レッドGグリズリー戦
レッドGグリズリー。
普通のグリズリー。これは魔物ではないと言われている。だが人を襲うこともあり、子育て中は特に危険である。普通の人間では、なすすべもなく、やられてしまうだろう。
大きい個体は、3mに達すると言われる。
レッドグリズリーになると、魔力を帯び、魔物と言われる生き物になる。パワー系の魔物で、Bランク冒険者でも、手こずる魔物になる。
このクラスの魔物は、たまに出没するので、ナナコにやられたベイス君のようなAランク冒険者が、町には常駐していて、対応している。
で、目の前にいるのは、レッドGグリズリー。
Gはグレイトとかジャイアントとかの意味で、デカイ。
体長で4m以上はあるだろうか?
対峙するナナコの4倍以上ある。
重量にすると、20倍以上になるかもしれない。
対峙する構図、絵にならないな。
リチャードなんかだと、サーガの一節に出てきそうな絵になるんだが。
レッドGグリズリーも殺気を、ナナコを無視して俺たちに向けているし。
戦いにならんだろ。
やっぱり、と思って前に出ようとするも、アリスに肩を止められる。
「いわば卒業試験じゃ。邪魔するでない。」
「けど、あの爪…。」
引っ掻かれたら、お嫁にやれないよ。
あ、俺がもらえば…。じゃねえ、俺は親だし、ダメだよ、俺には愛するリゼがいる!
「楽勝とはいかんが、十分に勝機はある!」
マジですか?
「セブは、パパのうしろ。」
ナナコが俺の後を指差して、幼竜のセブを下がらせる。
ナナコが魔力を解放して、殺気をレッドGグリズリーに向ける。流石は、勇者を消しに来た暗殺者。
凄い気が発せられる。
レッドGグリズリーが、ナナコの殺気に気づいた。
レッドGグリズリーには、ナナコの殺気により、ナナコの小さな体が、大きく見えているはずだ。
なぜ?気を消して近づき奇襲するのが上策と思うが。
レッドGグリズリーが向きを変え、ナナコと正対した瞬間。ナナコが動いた。
正面狙いか。悪くない。
熊の目は、顔の横についている。馬ほどではないが、正面の視界が、少し弱い。
そして熊の急所は、眉間。
目で追うのがやっとの高速で、ナナコが熊に近づく。
速い。いけるぞ!
眉間にナイフが刺さると一撃必殺もあり得る!
「グォッオォ!」
ナナコのナイフが刺さるその時、熊が咆哮して、口から魔力を飛ばす。
レッドGグリズリーにはこれがあった。レッドグリズリーまでなら殺れてた。
ナナコが軽かった事も災いした。
俺なら、咆哮の魔力を押さえつけて、行けたかもしれない。
吹き飛ばされたナナコと、熊が距離をとって相対する。
熊の眉間から血が吹き出す。致命傷ではないが、ダメージを与えている。
もう一度行くか?対策されると厳しいが。
「大丈夫じゃ。ナナコなら問題ない。」
アリスが呟く。それでも、少し声は震えている。アリスも心配なのだろう。
咆哮の魔力を、かわしながらかすっただけで、あそこまで飛ばされた。体格差によるパワーの差は圧倒的だ。
熊が突進する。ナナコが闘牛士よろしく攻撃をいなし、かわしていく。
完全にかわさずに、攻撃をナイフで受けて、いなして避ける。
手に汗がすごい。助けにいきたい、無理だってあんなにデカイし。
「エイト。落ち着け。」
「落ち着いてられるかよ。ナナコ避けれてないだろ。もういいよ。いk」
助けに行くぞと言う一言を、アリスが言わせてくれなかった。
「待て!己の娘を信じるのじゃ。あの娘は、まだ助けを呼んでいない。戦いを冷静によく見るのじゃ!」
くっ。冷静に見られるわけないだろ。
ナナコが、熊の攻撃を避ける。
ナナコが熊の爪をナイフで受け止めて避ける。
ん?完全に避けた時と、受けていなしたときと違う?
「気付いたか?」
「ああ、最初の攻撃もこの布石なのか?」
「そこまでは、考えてないじゃろうが、戦いのなかで考えておるのだろ。」
「ウチの娘は、天才なのか?」
「そうじゃな。その辺の戦略的思考は、天性のものなのかもしれん。儂が教えたのは切っ掛けにすぎん。」
この旅で魔物退治をアリスと行い、臨機応変に戦況に合わせて動くことを教わっていたようだ。
ナナコが、熊の攻撃を受けていなしたとき、熊から魔力が発散され、熊の攻撃に魔力が帯びる。ナナコは魔力のこもった攻撃は、しっかりかわしている。
そして、熊が魔力を込める度に、眉間につけた傷から、血が吹き出す。力が入るからだろうか?
眉間から出た血は、熊の目に入り、熊の視界を奪う。
もう少しだ。
しかもナナコは、絶妙にわざと隙を見せながら、熊と打ち合っている。熊が攻撃をやめられないように。
なんだコレ。本当に初等学校に入るかそこらの幼女の戦い方か?
ふと気付くと、逃げ回っていたはずのナナコではなく、攻撃を仕掛けて追いかけていたはずの、熊が岩を背に追い詰められている。
その辺の誘導も見事だ。
熊は、目が見えなくなり、ナナコの殺気を受ける。
恐怖でしかないだろう。
「ぐおぉぉぉぉぉー!」
やたら滅多に、腕を振り回す。流石に近付けないかな。
これで隙を作って逃げるつもりか?
しかし、そんな振り回しただけの攻撃がナナコに当たるわけがない。が、万が一もある、気を抜くなよ。
ウチの優秀な娘は、気を抜くこともなく、熊の振り回した腕をかい潜り、背後に回り首筋に登り。
脊髄に向けて、一撃!
あの必殺な、かんざし職人のように、一撃で決めた。
レッドGグリズリーの討伐に成功した!
「パパ。やったよ!」
返り血で血まみれの我が娘は、巨大な熊の上に立って、駆け寄ってきた幼竜のセブを抱き止めて、俺に向けて、笑顔を向けてくれた。
…やっぱ、可愛い。笑顔を取り戻してくれて本当に良かった。
一日一話。3日で3話。
3話あげては、2話…。
…2話どうする?
とりあえず、出来る限り、投稿続けます。
よろしくおねがいします。




