リゼとの約束
「ナナコ。モルドさんとちょっと中で、お茶でも貰ってくれ」
「え、ななこ。のどかわいてないよ」
「うーんとね。パパは、リゼと少し話ししたいんだ 」
「じゃあ、あそこですわっているね」
家の入り口の段差を指さして言う。微妙に聞こえるような位置。
暗殺者としての訓練に聞き耳ってのあるんだろうか。
「じゃあ、私も一緒に座っています」
…モルドさん。娘さんの一大事に、盗み聞きは良くない。と思うけど。
しょうがない。聞こえるんなら聞くがいい!
「あのさ。さっきの…」
いざとなると、うまく言葉にできない。
話しかけるとリゼが、正気に戻ったようだ。
「シグルド君を追い払うために言ってくれたのよね。ありがとう」
ん、違うよ。違わないけど、違う…。
「えっと、違うくてだな…。リゼをアイツに渡したくないってのは、本心なんだよ」
「なにそれ、せっかく人が、気持ちにケリつけようとしているのに!」
………。ケリなんて、つけんで良い。
「俺は、どうやら、赤い髪をして、小さな角があって、明るくて、頑張り屋さんでしっかり者の、天才魔法使いさんのことが、好きなようだ」
リゼが好き。とは素直に言えないが、リゼの事ってのは、わかるだろ。リゼが黙っているので続ける。
「でもな、年が離れてるだろ、妹っていうか、そういうふうにしか見えなくてな。いや、今もそうかもしれないが…。」
「じゃあ、だめなんじゃん?」
「いや、そうじゃなくてだな」
「どうなの?」
「うん。今日みたいなことが無いように、そうだな。婚約するってのは、どう?」
あ、話が飛んじゃったし、リゼの気持ち聞いてないや。イヤだったら…。
そのときは、ナナコに慰めて貰うから大丈夫。
「婚約…?」
「あのさ、俺はリゼが、新しい学校の先生になること、応援したいんだよ」
そう、俺は、やりたいこと、やるべきことをやって、輝いているヤツが好きなんだ。とは以前に言った。
「私、どうしたら…。」
お、悩んでるのか?
「どうしたんだ?」
「私、エイトさんのお嫁さんになるのが、ずっと夢だった…。でも、先生になること、小さい頃からやりたかった…。」
そうだな、小さい頃、俺のお嫁さんに、なりたかったという夢は、知ってる。先生になりたかったことも…。
「うん。知っているよ」
「私の夢、二つとも叶いそうだけど、どちらにしたら良いの?」
ん、俺のお嫁さんにはなってくれるのか?
「えっと、前提条件を質問しても良いか?」
「え?前提条件?なにそれ」
「あの、先生になりたくて、アピスト先生から誘われて、リゼの返事次第で先生になれる。これはいい?」
「うん。あのあと、もう一度誘いに家まで来てくれた。凄くやり甲斐がありそう。私、本当にやりたいと思った」
「うん。それは良いことだな。それでだな、もう一つの夢なんだが…。」
「なに?」
「えっとだな。俺の気持ちは伝えたつもりだが、ナナコだっているし、その、リゼの…。」
気持ちはどうなんだ?子どもの時の憧れのままだったら…。
それは、良くない気がするんだが。
「そんなの決まっているじゃない!」
決まってるの?
「?」
「だから、エイトさんは、バカって言うのよ! 」
「バカでも何でも良いから、聞かせてくれ」
「大好きに決まっているじゃない。結婚できるなんて嬉しくて、嬉しくて…」
モルドさんとナナコが二人でガッツポーズして、がっちり握手している。
アイツら、がっつり聞いてやがる。
「よし。じゃあ、決まりだ」
「なにが?」
「リゼは先生になる。俺とナナコは旅に出る」
リゼが釈然としない顔になる。
「なんでよ?結婚してくれるって…」
「やるべきことをやるんだよ。リゼは先生をやる。俺とナナコは呪いを解く旅に出る」
「うん。」
「一年くらいかな。時間はかかるかもしれない。だからって訳じゃないが、とりあえず婚約しよう。」
「……うん。」
「そうだな。2年たって、リゼが大人になって、それでもまだ俺と結婚したい気持ちがあれば…」
「もう10年も想っているんだよ。無くなるわけないじゃない」
リゼの体つきをみると、十分に大人ではある。でも、これから、仕事をして、良い出会いがあって、辛くても前向きな別れがあって、イイ女になっていくんだよ。
「その間、リゼの方から婚約の破棄は自由にしてくれて良い。イイ男がいたら仕方ない…。」
「するわけないじゃないっての。あなたは?」
「俺は、俺にはナナコがいるからな。リゼママ以外の女を、ナナコのママにするわけには、いかないよ 」
ナナコがめっちゃ頷いている。丸聞こえなのかこの距離で…。
「ナナコのママになってくださいってのは、プロポーズの言葉としてどうかと思うが…」
「ううん。嬉しいよ。リゼママって呼ばれて嬉しいし。」
そのまま、抱き合った。モルドさんがナナコの目を押さえてる。
いやいや、ナナコより、アンタにこそ見られたくないんだが。
「じゃあ、約束だ。俺は、ナナコの呪いを解いて帰ってくる。」
「私は、先生になって、イイ女になって、あなたを、ううん、あなたたちを待つわ」
「うん。その時は、家族になろう」
言葉はもういらない。リゼと見つめ合う。
モルドさんとナナコが家に入っていった。気を遣ったのだろうか。
どーせ、家から覗いているんだろうが。
とはいえ、これ以上は…。我慢できない?というか表現方法がわからん…。
とにかく、今、愛すべき人、リゼと誓いのキスをした。
恋愛パート終了。
次で一章終了と言うことになりそうです。




