龍王と竜の子
魔法陣からおびただしいまでの魔力の拡散。
まだ姿を現さないが、明らかに次元の違う生き物。そんな気配がする。
召喚魔法は、魔法陣、魔力、そして使役させる為の代償。この3つが揃って成功する。
ジブルの事だ。魔法陣の作成をミスっている事は考えにくい。
魔力に関しては、ナナコに掛けた俺達の良質な数ヶ月分の魔力。足りないで欲しいが、恐らくジブルは魔力の量すら計算しているはずだ。充分なのだろう。
代償としては?
ジブルが自分の身を差し出した。正しくは呪いがえしを受けて、生贄となった。
条件が揃ってしまっている。
「セブ。逃げろ。」
「きゅー」
セブは、何故か動かない。俺の言う事が分かららないはずはない。
魔法陣の向こう側と言って良いのかわからないが、物凄い魔力の塊。
「頼むから。ナナコの為だよ」
「きゅう?」
セブがしぶしぶ飛び立とうとする。何かを待っている?
ジブルは、龍王と言っていたか?セブと似た感じの魔力ではある…。
セブは、これから来る龍王について、おそらく何か感じているのだろう。だが、このままでは危険すぎる。
ジブルの使役命令は俺と「戦え」だった。龍王がどんな奴か知らないが、俺と戦う以外の命令は無い。
俺が戦い、セブとナナコは逃げれば無事のはず。
頭が出てきた。頭だけで大きくなったセブの体くらいある気がする。
「イリスとのいにしえの盟約により、召喚に応じる」
声が響き、大きな黒い塊が空へ飛び出し、そして広場に降り立った。
それは、巨大なドラゴンだった。
前に戦った古代地竜と同じくらいか。
翼がある分、遥かにデカく感じる。
その昔、聖女イリスが龍王を助けた事があったという。龍王は感謝の印として、召喚魔法に応じると盟約をした。イリアス聖教は、その召喚魔法を秘伝として伝えてきた。という話。噂話、都市伝説だと思っていた。
先の大戦時に幾度となく召喚魔法を試されてきたが、失敗してきた。魔法陣に欠落があったり、魔力が足りなかったりしたそうだ。戦争が終わり、年月をかけて研究を重ねた結果、魔力と代償が必要との結論を得て、召喚魔法完成を目的として勇者暗殺計画が実行された。
逆か。勇者を消すために召喚魔法を完成させたのか。
どちらにしろ、今は目の前の厄災に集中だな。
そう、目の前の厄災である。
デカい。
夜明け前の薄暗い中での、黒い大きな存在。
そうだ。夜明け前だ。まずいな。人々が起き出す時間だ。大騒ぎになる…。
ただ、龍王の佇まいだが、おぉ、カッコええ。竜といえば男の子のロマンだろ。そのロマン中のロマン、それが、龍王。
巨大な身体に、凶悪な爪、キバ、強力なブレス。
セブも見たかったのかな?
でもそろそろ逃げないと...。
「我を呼び出したのは、汝か?」
「いや、俺では無いよ。」
「なら、勇者エイトとは?」
これ、誤魔化したら帰ってくれるのかな
「勇者エイトじゃ無いとしたら?」
「勇者エイトと戦えと言われておる。勇者といえば、人を助ける者。その辺を焼き尽くせば出てくると我は思うが。」
見かけどおり危ないやつだな。
「わかった。あまり周りを巻き込みたくない。俺が、勇者エイトだ。」
「では、言葉は、もう要らぬ。いにしえの盟約を果たすのみ。」
「待て。場所を変えたい!」
イリアス聖国の貴族などどうでも良いが、それでも犠牲は避けたい。と思ったんだが、この龍王、聞く耳を持たない。
「ぐごごごごg−」
ブレスを吐くつもりか龍王の呼吸にタメができる。
その時セブが俺の前に出た。
「何やってる。すぐに逃げるんだ!」
あ、ダメだ。ナナコだけでも下ろして安全な場所に移さないと…。
「きゅー。」
セブが声を出すと、龍王からブレス放出の気配が消える。
「…。お前?我の子か?」
土曜日の朝より失礼します。
もう後数話なので、この土日で完結までいけたらと思ってます。
良かったら最後までお付き合い下さい。よろしくお願いします。




