このままだと、俺の体力が尽きるか、龍王に蓄積したダメージが、いつか致命傷になる。
この2通りの結末しかない気がする。
「確かに…。」
「我を、ここまで追い詰めし者も初めてだ。だが、この姿では、お前を斃せないようだ。」
「何をする気だ。」
「我の最高の一撃をだす。お前も隠しているのだろう。」
隠している一撃とは?
まぁ、ダメージが通り隙ができたら、渾身の一撃を叩き込むつもりではあったが…。そんな事までわかるのか?
龍王の周りが霧に包まれる。本気を出す合図か?
暫くして霧が晴れると。
誰かがいる。人の大きさ、人の姿へと形を変えた龍王がいた。尻尾とツノ、そしてウロコ、竜人族の姿か?
「おかあさんだったんだな?」
今は、どうでもいい事が口につく。独り言みたいになったけど。
「これで、本気の力が出し合えるかと思ってな。」
龍王からは、凄まじい魔力が発散される。
サイズが小さくなった分、凝縮された密度の濃い魔力。
「あぁ。本気だな」
⋯パパのほんき。
ナナコの笑顔が浮かぶ。ごめんな。俺の本気見たかったよな。俺も見せたかった。
勇者の力全てを剣に込める。
龍王が繰り出す拳は刃となり、俺に向かってくる。
俺は、全ての力を込めて龍王の刃に向かい剣を振るう。
勇者の力って、本当はどれほどなんだろうな?
昔から考えていた。
この力を得てから、勇者になってから、本気で力のすべてを使った事は無かった。
リチャード程の防御力は無い。
アリス程に、魔力が高くない。
ミュール程に、治癒魔法が使えない。
そもそも、治癒魔法苦手。
他にも、モルドさんみたく、村の皆を統率できない。
レグスさんは、俺より剣の腕は上。魔力使わなければ勝てる気がしない。
ダイチくんの真っ直ぐな性格。
リゼみたいに、いろいろな魔法使えないし、作れない。
あのバイス君だって、あんなに情報を集めるなんて俺にはできない。
リュオール家の皆。それぞれ俺より優れたところがある。
ナナコはきっと体力が俺と同じなら、単純に俺より強い。
俺は、世界最強の勇者と言っても、どれを取っても俺より優れたヤツがいる。
中途半端な器用貧乏。
俺が、自分を評価する時はそう考える。
俺を誰だと思っている?
だから、皆に、俺が勇者だと認められたい。
大好きな娘に勇者エイトって、言わせない呪いは、俺にとっての呪いだったのかな。
「パパは、せかいをまもった【ゆうしゃエイト】。」
ナナコが言ってくれた。まだ、自分で呪いを止められるかわからない時に。
勇気を振り絞って言ってくれた。
「ゆうしゃエイト。あ、」
ときどき、ナナコが、間違えて言って、自分で治してた。ナナコは、賢い。数ヶ月一緒にいて、何でも身につけられたし、言う事は一回で理解できた…。
ワザだったのか?
うっかりさんだなって、その場は和んだ。止めれるからって、呪いが発動するとイヤな気持ちになるって言ってたのに。あんな小さな身体で、精一杯気を使って。
でも、あの笑顔は、本当の笑顔だったよな。
....…。
龍王と勇者の力は、拮抗していたが、やがて魔力の総量の差か、龍王が押し始める。
「勇者の力。こんなものか?」
実のところ三日三晩、龍王が全力で戦い続けた事で、契約は達せられていた。
戦いを止めること、契約的には可能だったが、はじめて出会った対等に力を振るえる相手を前にして、龍王は戦いを止めることが出来なかった。後でわかった事だが…。
まぁ、俺もそうなんだが…。
「ぐぐっ」
まだまだ、勇者の力。こんなものじゃない。器用貧乏な中途半端な力じゃ無いんだよ。
皆の顔が浮かぶ。皆俺より優れたヤツらだ。
俺は、それを認める。認めて真の勇者の力を…。
勇者の力を振るう!
押し戻すぞ。
二人の周りを爆煙が包み、四方数キロの地形が変わった。
龍王と勇者は、力を使い果たしその場で倒れ込み、戦いは終わった。
引き分けってやつか…。
数日後、俺は馬車で揺られていた。
馬車には、聖女ミュールがいて、治癒魔法をかけてくれている。
リチャードとアリスも駆けつけてくれたそうだけど、俺が、無事そうなので先に騎竜で王都へ帰ってしまった。竜に二人で乗って、ギュッてくっついて。相変わらずの二人だったそうです。
護衛にレグスさん、ダイチくんがいる。
だからミュールに癒やされても、間違いはおきないです。
龍王は、もう居なかったそうだけど、デカい地竜の足跡があったそうなので、コダちゃんが来てくれたんだろう。
「体力は、回復したようだね!良かった。」
数日かけて王都につく頃には、立って歩けるくらいには、回復していた。
…体力はね。
次回、最終話で完結となります。
最終話後、後日談1話書いてます。よろしくデス。




