騎竜
脱皮?進化か。
セブの背中からセブが出てきた。
新しいセブの誕生だ。
「きゅうぅぅ~。」
お、立ち上がった。
元はナナコの背くらいだったけど、今は急激に大きくなってる。
リチャードの乗っていた飛竜より一回り小さい位かな。
軽トラックくらいの大きさ?
ん、軽トラってなに?
そういえばわかってもらえる?誰に?
良くわからんがまぁ良い。
たまに聞こえる勇者の記憶ってやつだ。
「おおきくなったねぇ」
セブは、頭を下げてナナコに頭を撫でてもらっている。甘えん坊なのは変わってないようで安心した。
…。俺も、
と思って屈んでみたが…。
「ん???」
「ん。」
ナナコは、ちょっと俺の方を見ただけで、相変わらずセブとじゃれ合ってた。
……。
いいもんっ!帰ったらリゼにたっぷり甘えるもん。
………。
と、取り乱した。娘に頭を撫でてもらおうなどと、いい年したオッサン勇者の考えることでは無い。
俺は、ナナコのパパだからな。
気を取り直してナナコの頭をナデナデしておく。
でも、実際良く頑張ってるよ。ウチの娘は。
「パパ。くすぐったいよ」
といいながらも嫌そうではなく、ハグしてきたので抱き上げて、セブと向き合い
「ヨシヨシ。」
「きゅー」
竜なのでモフモフとはいかないが、まぁ、幸せな感じには違いはない。
セブは、大きくなってしまったが、リチャードから貰った籠の中に入ることができた。
だから街では籠に入り、目立つことなく過ごしている。ナナコを通じて意思の疎通は出来ているし、不便はない。籠の中は竜にとっては快適らしい。
街の外に出たときには、籠からだして、魔物狩りを一緒にしたりできた。
数日は、そんな感じでゆっくりしてたんだけど、エンペラークロコダイル討伐の報酬も受け取ったし、そろそろ出発かなと思う。
「パパ。籠の中にこれ入ってたよ!」
ナナコが、何見つけたようだ。籠はある程度の物を収納できるようにもなっている。リチャードからのおまけかな?
出してみると、鞍や綱等の騎竜の装備一式が出てきた。
なるほど、飛竜の子どものセブが脱皮して騎竜になるって事解ってたんだな。伊達に王様やってないなアイツは。
「コレ着けたらセブに乗れるかもな。」
ナナコに言ってみた。
「セブにのる?おうさまみたいに?」
「そうだ。セブは騎竜としてはまだちょっと小さいが、俺とナナコなら十分に乗れると思う。ま、セブがイヤじゃなければだが…。」
たまに人を乗せるのを嫌がる竜もいるらしい。
「セブは、イヤかなあ?」
ナナコがセブに聞いてた。言葉は通じないが、この二人結構わかり合ってるんだよな。
セブは、こちらの言う事かなり理解してるしね。
「きゅー!」
「パパっ!セブが良いって、乗せたいって!」
ナナコもセブの言う事、理解できるらしい。
良いなあ。なんか…。
街の外れに行き、馬具ならぬ竜具を装着してみる。
鞍は二人用で、俺が後ろで、ナナコを前に乗せるタイプ。あぶみと言うか足置きも前が子供用で後ろが大人用になっていて、丁度いい。
やはりリチャードはできるやつだ。
馬と違い轡は無い。竜がブレス吐く事ができなくなるから。
手綱は首に固定できるタイプ。竜とは意思の疎通で騎乗するもので、馬のように操作しなくても良いらしい。
セブは、ナナコと意思の疎通ができるようになっているので、問題なさそう。
俺の言う事も聞いて理解してくれるし。
「よし。ナナコ乗っていみよう。」
「たかくて、ちょっとこわいな」
「大丈夫だ。高さは、俺が肩車するくらいだろ。それに俺が後ろについてる。」
ナナコの運動能力なら一人でも、ヒョイって乗れるだろうけど、俺が持ち上げて乗せてみた。
続いて俺が乗る。
「ぎゅぅ。ぅ」
セブがちょっとよろめいた。人を乗せるの初めてだからな。流石に、いきなりは無理か。
「セブ!大丈夫か?一回降りよう。」
「ぎゅー」
セブから大丈夫って、意識が伝わってくる。
「ちょっとビックリしただけ、だいじょうぶだって!」
ナナコがセブの気持ちを読み取ってくれた。
「よしっ。じゃあ飛んでみようか」
「うん。セブ!とんでみて。」
「きゅーっ!」
ブワッっとセブの翼が動く。凄い風圧が周りにとんでいるのがわかる。
もう一度、セブが翼をはためかせる。
フワッ。
…。浮いた。浮いてる。
と思ったら、
「しっかりつかまっていてって」
掴まっていて?ナナコがセブから意思を受け取ったらしい。
ナナコを腕で抱えて、手綱をしっかり握った。
ナナコも鞍の手摺をしっかり持ってる。
不意に、一気に上昇。加速した。
普段、馬並みの速度で走っている俺からしても、
ー疾い。すごいな。そして、メッチャ気持ちいい。
爽快ってやつである。
「すごーい。セブっ。すごいよっ!」
「おう、気持ちいいな!」
セブが横目で、ドヤっって見てる。
リチャードが竜に乗って俺達に会いに来たときから、俺達を乗せること夢見てたらしい。リチャードの竜に憧れてたんだ。
そんな気持ちだったと、後でナナコから聞いた。
「セブ。良かったねー。」
ナナコも良かったって言ってるようだ。
1時間程南に飛んでみると、国境の街まで3日程掛かった村が見えてきた。
すごいな。走るのと比べ3倍位か。セブは赤く無いが…。
ん。何の話だ?
まあ良い。世話になった村なので挨拶したかったが、
村人達を驚かせても駄目なので、引き返し街に戻った。
…。
これなら、街から数時間でイリアス聖国に着いてしまうな。
一気に行くって選択肢もできた。
開拓地をゆっくり行くのでも良かったのだが…。
竜の子どもセブが進化しました。
竜はもう一段進化して成体となりますが、次の進化は順調に成長しても数年後になりますね。




