国境までの道のり。
リチャードとは、その場で別れた。
名残り惜しかったが、ヤツは王様である。忙しさは半端ないのだろう。
そんな中でも、俺たちに会いに来てくれた。
「リチャード。ありがとうな。でも忙しいのに…。」
「あぁ、竜騎士団の誰かに頼んでも良かったものだが。」
ん、何が、ダメなん?俺としては親友が直接来てくれるのは嬉しいが、無理はしないで良いと思うぞ。
「あーちゃんもミュールさんもリゼも、ナナコちゃんに何か渡してるって聞いてな。」
ん?それと王様自ら来るのと何の関係が?
「俺も、何か渡したかったんだよ!」
そっか。一緒に旅できんし、ナナコにとって印象薄いもんな。
「おうさまのリッくんさん、ありがとう!」
ナナコがお礼を言う。ふむ。察しのよいコだ。でも、おうさまのリッくんさん。とは?
リチャードが膝を立て、ナナコと目線を合わせてアタマを撫でて言う。
「頑張れとは言わない。俺の親友ゆうs、…。俺の親友に全て任せて大丈夫だ。エイトなら何でもやってくれる。」
お、勇者エイトと言わないでくれた。流石だ。
「でも、ななこ。パパといっしょにやりたい。」
ナナコは自分のこと、ちゃんと自分で解決したいんだよ。
「そうだな。わかった。ナナコちゃんは出来るだけのことをする。ダメと思ったらすぐ逃げる事。何かあったら、この国に帰ってきてほしい。この国は全力で君を守るよ!」
そう言ってリチャードは、飛び立っていった。
おぃっ、変なフラグ立てるんじゃねぇよ。
最後にナナコからのホッペにキスをねだり、均整な顔を崩しながら。
それでも、カッコ良く颯爽と去っていく。
くそぅ。オレでも特別な時しか、チュウ無いのに!
…仕方がない。リチャードだし。
それから国境の街までの旅は、順調そのものだった。
戦争からの復興はまだ半ばではあるものの、人々の生活には少し余裕があるのか、行く先々で野菜を貰ったり、ただで泊まらせて貰ったり。
俺が、勇者エイトと言うことは、黒い髪で気付かれたりして、偶に
「勇者エイト様に貰ってもらえるのだから、こんなに嬉しいことはない。」
と言われて、呪いが発動して一悶着あったり。
とはいえ、ナナコにとって呪いの解除はもう息をするように簡単なようだ。呪いの力自体が弱ってきているのだろうか?
このまま、呪いが消えてくれればとも思うが。ミュールからは、
「そんなに単純じゃないのよね。」
って言われてる。
まぁ、頑張るしかないか。
食べ物や宿のお礼をしようとするが、皆受け取ってくれない。路銀をそれほど持ってきている訳では無いが。
「ありがとう。おじぃさん」
ナナコの笑顔で充分のようだ。皆満足しているように見える。
魔法の籠は、本当に役に立った。
幼竜とはいえ竜である。そのままでは、やはり民泊はしにくかった。ただ、子どもたちと無邪気に遊ぶ竜なので、問題無かったかもだが。
平和なのは良いことなのだが。魔物狩りしていないので、魔物の肉があまり食えずセブの脱皮はまだまだのようだし、俺とナナコの腕も鈍りそう。プラチナ冒険者のナナコの腕は、今はどうだろう?
と思ってたら、ナナコが料理中に飛んで来る虫をナイフで切っていた。虫って言っても、蝿のような小さな虫である。
飛んでいると狙いが定まらないし、剣先が当たる前に虫自体が軽いので、風圧で虫が飛ばされて避けられてしまう。
簡単なようで達人級の技が無いとできないと思う。
腕はなまっていないようだな。ナナコよ!
真っ二つに割れた虫を見て、哀れみを感じる。
料理に入ろうとしていた虫くんが悪いよ。
でも、躊躇いもなく虫を斬る娘…。育て方間違ってる?
他にもいろいろあったけど、10日程歩いた後、国境の街に着きました。




