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拒否権?ありません

 それからと言うものの俺は千登世嬢にほとんど毎日家に呼び出され、一姫さんにボコボコにされるという日々を過ごしている。


 今日も今日とて、校門に停まっていたセダンに乗せられ無事に千登世嬢の家までドナドナされ、俺は全身から走る鈍い痛みを堪えながら、道場へと足を踏み入れる。


「よろしくお願いします……」


 俺が一人で道場に頭を下げて入ってもその俺の挨拶に返事をしてくれる人なんて一人もいなかった。


「早かったな」

「まぁ……これも仕事ですから」


 俺が更衣室でいつものように袴に着替え、道場に戻るといつの間に道場に入ってきていたのか一姫さんがいつものように軸のぶれない立ち姿で仁王立ちをしていた。


「その心構えは立派だな。……それじゃあやるか」

「……はい」


 世間話を早々に切り上げた一姫さんが構えを取ってくいくいと挑発するように手のひらを起こす。

 勿論可能であれば拒否したいが、そんなことを許してくれる人ではないのはこの一月で分かっているので俺は肩を落とし徒手の構えを取った。


 ◇


ばいびまじだ(まいりました)……」

「よし、一旦休憩にするか」


「ばい」


 俺は口の至る所から出血し、ろくに言葉も喋れなくなるまで一姫さんに虐待(訓練)を受けていた。


「少しは手加減してくれよ……」

「あら、郁真いつにもまして男前ね」


「この顔が千登世嬢には男前に見えるのか?だったら今すぐに眼科に行った方がいいぞ」


 俺が道場の外にある水道で口の中の血をすすいでいると、千登世嬢が丁度様子を見に来ていたようだ。

 パンパンに膨れ上がった俺の顔を見て笑いを堪えながら話しかけてきた。


「あら、あまりにも郁真に似合っているものだから、つい」

「つい。じゃないんだよなぁ」


「そんなに拗ねないの、ほら使いなさい」

「……ありがとう」


 千登世嬢がそう言って俺に渡してきたのは氷嚢だった。

 こうして千登世嬢が俺の様子を見に来るときにはいつも氷嚢を差し入れしてくれるので、優しいんだか優しくないんだかよく分からなくなってしまう。


「そういえば今日はどうして見に来たんだ?最近は千登世嬢俺の訓練を見に来てなかったよな?」


 俺の記憶が正しければ、最後に千登世嬢が俺の様子を見に来てくれたのは二週間ほど前だった。


「ほら、そろそろ郁真が一姫に師事して一か月が経つでしょう?進捗を確認しに来たのよ。まぁ、その様子だと進捗は芳しく無いようね」


 千登世嬢が俺のあざだらけの顔を見てため息をついていた。

 訓練を始めたばかりの時は何とかなるんじゃないかと割と舐めていた俺だが、いざこうしてやってみると正直一姫さんとの実力差が離れすぎていて、成長と言う物を全く感じられない。


「情けないが、その通りだ」

「……まぁ、もともと一姫に勝てるなんて微塵も思ってないから良いのだけれど」


「そう!そうだよ。あの人何なんだよ?ほんとに人間か?」

「失礼ね、一姫は私の大事な部下で、れっきとした人間よ。ちょっとばかり戦闘が得意なね」


 正直、一姫さんに指をかすらせることも出来ていない俺はあの狐面の女性が本当に人間かを疑っていたが、千登世嬢が言うにはちゃんとした人間だそうだ。


 ――絶対嘘だ。


「……そうね、私と組み手でもしてみる?一姫ばかりが相手じゃ成長を実感できないでしょう?」

「いや、結構です」


 千登世嬢は俺との組み手を提案してくれるが、俺もむざむざ自分の命を捨てたくはない。


「それも良いな。お嬢、やってみるか?多分お嬢とやっても死なない程度には育ってるぞ。それに郁真にとってもいい経験になるだろう」

「一姫さん!?無理ですって!死にます!……てかなんでここに?道場にいたはずじゃ?」


「郁真があまりにも遅いもんだから一つ、ポカッと拳骨でも落としてやろうかと思って出てきたが……お嬢が来ていたならしょうがない。今回は許してやる」


 俺と千登世嬢の話を何処からか聞いていた一姫さんがそう言った。

 あと、一姫さんのげんこつはポカッじゃなくてぐちゃ。かズン!!なんだよ。


 控え目に言っても死ぬ。


「一姫もこう言っていることだし、組み手してみましましょうか。私も少しは体を動かさないとなまりそうですし」

「そうだな、たまにはお嬢も体を動かさないとその力も宝の持ち腐れだ」

「そうよね、じゃあ郁真。行くわよ」


「ね、ねぇ、俺の意見は?」


「組手をするなら一応お嬢も袴に着替えたほうが良い」

「そうね。袴を着るの何て久々だわ」


「あの、俺の意見……」


「ほら、郁真も早く来い、プロテクターを付けてやる」


 俺は千登世嬢と組手なんて天地がひっくり返ってもしたくないが、もうすでに二人の中では組手は確定している事のようで千登世嬢は道場の中に入っていってしまった。


 一姫さんは俺の袴をがっちりと握りこんでズルズルと引きずっていく。


「ねぇ!俺の意見は!?」


 抵抗しようにも一姫さんは片手で俺の体を持ち上げるほどの力の持ち主だ、俺の必死の抵抗もむなしく、道場の中に引きずられていく。何も聞いちゃくれねぇ。


 ――あれ、なんかおれドナドナされてばっかりじゃね?

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