新勇者パーティー
名匠ゴランの腕は、確かだ。
硬いはずのエンペラークロコダイルの皮膚をいとも簡単に切り裂ける。セブのブレスは意外と効いているようで、注意をかなり引けている。
それに、
「あいすー、ばれっとぉー」
カワイイ声からは、想像もできない威力の氷の塊がワニの後頭部らへんに命中する。
「ぐおぉぉぉぉぉっ!」
ワニが、ナナコに向かって突進しようとするが、俺が食い止める。剣を振るとワニが避けるが、斬撃に伴う圧で動きを止める。
本気を出せば一発で命中させる事はできるかもしれないが、それだと真っ二つにしてしまう。またパパやり過ぎだよって言われるよな。
けどさっきから、ナナコの氷塊は一点を狙い始めている。目の後ろの耳の辺りか?
「ナナコ。狙ってるのか?」
「うん。たぶん、あのへんがよわい。」
また氷塊を命中させる。魔法を思った範囲に飛ばせるってことか。習ったばかりなのに凄いセンスだな。
「よしっ。じゃあ今度は俺が援護するから、ナナコがナイフでやっつけてみて。」
「わかった。えんごおねがい。」
「おう。任せろ。」
上空のセブに声を掛ける
「セブ、良くやったな。もう良いぞ。降りてこい。」
援護に雷魔法を使うので、飛んでると被雷する恐れがある。
「電撃魔法」
威力は弱いが感電で麻痺させる魔法を放つ。
…。暫くすると、エンペラークロコダイルの動きが鈍くなる。
「今だ!」
ナナコに合図する。
「はいっ!」
うん。いい返事だ。
目で追うのがやっとの速さで、ナナコがワニとの間合いを詰める。手にはゴラン特製のナイフ。
決まったな。
ナナコがエンペラークロコダイルの後頭部にナイフを突き立てる。本当に急所だったのだろう。俺の電撃で痙攣していたエンペラークロコダイルが、ナナコに刺されて静かにそして動かなくなった。
一撃か、相変わらずスゲェな。天性の勘ってやつか?
「パパぁー。やったよー」
駆け寄るナナコとハイタッチして、抱き上げる。
軽いな。でも、強かった。
「きゅー」
セブが、俺達の周りを飛び回る。
戦闘終了のBGMが欲しいところだな。
それにしても、魔物としては最高ランクのエンペラーを、無傷で一方的に蹂躙するなんて、幼女と幼竜だけど現時点で世界最強のパーティーって言っても過言ではないな。
これにタンクのリチャードと、攻撃魔法をアリス、回復役にミュール、魔法なら何でも出来るリゼが加わったら、怖いものは無いな。
魔王でも倒せるぞ!
あ、現魔王は、アリスだったっけ。
最強生物といえば、竜王か?
あの古代地竜のコダちゃんより遥かに強いって、理不尽な強さと聞いているが、皆がいれば倒せるかもな。
ま、今いない人の事を言っても仕方ない。勇者エイトと娘のナナコ、竜の子どものセブでやっていく。
うん。良いパーティだと思う。
さて、目の前のデッカイ物体である。
解体も手間だな。
ナナコは、エンペラークロコダイルの皮膚を貫き後頭部を刺すことで一撃で仕留めている。ナナコが刺した箇所は、微かに光が漏れており、調べると魔石が埋まっていた。
…人工的に魔石を埋められて進化した?
なら、コイツのエンペラーにしては微妙な強さも、ナナコが軽く切り裂けた皮膚も魔石の影響か?
ジブル枢機卿と言うやつが、俺達を足止めするためにやったのだろうか?
あとでわかった事だが、イリアス聖国が王国の勢力圏をこの河以北に広げさせない為に色々やってたと聞いた。これ以外にも、河北の開拓が魔物の襲撃等で上手くいかない事もあったりした。イリアス聖国が手段を選ばない妨害工作をしていたらしい。
「きゅー。」
魔石を取り出すと、セブが魔石を物欲しそうに見ている。
「どうした?欲しいのか?」
セブが頷いたように見えた。コイツのように体に埋めて無理やり強化するみたいなことはしたくないが…。
ま、そもそもだが、そのやり方も知らん。
俺の拳大の大きさはある。かなりの値で売れそうだが。
「ナナコ、セブがこれ欲しいらしいよ。」
「うん。セブがほしいなら。いいとおもう」
ナナコも良いって言ってくれた。セブにあげてみるか。
ほいっ。
「きゅうぅぅー。」
セブのテンションが上がる。
魔石をくわえて、どうするのかなって見てたら、
「パクっ、バリバリバリ。」
ん?食ってる?そこそこ堅い魔石を噛み砕いてる。流石は竜だな。
「ゴクン」
あ、食っちゃった。




