アリスがくれたもの。
レッドGグリズリーと戦った場所から、王都まではすぐ近く。歩いて半日というところ。
熊から、爪とか牙とか魔石やらの素材を剥ぎ取り、死体周辺に、結界を貼る。
「これでよしっと。ギルドに報告すれば、回収に来るかな。」
肉やら骨やら、使える部分はまだまだある。
レッドGグリズリーがいたからか、ほとんど魔物に遭遇せずに、数時間歩いた。
王都の手前、王都を見下ろす丘の上で、最後の休憩をとっている。
「卒業試験は合格じゃな。」
アリスが、ナナコの頭を撫でる。
「そつぎょうしけん?」
「ナナコが、儂の言ったこと出来たかどうかの試験じゃよ。」
「ななこ、できてた?」
「うむ、見事じゃ。」
アリスの頬に、小さな水の粒がみえる。
…泣いているのか?
「…お別れじゃ。」
「えっ?」
ナナコが呆然とする。まだまだ一緒にいれると思ってたんだろう。
「そんな顔をするでない。また何時でも会えるし、王都にもしばらくいる。」
なら、お別れと言うのは?
「おねえちゃん。まだ、いっしょがいいな。」
ナナコが言う。
「儂にも、やることがある。リッ君と結婚したいし、その為に、魔族と人族とを仲直りさせなきゃいかん。」
アリスとリチャードには、大きな目標がある。
人と魔族の融和。あの建設途中の街が、その象徴になるのだろう。
「うん。わかった。」
「ナナコは良い子じゃな。ワガママ言っても良いんじゃよ。」
「でも、アリスおねえちゃんも、やるべきこと、がんばるんだよね。」
「そうじゃな。儂のワガママでもあるんじゃが。」
「じゃあ、ななこも、おうえんする。」
ぎゅっと抱き合う二人。
なんか、良いなぁ。
二人は向き合い直し、両手を握りあってる。
「その腕輪。大事にしてくれるか?」
以前、アリスがナナコにあげた腕輪。アリスが魔力を込め直している。
「うん。だいじにするね。」
リゼにもらったネックレスと同じく、ナナコを守ってくれるようだ。
「リゼは、ママだったようじゃが、儂はナナコの姉で良いかな?」
「うん。アリスおねえちゃんは、おねえちゃんだよ。」
再び抱擁する二人。
リゼからは、魔法と嬉しい気持ち、笑顔を。
アリスからは、生きる力と喜びの感情、達成感を。
ナナコには、良い先生が着いてくれている。
俺一人では、ダメだった。
呪いの発動を抑えることも、あんなデカイ熊をやっつけられるようになることも。
俺一人では、できなかっただろう。
「ありがとうな。アリス。」
「うむ。儂も楽しかったぞよ。」
目の前の魔族の少女。
リチャードがいなかったら、俺が…。
昔を少し思い出した。
昔のアリスは、圧倒的火力で敵を蹂躙して、そして何より、…美しかった。
今もその美しさは変わらない。
少し呆然としていたらしい。
「どうしたんじゃ?」
「いや、昔を少し思い出して…。」
「あぁ、お主が儂に惚れていた頃の話か?」
いや、そうなんだけど。気付いてたの?
でも、俺達はそうじゃないよな。
「誰が、そんな初等学生みたいなって」
あれ、エイト叩き棒でバチーンと、こないか。
「ふん。儂にはリッ君がおるしな。お主も胸ばっか見てると、リゼに嫌われるぞよ!」
ん。リゼだけには嫌われたくないな。
「わかった。気を付けるよ。…しかし、無いものは見れん…。」
アリスの胸に視線を落とすと、
パチーン。エイト叩き棒登場。
「無いとはなんじゃ。無いとは!」
「えっ、どこに?」
「少しはあるじゃろうが。お主も見たろ!」
「いや、それを踏まえて、無いと…」
パチーン。またやられた。
「儂とお主は、これで良いな。」
「おぉ、元気でな。」
「おねえちゃん。またね。」
「うむ。王都にいるなら、またすぐ会える。」
パーティーメンバーとしての別れと言うこと。関係が無くなるわけではない。
うん。どうせ別れるんだ。
王都の喧騒の中でより、ここでというのも悪くない。
「リチャードによろしくな。」
「うむ、あの街が完成したら、あそこで結婚式をあげるつもりじゃ。」
おぉ、もうそんな話になっているのか。
「それまでに、俺達の用事を済ませて、行くよ!」
「おねえちゃんのけっこん。ななこもいきたい」
ナナコに向かって頷く。
「きゅー」
「あぁ、セブも一緒だ。」
最後には、みんな笑顔になった。
手を振り、そして、アリスは王都へと消えていった。
見送るのは、二人と一匹。
俺とナナコと、セブ。
俺達はゆっくり歩いていこう。
新しい冒険が始まる。
そんな気がした。
アリス編、終了です。
短編も考えています。恒例にしようかな。
完成させられるかわかりませんが。
本編は、まだまだ続きます。
次は、聖女編です。




