潜入
ナナコが起きたのは、夜も更けた頃。
軽く食事を取って、準備する。
腹が減っては戦はできぬ。とも言う。
ナナコもセブも目覚めはバッチリのようだ。
もともとナナコは、暗殺者として夜に動けるように訓練されているようだ。
俺を襲ったのも夜だった。
幼女を夜に働かすなんてロクでもないなホントに。
それも今日で終わりにする。
できるだけ高く飛び、風魔法を使い隠蔽を図る。これで地上からは殆ど見えない。
「セブ、ここでゆっくり降りていってくれ。」
「ゆっくりな」
セブは言われた通り、ゆっくり下降する。本当にこちらの言う事をちゃんと理解している。
おかげで殆ど目立つこと無く、広場へ降りることができた。
本来なら竜の離着陸には、暴風が吹き荒れるんだが、風魔法を使って暴風の相殺も上手くやれた。
「ナナコ。この辺が判るか?」
ヒソヒソ声で話しかける。ナナコは首を横に振った。
「ううん。ナナコがいたところとはちがう。」
ナナコがいた孤児院は、2重の壁のうち外側にあるんだろうな。内側は、貴族様の区域なんだろう。
広場の周りには、立派な建物が並んでいる。
「でも、あそこにはいったことがあるかなぁ」
ナナコが指差したのは、その中で一際大きく立派な建物だった。
「あれが教会か?」
「たぶん。」
ミュールの教会は、質素で、言い方を選ばなければボロい建物だった。
リチャードから教会改修の援助の打診があった時、ミュールが言ったんだよ。
「王都は、まだまだ復旧半ば。そのお金はそちらに使ってください。」
家の無い路上生活者や壊れた道なんかの対策を先にしろって言ってた。
凄いなぁって思った。やっぱ尊敬出来る聖女だよ。
って思ってたんだけど…。
「あぁ、あれ?教会が立派になってもしょうがないじゃん?」
「え、でも、信者の皆さんも立派な方が…。」
「聖女が教会の建物より国民の事を案じている事、王様が庶民の事を大切に考えている事を皆に知ってもらう。イリアス聖教の影響を排除する事やリチャードさんがやりたい事やる為には、この人の言う事なら聞くって言う圧倒的な人気が必要なの。それを買うって言ったら弊害があるけれど、それにお金を使ったのよ。」
余り俺には理解出来なかったが、今となってはイリアス聖教徒は王都にいないし、王様と魔王であるリチャードとアリスの結婚に反対する意見もほとんど聞かない。
ミュールとリチャードの人気は、王都では熱狂的とも言える。
良くわからんが政治と言うやつなのだろう。
セブを、一旦籠の中に入れて、イリアス聖教の教会と思われる建物の前に来た。降り立った広場の隣にある。
立派な建物がダメというわけではない。それには、威厳や敬意があり、そこには意味があるのだろう。でも、個人的にはやはりミュールのやり方が良い。
時間的には、もう少しすれば薄暗くなるだろうと言う時間。時間的には、3時とか4時くらいだろうか
教会には、明かりがついていた。
ー誰か起きているのか?
入る?
なにも情報がないのに、危険か。
ナナコを広場で待たせて俺だけで突入するか。
ダメだ。離れるのは得策では無い。
いや、ここに来たのはナナコの呪いを解いてもらうため。まずは話をするって決めてきた。
コンコンとノックしてドアに手をかける。
ガチャ。
ー空いてる。中に人の気配がする。
えぃ。俺は。勇者だ。どんな事があっても対応できるはず。
建物の中は、一般的な教会の造りだった。
真ん中に通路があり両サイドに長椅子。中央奥には、大きな聖イリスの像。イリアス聖教の神で初代聖女と言われるイリス。彼女もミュールと同じ異世界人だったのだろうか。ま、今はどうでも良いこと。
像の下には教壇があり、一人の男性がいた。
「良く来ましたね。勇者エイト。そしておかえり。7番。」
ナナコは施設では、ななばんと呼ばれていた。7番とはナナコの事。
ナナコな表情がこわばる。呪いの発動と解除。もう自分で、問題なくできる。だから連れてこれた。
男は、教壇から降り、こちらに向かって歩いてきた。殺気はない、話が出来るのだろうか?
まぁ、いきなり呪いを発動させるようなヤツだ。信じられないが。
向かい合い、剣の間合いに入る手前。男は立ち止まった。
戦い慣れている?
思った以上に厄介なやつなのか?
男は、なんとも言えない微妙な笑顔、そう少しも笑っていないのに笑顔を見せた。
「申し遅れました。ジブルと申します。」
ジブル枢機卿。ミュールが推測したナナコに呪いをかけた男だった。
この物語を読んでくださりありがとうございます
途中で上手く更新できなくなったりしましたが、なんとか投稿再開することができました。
完結までの下書きはできました。なのでここからは、毎日更新を心げけて参ります。




