アサシンな幼女
「落ち着いた?」
机の向かいに座っているのは、5.6才くらいの黒髪の少女。
子供用の椅子なんてないから、顔だけが机からでている。
それでも、なんとか俺が出した飲み物を飲んで、少し顔に色味が戻ってきた。
「ごめんなさい」
そう言って涙を流す少女に、俺は何も言ってあげられなかった。
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数年前、世界を巻き込んだ人魔対戦が終わった。
勇者である俺、聖騎士であるリチャード。魔道士アリス。
俺たち3人の活躍もあり、戦争が終わった。
俺たちを中心とした最強のパーティーが、無理矢理戦場に干渉していって戦争を終わらせていったんだ。
人と魔族は対立していたけれど、俺たちは、人魔混成のパーティー。
人種関係なく、戦場に現れて圧倒的な力を見せつけて、戦意を喪失させていく。
そんな方法で、戦場でできるだけ被害を少なく、軍を退かせることを繰り返していった。
被害が少ないことで、戦闘可能な軍隊は温存されるので、戦争の終結は困難を極めたが、根気よく続けて、お互いの軍隊の戦意をへし折っていったんだ。
最後には、結局のところ戦争をやめようとしない王様と魔王を倒して、無理矢理終わらせたんだけど…。
聖騎士と魔道士の二人にとっては親だし、辛い選択をさせてしまったと後悔してるけど、とにかく戦争は終わった。
人族の国の王子だったリチャードは、戦争を終わらせた功績をもって王位を継ぎ、王様になっている。
魔族の皇女のアリスは、倒された魔王に変わって魔王となって、魔族の国を治めている。
一般人の俺は…。人族が主に住む人界と魔族が主にすむ魔界との境界にある辺境の村で、お互いの世界に対して牽制…。
と言う名のスローライフを営んでいる。
晴れた日に、畑を耕し、雨の日には本を読み。
肉が食いたくなれば、狩りをして。
魔族の脅威は去ったけど、野生の魔物達は害になるので、森に入って、適切に間引いたり。
まぁ、楽しくやってますよ。
国王と魔王によると、
俺が、魔族と人族の境界のこの地域にいることが、お互いに牽制となり、ゆっくりと交流を進めていこうということらしい。
・人魔融和派
・人族至上主義
・魔族至上主義
派閥がうまれ、それぞれの主張をしている。
まぁ、王様達が融和派なので、将来的に交流が進んでいくはず。
お互いの至上主義が、戦争の原因になっていることを、人々に分かってもらいながら。
この村では、一つのモデルケースとして、人族と魔族が仲良く暮らしている。
村長は、人魔のハーフで上手く二つの種族の混在をまとめている。
近々、この近くに街が出来て、交流都市を作るつもりらしいが、それはまだ建設中。
このまま、平和だったら良いのになぁ。
なんて思う日々。
そんなある日の夜。
寝ていると、何かが俺の上に乗っている?
それほどの重みは無いが、違和感を感じて、目覚めたのだけど…。
俺は、人族至上主義と魔族至上主義のそれぞれの皆様から、命を狙われている。
人族と魔族を仲良く交流させる悪の根源みたいな言われ方して。
暗殺も、まぁ、珍しいことじゃない。
この家には、リチャードが聖属性の、アリスが魔属性の結界を敷いてくれているので、悪意のある魔族や人族は無断で入れないはず…。
ん、殺気?ちょっと変だけど…。
暗闇の中、小さな何かが、俺の心臓に向かってナイフを突き刺してくる。
皮一枚刺さったところ、なんとか白羽取りの要領で、ナイフを止めることができた。
小さな何か、ナイフ?
夜目は利くけど、分かるのはこれくらい。
ナイフは止められたので、返り討ちにしてしまうのは、簡単だけど…。
「明光」
光の魔法を使って、部屋を明るくする。
俺の胸の上では、黒髪の少女が、涙を流しながら俺にナイフを突き立てていた。
小さい少女。幼女と言っても良いくらい。5,6才くらいか…。
ー泣いている?
ナイフを取り上げ、床に放り投げて、頭を撫でてあげた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
黒髪の少女は俺に謝る。
「いや、」
なんと言ったら良いのだろう。難しい状況だ。
分かっているのは、この子は、自分の意に反して俺を襲っていること。
そして、めちゃくちゃ可愛いことだ。
めちゃくちゃ可愛いこと。
大切なので2回言いました…。
「…ごめんなさい。…にげてぇ」
ん、何から?
黒髪の少女の体の奥から、魔力の暴走を感じる。
この魔法は?
ーディストラクト…。
爆発、自爆の魔法か。
刃物による殺傷を狙い、それがならなければ、自爆…。
しかも、これは、……呪い。
高い魔力があるとはいえ、こんな小さな娘に、殺しの技術を教えて、
俺を襲うための暗示をかけて、実行させるなんて…。
ゆるせないな。
とはいえ、これが呪いだったら、今は解呪はむりか…。
呪いをかけた本人に、術式を解いてもらうか。
難易度は高いが、術式を解読するか。
呪いをかけた本人が死ねば、術は解けるんだっけか。
解呪は無理でも、自爆魔法なら、解除魔法できるはず。
自爆魔法以上の魔力をもって干渉、押さえ込む。
「解除魔法ぅ!」
魔力の暴走が止んだ。
呪いの術式は一旦解除され、残されたのは、放心状態の少女と息を切らせた俺。
「ふぅ、ふぅ」
呼吸を整えよう。
これが、呪いなら、何かがトリガーとなってまた再発して、俺を襲ってくるのだろうか。
これからどうしたものか…。
読んで頂きありがとうございました。
ストックが15話ほどありますので、手直ししつつ、3連休で投稿していきます。
その間に、話が一段落するところまで、書けるはず。
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