リゼの夢。
帰りはゆっくり返ることにした。
リゼと俺が、ナナコをはさんで、手を繋いで三人並んで帰る。
ほんとの幸せ親子みたいだ。
一度やってみたかったんだよ。こういうの。
でも、歩いて帰ろうと言ったのは、リゼと話をするため。
「なぁ、良かったのか?」
リゼに話しかけた。
「何の話?」
「あの、アピスト先生だっけか。リゼのこと誘っていただろ。」
「あ、いいの。お父さんのこともあるし、ナナコちゃんのことも…」
「リゼ。お前、先生になりたいって言ってただろ」
「子どもの頃の話だよ。今は、お父さんの手伝いするのよ。」
「それでもだな…。」
「それに、ナナコちゃんにちゃんと解除するところまで教えないと」
「そ、それは、俺がちゃんと教える。」
今まで、黙って聞いていたナナコが口を開いた。
「リゼママは、どうしたいの」
急にナナコに聞かれて、
「わたっ、私は、…。そうだね。ナナコちゃんと一緒にいたいよ」
……。本心かな。
一緒に居たいと言うのは、本心だろう。
楽しそうにしているし。お昼寝もお気に入りらしい。
「本当は、先生をやってみたいんだろ?」
「…。」
黙りだした。
「俺はな。魔王や国王、聖女もそうだが、やるべきこと、やりたいことを一生懸命やる奴らを、尊敬するし、好きなんだ。」
田舎でスローライフ楽しんでいるヤツの台詞では無いが…。
「やるべきこと…?」
「うん。リゼがナナコに魔法を教えているのを見て、思ったんだ」
「何を?」
「これ、リゼがやるべきことなんだろうって」
「ナナコちゃんに魔法を教える…」
「ううん。ナナコだけじゃ無くて、多くの人にモノを教えてあげるってこと」
「ナナコに魔法を教えていて、どう思った」
「楽しかった。エイトさんもいるし、ナナコちゃんだからと思ってた…。」
確かに、ナナコは可愛いもんね。でも、多分そうじゃない。
「で、どうなんだよ?ナナコでお前の生徒は終わりなのか?」
「私、やりたいかも…。学校をはじめから作れるなんて、こんな機会ないし…。」
「やるべきこと。やりたいこと。同じなら、もう決まったんじゃん?」
ま、やるべきことってのは、俺が勝手に決めたんだが。
少し、考え出したのかリゼが黙ると、ナナコが話しかけてきた。
「パパ。わたし、やるべきこと?まほう?」
「そうだな。魔法で、止められるようになると良いな?」
「うん。わたし、まほう。がんばる」
「でもな。そうじゃないんだよ。ナナコの本当にやるべきことは違うんだ」
「っん?」
「ナナコはね。…。」
笑えというと、プレッシャーになるだろうか…。
「わたし…。でも、まほう、がんばりたいよ」
「うん。魔法は頑張ろう。俺も教えるの頑張るから。」
「うん。」
「ナナコはね。ナナコが楽しいっ。嬉しいっ。やったね。って思えることが、今のナナコがやるべきことなんだよ」
今まで、ナナコには楽しいことなんて無かったのだろう?俺との生活で、今までの数年分の楽しい、嬉しいを感じてくれると、俺も、嬉しいんだよ。
「ななこね。パパといれてうれしいよ。リゼママと、まほうれんしゅう、たのしいよ」
やっぱ、良いコだ。でもたまには、悪いコにならないとだめだよ。
でも、午前中は、ずっと俺が教えているんだけどな。お昼寝して忘れるのかな。
黙っているリゼに言う。
「まぁよく考えることだ。俺もナナコがちゃんと解除できるようになるまでは、村にいるし。」
「あ、そうだ。旅…。わたしも…」
行きたいっていうのか?
「ダメだよ。危険だし。モルドさんはどうするの?」
お父さんが心配だから帰ってきたんだよね?あの建設中の都市なら馬並みに走れば、10分だし。通えるだろうけど…
モルドさんは、リゼのお母さんである奥さんに先立たれて、再婚もしていない。
村長だし、男爵?だっけ準男爵だっけか、爵位もある一応の貴族だし。もてるんだけどね。
村長としての能力は申し分ないけど、その分生活力が…。
リゼのいない3年間は大変だった。ゴミ屋敷になるし、ほっておいたらご飯が作れないので食べない。だからどんどん痩せて。村の人々がモルドさんを交代で面倒をみてきた。
だから、帰ってきたのよね?
モルドさん自身は、生活不適合者の自覚は無く、リゼは俺と一緒になりたくて帰ってきたって言ってるけどね。今、また太っちゃったし…。
「…うん。私、ちょっと考える。」
歩くと1時間以上かかる。
でも、それからは、新しい都市の話とか、魔法の使い方とか、俺の昔のドジな話とか。
会話を楽しみながら、帰途についた。
俺とリゼは沢山笑った。ナナコからも、楽しい雰囲気が伝わってくる気がした。
3人で歩くだけだったのだけど、俺自身、凄く楽しかったのだろう。
日は傾きかけて、時間はたっぷり掛かったはずなのだけど、一瞬に感じる。
なんかの魔法か、コレ…。
村が見えてきた。
「あ、もう着いたんだ」
リゼが言う。同じ気持ちだったのかな。
「すぐだったね。はしったときよりはやい。」
ナナコも楽しかったようだな。
「パパがいってた。ナナコがやるべきこと。やった。」
「ん。どうした?」
「さんにんであるくの、たのしかったし、うれしかった。」
天使…。じゃなくて、もうナナコだー。
ん?意味分からない?
ナナコという、天使を遙かに凌駕する最大級の存在が…。
笑顔まで、本当にもう少しだよね。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
良かったら、ブクマと評価お待ちしています。
よろしくお願いします。




