ナナコの嗅覚。
「ナナコ!」
アリスが叫ぶ。
言われなくてもわかる。
あの小さな影は、ナナコだ。
凄いスピードだ。さすがはAランク冒険者!
感心している場合ではない。
考えている間にも体が動く。
久しぶりに出す本気だ!
本気だすと、回りが見えなくなる。
目標はナナコ!
それしか見えない。
俺は、本気なのに、本気なのに…。
少しずつ近付いているが、追い付かない。
どれくらい時間がたっただろうか。
本気だすと時間が長く感じる。
お、追い付いた。
というよりは、ナナコが止まったのか…。
ナナコがいる。それで十分だ。
ここは?
足場の安定が悪い。動いている?
…竜の背中か?
いや、竜じゃなくてコダちゃん。
すまねぇ。今は余裕がない。
ナナコが、コダちゃんの一枚の鱗に、この前買ってあげたナイフをたてている。
「何を?」
「あ、パパ。ここなの!」
ここ?ナナコの嗅覚か?
「ここ?ここになにか?」
いつも急所を正確に狙うナナコ。
三男シグルド君、Aランク冒険者ベイスの心まで粉砕したその急所をつく嗅覚。信じるか…。
「うん。パパがやっつけたあと、ここが、ひかって」
俺たちが部位破壊した後、光って再生した?
迷っている場合じゃないな。
娘を信じるのは、親の務めだ。
ただ、言うことを聞かずにじっとしてなかった事は叱らないとだな。
…でもあのままじゃ、ブレスに巻き込まれていた訳で。自分の判断で逃げたこと褒めるべきなのか?
難しいぞ。コレ。
人の親って、どうすれば正解なんだ?
それに比べれば、足下のドデカい地竜のコダちゃんを討伐するなんて、簡単なことかもしれない。
俺には、ナナコがいるんだから!
「いくぞ!ナナコ。」
「うん。」
ここの鱗は、やはり何かを守っているのだろう。
切れないものはないと言われる、勇者に剣でも切れない。
ナナコのナイフでも…。
馬鹿正直に、鱗をど真ん中から切ろうとしている俺と違ってナナコは、鱗の付け根を狙っている。
それな。それだよ!
やっぱり、うちの娘は、天才です。
俺がおバカなだけ?
違うよ。俺なら後100回くらい切り込んだら破壊できたんだよ!
鱗の付け根に勇者の剣を突き刺し、テコの原理を利用して鱗を剥がしにかかる。
ナナコも微力ながらも、俺にとっては大きな力で手伝ってくれる。
コダちゃんのスキルなのか、首筋の辺りから無数の鱗の破片をこちらに飛ばしてきた。
やはりここが大切な部位なんだ。守ってきた。
かといって、今は手が塞がっている。せめてナナコは守らないと。
「エイト。任せろ!」
アリスが援護してくれた。魔力の膜で鱗の破片から俺たちを守り、同時に魔力弾で、鱗の破片をうち落ちしていく。
自分も守りながら、目眩ましの爆裂魔法を使いながら。
多重魔法、2重でも難しいのに4つ同時の4重魔法。しかも、一つは爆裂魔法を連発。
すげぇ。紛れもない魔王様だよ。
剥がした鱗の下には、ナナコの頭くらいある巨大な魔石があった。勇者の力を全開にして魔石を、コダちゃんから引き剥がす。
ナナコが、貼り付いた魔石とコダちゃんの皮膚の、剥がせないところをナイフで切っていく。
指示もしないのに、行動が的確だな。
本当に天性というやつか?
アリスのお陰で作業に集中できる。
とはいえ、4重魔法がそんなに続けられるわけない!
「ナナコ!急ぐぞ。」
「うん!」
「ぬおおぉぉ!」
「えいっ!」
だから、声が可愛いんだって!
……。
「取ったどー」
魔石を頭の上に掲げる。ふざけている訳じゃなく、アリスに知らせるため。
決して、ナナコにパパ凄いアピールした訳じゃない。
パパ凄いって、キラキラした目で見てくれるのは、正直、嬉し過ぎるが…。
魔石を剥がして、魔石とナナコを両脇に抱えて、コダちゃんと距離をとりアリスと合流する。
「パパ。ななこ、じぶんではしれるよ。」
あ、娘を助けた感出したかったんだよ。
ま、ナナコが魔石剥がしをやったも同然なんだけどね。俺は、ただの作業者だったし。
ナナコを降ろす。
「凄い魔石じゃな。」
「ああ、これで再生しないはず。」
だが、問題がある。
気力、体力、の限界だ。
「うむ。魔力には、まだ少し余裕があるのじゃが…。」
「やはり、このクラスとはヒーラー無しじゃキツかったか…。」
魔石を取られて怒り狂ったコダちゃんが迫ってくる。
「逃げるか?」
「そうじゃな。」
「にげるの?」
戦いにおいて、一番大切な判断は、引き際だよ。
残りの魔力、体力、気力から、倒しきれないと判断する。
休戦して、体力が回復して再戦すれば勝ち目しかない。
それはそうと、早く逃げないと…。
「ぐおおおおぉぉぉー!」
コダちゃんが吠える。
地竜のスキルか?
周りの土が盛り上がって、壁となり逃げにくい状況だ。
仕方が無い。
「俺が囮になるから、アリスはナナコと逃げろ!」
一人なら逃げられる。と思う。
「パパは?パパおいていけない!」
良いコだ。アリスと目を合わせて頷く。
アリスがナナコの手をとり逃げだそうとした時だった。
そびえ立つ壁の上に人がいるのを見つけて、アリスは歓喜の表情を浮かべた。
「お前ら!相変わらず俺がいねぇとダメだな!」
久々に会う親友は、高貴な身分となっても相変わらずだった。
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