ランツ伯爵
ランツ伯爵領。
魔族領と接する辺境の伯爵は、広大な大地を領地としている。
幾つもの戦火をくぐり抜け、この領地を守り切ったランツ伯爵は、人族側の英雄の一人である。
王国内での身分は、辺境伯として侯爵と同格の扱いを受けている。
自ら息子の不祥事を察して駆けつけるほどの行動派で、貴族ぶらない豪胆な性格でもあり、民衆からの人気も高い。
三男の教育には失敗しているが…。
ランツ州 州都ランシール。
人口は5万人ほどかな。絵に描いたような辺境都市である。
領主の城があり、活気のある市があり、魔物の襲撃を防ぐ城壁があり、周辺地域からの人の往来も多い。
3人で、町の中心にある城の入り口に立つ。
「たのもー」
ん?ちがうか。
「たのもーってなに?」
…ふざけるの、ナナコの教育に良くないな。
「いや、なんでもない。衛兵の方に名乗って要件を言わないとだな」
「うん」
って手続きをしようとしたら
「ん。面倒じゃ。入るぞ」
だから、教育…。
「あ、ちょっと。」
若い衛兵に止められる。
「なんじゃ。儂の顔がわからんか?」
若い衛兵がアリスを見下ろして言う。
「魔族の子どもなんて、知r…」
あ、アリスに子どもっていったら…。
「どこを見て子どもと言っておるのじゃ、許せん」
衛兵はアリスの放つ魔力をまともに受けて飛んでいく。
彼は、ちゃんと仕事しただけなのに、理不尽だな。
…確かに、胸元を見て子どもって言ってたけども…。
衛兵は壁にたたきつけられて倒れた。殺してないよね。
あ、起きた。死ななくて良かった。
騒ぎを聞きつけた、ベテランの隊長格の人が
「何の騒ぎだ。…あ、アリス様…。」
そうなんだよ。この領で戦争に参加していて、アリスを知らないヤツはいないよな。
…マニアにはたまらんらしい。そのマニア達、ナナコには興味ないよね。
(我々は、熟女ロリであるアリス様を崇拝しているにである。熟ロリである我々は、ロリコンではないのである!)
ん、だれ?隊長さんの心の声?が聞こえた気がする。
「アリス様にぶっ飛ばされるとは、なんと羨まs…。オホン。この方は魔王陛下である。失礼の無いように」
…。この隊長さん見たことある。強力なランツ伯爵軍の中でも目立つほど強かった。
だけどこの人、アリスの放つ魔法に自ら当たりに行っているような感じがしたんだよな。変な動きをするから覚えている。
「おぉ、エイト殿も、いらっしゃっておるか。ランツ伯爵の騎士トーマスです。」
あ、そうだ。名前、トーマスさんだった。
「よろしくな。」
「おぃ。この方は、【勇者エイト】殿だ。迎賓室へ案内するように」
あ、ナナコを見る。いかん、呪いが発動してしまう。
ナナコは、難しい顔をしているが、魔力を練って対抗しているようだ。
「す、すとっぷ。」
お、停止魔法ができた。
「き、きゃんせる。」
できてる。初めて実践できたな。
「よくやった。」
嬉しくて踊り出したい気分をがまんして、ナナコの頭に優しく手を当てて褒める。
「うん。…できた。もう、だいじょうぶかな」
大丈夫だ。大丈夫だよ。
「おう。大丈夫。ナナコはできたんだよ」
ナナコの笑顔。やっぱり良い。
トーマスさんは、不思議そうな顔をしている。
「できたら、俺のことを、その、勇者と呼ばないでほしい」
お願いしておく。
「分かりました。勇者エィ、ぐっ…。」
「呼ばないでと言っておろうが!」
アリスの平手打ちが炸裂した。魔力乗せてる?
「失礼致した。」
いや、あなた悪くないけど、なんかトーマスさんからは恍惚な表情がみてとれる。
ご褒美になってるよ。
という割とどうでも良い騒動があったけど、俺を勇者呼ばわりしないことは、城内に伝わってくれたみたい。
通された部屋は、適度に広く、調度品も豪華すぎることはなく、ソファーや机も実用的な物だ。
ランツ伯爵の実直な人柄が見て取れる。なんであんな三男が育っちゃったんだろうな。
間もなく、二人の人が入ってきた。
ランツ伯爵と三男のシグルド君だ。
「ようこそいらっしゃいました。あの、まずは、息子からお詫びを…。」
シグルド君。足を引きずっている。足が悪いのかな…。
シグルド君はナナコを見ると
「ヒィ…。」
あ、ナナコにやられたアレ。治ってないんだ。
そっか、魔力を込めた傷。ナナコ以上の魔力を持った治癒士がいないと治せないか。
時間かけて、自然治癒を待つしか無いね。
俺、別にシグルド君のこと、治さないし…。
「もう、申し訳ありませんでしたっー!」
見事な土下座をみせる。
「あー。そんなの要らないよ。でもリゼは俺の嫁になるんだから、もう会わないでね、分かってるよね」
「はい。」
うん。良い返事。
「もしリゼになんかあったら、君のこと…。どうしちゃうかわからないからね。」
「はい。私は王都の騎士の下働きに行きますので、もうリーゼ」
「あのその、リーゼロッテってのもやめようか」
「はい、リゼ様には、もう金輪際会うことはないですぅ、ヒィ。」
明らかに俺じゃなく、ナナコに怯えている。
こんなに可愛い娘に失礼な!
ま、このへんで良いか。
「では、本題に入らせて頂きます」
ランツ伯爵が、シグルド君を退場させて、口を開いた。
深夜にもう一話、投稿できるかもです。
次は、アリスとナナコがお風呂に入ります。
…明け方になるかもだけど。
ここらで、お話の続きが気になってきたかたは、ブックマークと評価をお願いしたいな。




