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何なんだよ!もう!

 伊万里とのピンクな昼食を終え、一人残された俺は伊万里が先に帰ってしまったせいで店員や客の女性陣に何とも言えない微妙な視線を送られながらなんとか支払いを済ませピンクな空間を脱出することに成功した。


 店舗を後にし、一応先に帰ってしまった伊万里に連絡を入れてみたものの、結局その日のうちに伊万里から連絡が返ってくることは無く、伊万里からの大雑把にまとめれば「私が呼んだくせに先に帰ってごめんね」という返信が来たのは一日後だった。


 また、謝罪の連絡と共に、護衛の仕事は取り敢えず伊万里がお願いしたいと言うまでは休みということになった。


 元より、鬼頭さんに頼まれた千登世とは違い伊万里の護衛の仕事は伊万里の好奇心が故の依頼だったので、別に伊万里が休みで良いということで伊万里の日だった日が休日になり、休みが一日増えたのだった。


 実際伊万里に対する妙な気恥ずかしさもあって、伊万里からの申し出は有難いと言えば有難かった。


 そんなこともあって、千登世の家で相変わらず様子の可笑しい千登世の相手をして過ごし、今日は本来であれば伊万里の日だが、昨日の時点で特に伊万里からの連絡は無かったので、俺は自宅のちゃぶ台の上に学校の教科書を開いていた。


「とりあえず現代文からやろっかな」


 今日は母さんも仕事に出ているし、別に誰に行ったわけでもないがそんな独り言と共に俺はパラパラと教科書のページをめくっていく。


 ――――――――


 今学校でやっている範囲の復習と予習、つぎのテスト範囲を全教科さらい終わり、俺は頭上で手を組んで体を伸ばす。


「……ふぅ~こんなもんか」


 なんだかんだ集中していたこともあって、壁に掛かった時計をちらりと見ると既に4時を回っていた。


 そろそろ外も薄暗くなってきたので、部屋の電気を付けようと立ち上がり蛍光灯からぶら下がる紐を引くと部屋が白い光で照らされる。


「カーテンも閉めるか」


 そんな独り言をつぶやきながらカーテンを閉めるために窓際に足を運ぼうとしたその時玄関の呼び鈴が来るはずのない来客を知らせてきた。


 母さんが帰ってくるには早いし、ボディーガードの仕事を初めてから借金の返済も滞りなくしているし、そもそも今日は完全に休みで来客の予定等なかった。


 どこぞのセールスマンでもきたのかと少し億劫になった俺は、少し手を伸ばしてゆっくりとした手つきでカーテンを閉めていると、普通のセールスマンがするはずのない少し荒々しい音を立てて玄関の扉がノックされる。


 ――ドンドンッ


「おいおい、なんだってんだよ……」


 俺が玄関を開けるべきか無視するべきか悩みながら玄関に足を運んでいる間も絶え間なく扉はノックされ続けていた。

 しかし、ノックというには余りにも力強くむしろ扉を壊そうとしているんじゃあないかと思うほど叩かれ続ける玄関の扉の無事が心配になる。


「……はーい!いますけど!」


 このまま無視していると扉が壊れそうな気がしてならないので、少し俺もイラつきながら扉の前にいるであろう人物に向かってそう声を掛けた。


「早く開けなさいよ」


 ああ、もう嫌だ……


 扉の前から不機嫌さを分かりやすいほどに伝えてくるその声は非常に聞き馴染みのある声で、どうして?とつい口からこぼれそうになるが、もし玄関の扉の前に俺の予想通りの人物が立っているのであれば、そのまま無視するわけにも行かなかった。


「……遅いわね、もうっ」

「なんの用だよ……」


 きっと俺が扉を開けている時の表情は途轍もなく嫌そうな顔をしていたに違いないが、扉の前に立っていたのは全く嬉しくもないが予想通りの人物だった。


「今日明日郁真の家にお世話になろうと思って」

「……まあ一万歩譲って俺ん家に泊まるとして、明日学校だろ?どうすんだよ」


 特に何もない狭い玄関をきょろきょろと見渡す千登世には、何故?だとか、なんで俺ん家なんだとか言いたいことは大量にあるが一先ず置いておこう。


 俺に聞かれたことに千登世は言葉で返事をするわけでもなく、ただ、クイと横に顎を指すと表情は相変わらず読み取れないものの、どこか申し訳なさそうにしている一姫さんが少し大きめのキャリーケーズを手に持って立っていた。


 一姫さんが申し訳なさそうにしているということで、きっとこれは千登世の独断専行なのだろうなと当たりを付け呆れてしまう。


「……そりゃ、用意周到なこって」

「入ってもいいかしら?」

「拒否権があるのなら」


 そう言っては見たものの、当然俺に拒否権が有るわけもなく、千登世の満面の笑みで俺の意見は封殺されてしまう。


「はいはい。どうぞお入りくださいな」

「よくできました。それじゃあお邪魔するわね」

「……すまんな」


 靴を脱いでツカツカと何も気にした様子もなく部屋の中に入っていく千登世の後を追って部屋に入ってくる一姫さんからそんな謝罪を受けながら俺はため息を漏らした。



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