娘になりました。
「大丈夫?」
呆然としている少女に声をかける。返事はない。こちらを向いて少し頷く仕草をしただけ…。
仕方が無い。
「ちょっと動かすよ。ごめんな」
俺に乗ったままの少女を抱えて、机に座らせた。
子ども用の椅子なんて無いけど、上手く座ってくれた。
少女を見る。黒髪が肩まで伸びて、目は綺麗な二重でパッチっとしているけど、顔のパーツのそれぞれは、少し小さめか。
俺を襲ってきた刺客では、あるのだけど…。
これ、小さくてカワイすぎるよな。このまま罪を問うのは可哀想すぎる…。
大人は子どもを守らんとイカンだろ…。
「これ、飲む?少し落ち着くよ。」
少し温めたミルクを出す。戸惑っているようだけど…。
「悪い物は入ってないよ。ほらっ」
俺もそのミルクを飲む。うん。やっぱ落ち着くにはホットミルクだ。ホッとする。
「それと術は、一時的にだけど解除されているから大丈夫だよ。」
それを聞いた少女の表情に、少し変化があったような気がした。
「落ち着いた?」
机の向かいに座っているのは、5.6才くらいの黒髪の少女。
子供用の椅子なんてないから、顔だけが机からでている。
それでも、なんとか俺が出した飲み物を飲んで、少し顔に色味が戻ってきた。
しばらくして。
「ごめんなさい」
そう言って涙を流す少女に、ハンカチを渡すだけで、俺は何も言ってあげられなかった。
数分か、もしかしたら数十分たっていたかもしれない。
泣きやんだ少女に質問すると、少しずつ答えてくれた。
「どこから来たの?」
「わからない」
「名前は?」
「ない…。すうじでよばれてた。ななばんって」
…。ひどいな。でも、こんな子どもが、他に少なくとも6人いるのか?
国王に言ってなんとかしないとな…。
もっとも、国内の問題じゃないかもしれないが。
「親はいるの?」
「わからない。いない、とおもう」
あ、聞いちゃ、ダメなやつか…。少女を見ると表情に変化はなく、少しホッとする。
「これから、どうしようか…」
少女をみるが、返答は無い。そりゃ、わからんよな。
「…かえりたく、ない」
少し、間が開いて少女がつぶやいた。
「うん。大丈夫だよ。」
何が大丈夫なのかわからないけど…。
「わたしっ、ゆうしゃを、ころせなかったから…」
少女が肩をふるわせながら続ける。
「かえったら、たぶん、ころされる…イヤっ」
少女は、再び泣き出した。
無意識だったけど、少女の横に立ち、肩を抱いた。
「大丈夫だよ。俺の名前、エイトって言うんだ。」
あ、俺の名前は、エイトって言います。勇者エイト。
綺麗な黒髪を優しく撫でてみる。
5.6才くらいか…。人魔対戦が終わって数年、もうこんな娘が居てもおかしくない年なんだけど…。
ま、その前に嫁さんが必要だな!
「…え・い・と?」
「そうだよ。外国の言葉で八番って意味だよ」
「はちばん?ななのつぎ?」
「うん、そうだよ。だからね。俺は君の味方だよ」
意味分からん論法だけど、自分が言ってて意味分からんけど…。
あ、数字で呼ばれるの、きっとイヤな思い出だよな。
なんか、間違えた気がする…。
でも、ぎゅっと少女から感じる抱き返してくる手に力が入った気がした。
少し安心感を与えたらしい…。
「キレイな髪だね。俺と一緒の黒だね」
黒髪は、この世界では珍しい。遙か東方の国では、一般的らしいけど。
「いっしょ?」
少女からそっと体を離し、少女の肩に優しく手をあてながら言う。
「ずっとここに居ても良いし。出て行っても良い。君の自由だ。」
こんな可愛いコが、家に居てくれていたら、この家にも花が咲くように明るくなる気がする。
今は、このコも暗く落ち込んだ感じだけど…。
あ、でもこのコいると、女の子連れ込めないか…。
目の前の少女をみていると、そんなことは些細なことに思う。
でも、決めるのは彼女だ。
「ここに、…いたい」
少女から、出たのはここに居たいと言う言葉。
「うん、わかっ」
了承を意を言おうとした瞬間。扉をたたく音がした。
ドンっ、ドンっ
「エイトさん。居るか?大丈夫か」
村長のモルドの声だ。人と魔族のハーフである彼は、魔力の感知に優れている。
自爆魔法を解いたやりとりで、かなり魔力を使ったからな。感知したのだろう。
ライトの魔法使ってるし、居留守も使えんか。
「モルドさん。大丈夫。問題ないですよ。」
扉を開けると、村長のモルドが立っていた。
「なら、良いんだけど。何かあった?」
「いや、何にも無いよ。」
モルドさんが、中を覗こうとする。
いや、心配してくれるのはありがたいけど、少女の存在を見られるわけには…。
モルドさんの視線を遮ろうとするが、
「あ、エイトさんをすごい美女が、訪ねてきたんだった。」
えっ、すごい美女。俺を?
一瞬、心を奪われた隙に。
「エイトさん。その女の子は?」
あちゃー、えっと、うっとーぉ。
「む、娘、そう俺の娘です。」
…娘にしちゃったよ。大丈夫かな?
不安そうにこちらを伺っている少女をみると、このコがよければそれも良いかな。
なんて、考えていた。
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