聖女と俺。
冒険者ギルドを出た俺達は、鍛治ギルドへ向かう。
「この勇者の剣の手入れと、ナナコのナイフの調整だな。」
「せいじょさまには?」
ナナコが聞く。そうだよな。聖女に会いに、王都まで来たんだよな。
とはいえ、少し心の準備を下さい。
「ははは、聖女は逃げないよ。先に用事済ませておこう。」
「…。なんか、へんなパパ。」
鋭い娘だ。変に気が付くんだよな。
必要なのは、鈍感力だよ。
鍛治ギルドで、依頼を出す。
「ゴランさんに依頼したいのですが。」
ドワーフの鍛治師ゴラン。俺の勇者の剣は、彼にしか手入れさせていない。
世界一の鍛治職人だ。
「ゴランさんは、南の都サウドでバカンス中です。一週間くらいでお戻りになります。」
「わかった。依頼はできそうかな?」
「まぁ、仕事を選ぶ方ですので、話はすぐにできるかと。」
「うん。じゃあ、エイトが来たって伝言頼む。」
「畏まりました。」
鍛治ギルドを出る。
くっ!
南の都の浜辺で、水着の美女を侍らせて、「うぃーっ」て酒飲んでるエロドワーフ親父が目に浮かぶ。
まぁ、それなら金を使い果たしてくるだろうし、依頼は受けてくれるだろう。
一週間待って、手入れにもう1週間ちょっとか。
意外に、滞在が伸びそうだな。
…困った。やることが。
行くしかないか。
広場の噴水に腰かけて考える。
「きゅー」
セブは良い。無言で撫でていられる。
「パパ。せいじょさまには?」
ナナコが聞いてくる。人だと聞かなきゃいかんことまで聞いてくる。
でも、聖女にお願いするって決めたのは、俺だ。
「よし、行くこう」
ーーーー
聖女のミュールとの出会いは、戦時中。
戦闘に巻き込まれた馬車を助けたところ、その馬車に乗っていたのが聖女だった。
戦場で傷付いた兵士達の慰問に、来ていたらしい。
そこで捕虜となっていた魔族を見て、そして話をして、この戦争に疑問を抱いたと言っていたな。
それを聞いて、戦争を終わらせたい俺たちの活動を説明して、味方してくれるように働きかけた。
聖女の属するリベルト国教は、人族至上主義のイリアス教団と対立しており、聖女の身の安全を守る代わりに、魔族との融和に協力してくれることとなった。
聖女は、胸も大きく、体だけ大人になったお子様だった俺には、凄く魅力的だった。その時の初恋を吹っ切れるくらいには、魅力があった。
初恋の相手が誰かって?
前章で匂ってただろ。
そんな魅力的な存在と四六時中一緒にいたのである。
聖女は、俺に好意を持っていてくれていたし、ま、俺も十代で、その、やりたい盛りというか…。
つまり、まぁ、そうなるのに時間はかからなかった。
あの時は、初めて同士でたいへんで。とかそんな話はいらないな。
愛しては、いた。
いや、ちゃんと好きだったよ。
平和になって、一緒に暮らし始めたんだが、ある日思い出したように、
「私は、NTRでBL好きの腐女子なのよ。」
なんか魔法のような言葉が聖女から出た。
ねと?られ?、びーえ?ふじょうし?
意味わからん。どこの言葉だ?
最初は、リチャードと俺を、くっつけようとして、
リチャードと組手している俺を見て、
「あぁ、尊いわ。もっと近づいて、触れあって!」
??尊いとは??
リチャードとは、友達だよ。親友だ。
そういう道があるのは聞いたことがある。女性の少ない戦場では流行ったらしいが。
戦場で流行ってた?
そうか、戦場では、彼女を満足させるものが、日常的だったのか。
だからといって、戦争をもう一度とならないところが、ミュールの聖女たる所以だ。信頼はできる良い人なんだよ。
俺だって、男だ。好きな女を喜ばせたい。
えっと喜ばせたい。のだが、それだけは無理だった。
俺は、貴女の胸に釣られてここに居るんだよ、女性が好きなの。女性の柔らかいのが良いんだ。…ごめん。
ちゃんと話し合うべきだったけどね。
遂に、ゴツくてその道の本職のお兄さんに、俺を襲わせた。その時、
「一度やってみたら病み付きになるらしいよ。」
今まで見せたことのないようなキラキラした笑顔で俺に言った。
いや、ギラギラしてたかな。
「止めろよ。無理、怖いって!」
「痛いのは、初めだけだって。貴方だって言ってたじゃない。ほらっ、力抜いて!」
いや、それ、確かに言ったけれど。
言ったけど…。その時は、無理させちゃったけど。
力抜いて。とかも言ったけれど…。
………。
なんとか逃げました。聖女の結界は、強力だったけど、勇者の本気ならなんとか破れた。
結界の強さに、ミュールの本気度が伝わってきて、俺は、俺は…。
それから、あのミタール村に引きこもり、リゼと婚約するまで、彼女は作ってない。
女の人は、大好きだし、一時的にならとか思ったりもしてたけど。
ちゃんと、女性と関係するの、怖かった。
だから、リゼの気持ちも、最初は気付かないふりしてたんだよ。
そんな俺を、真っ直ぐな気持ちで、癒してくれたリゼには感謝しかない。
それと、リゼと結婚するためにも、キチンとしておかないとダメな問題。
俺の元カノ問題。
だから気が重いんだよ。
ナナコに説明できない。
ナナコに手を引かれて歩く。
「こっちだって!」
なぜ教会の場所を?
俺が噴水で打ちのめされている間に、街の人に教えてもらってたんだって。
なんというコミュ力…。
俺を越えたか。
読んで頂きありがとうございます。
聖女様は、そうなんです。また、この先追々、明らかにしていきます。
アリス編完結祝いの短編投稿しました。
https://ncode.syosetu.com/n9879hg/
「貧乳だからサッキュバス失格だと追放された魔王の娘。胸は小さいが魔力は絶大だった。それでも愛してくれる王子様と一緒に、戦争ばっかして迷惑な魔王軍を殲滅します。」
題がめちゃ長くなってしまった…。こちらの方もよろしくです。




