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実際凄いんだよ

 何時にもまして、可愛らしい大儀さんとまともに目を合わせることが出来ずにいる俺に、構わずちょっかいを掛けてくる大儀さんをどうにか落ち着かせようと控室で格闘していると、控室の外からスタッフさんだろうか、「そろそろリハなんで準備お願いします」という言葉が掛けられて大儀さんは初めて俺にちょっかいを掛けるのを辞めてくれた。


「よし。それじゃあ郁真君また後でね?」

「……はい」


 急に俺にちょっかいを掛けていた時のような明るさが嘘のように、スタッフさんから声を掛けられた大儀さんはピンと張りつめた雰囲気を醸し出した。


 これまでの仕事ではテレビ番組への出演とかで、大儀さんの真に「アイドル」として気合を入れているところを見ていなかったせいか、不思議と何の変哲もないはずの控室がまるで一姫さんと真剣に訓練をしている時のような重い空気感が纏わりついて、恐る恐る大儀さんの顔を盗み見るとただただ真剣な表情をしていて、これまでの普段の大儀さんの様子とあんまり違う物だから、先ほどまで俺のちょっかいを掛けていた人と目の前にいる人が同じ人物だと思えなかった。


 もう、俺なんか視界に入っていないのか、大儀さんは直ぐに控え室から出て行ってしまった。


 未だに少し余りの大儀さんの変貌に動揺していたのか、大儀さんがいなくなった後でも、控え室に一人残された俺は少しの間椅子に座って動くことが出来なかった。


 ◇


 その後やっと動揺も収まった俺は、控え室を出て近くにいたスタッフさんに石見さんの居場所を聞いて一旦石見さんに合流することにした。

 石見さんも大儀さんがリハーサルをしている間は自由時間だと言ってはいたものの、控室でジッとしているのもなんだかなと思ったからだ。


「それじゃあ、付いてきてください」

「分かりました」


 そんなことを考えているうちに、俺が話掛けてから耳に付けたインカムでどこかに確認を取っていたスタッフさんは連絡が付いたのかそう言って歩き始めたので、俺は置いて行かれないようにスタッフさんの後を追った。


「飯田君どうしたんだ?」


 スタッフさんの後を追っていると思っていたより直ぐに石見さんと合流することが出来た。

 石見さんは一旦挨拶周りが落ち着いたのか、観客席の後ろの方で、米粒のようになった大儀さんがステージの上で立ち位置の確認のような事をしているのを見ながら言った。


「いや、リハーサルの間することも無いので、取り敢えず石見さんと一緒に居ようかと思いまして」

「そうか。伊万里の変わりよう見たか?……アレ怖いだろ?」


 石見さんは控え室での様子を見ていたかのように、見透かした一言を放つ。


「怖いというか、驚きましたね」

「そうか、普段お茶らけてる癖に、いざアイドルの仕事となるとあれだからな」

「あはは、そうですね」


 石見さんは大儀さんが豆粒に見えるぐらい遠くにいることを良い事に好き勝手言う物だから少し笑ってしまった。


「ただ、やるときは圧倒的な結果を残すからな。今日だってこの会場の大きさは初めてやるのにも関わらずチケット完売だしな」

「それは凄いですね……」


 この会場はそんなに詳しくない俺でも知ってるような日本の中でも指折りの広さの、それこそ普段は野球などが行われているドーム会場だ。

 それを一人で埋めてしまえるような、中学生が今日本に大儀さん以外にいるだろうか。


 最初こそ緊張しながら付き合っていたが、最近は結構雑な関係になっていた。そんな適当に付き合っていた大儀さんが思っているよりも怪物であることに流石に少し感心してしまう。


「まぁ、伊万里がやるだけ、俺の仕事が増えるから嬉しくないんだがな」

「ぷっ……あはは、石見さんはそうですね」


 相変わらず、好き勝手言う石見さんと笑いあっていると、大儀さんの立ち位置の確認が終わって次は音響の確認に入ったのか、会場のスピーカーからはいつか動画聞いたことのある大儀さんの曲が流れ始めた。


 俺は大儀さんが控え室で言っていたことを認めざるを得なかった。

 実際動画で見るよりも、現場でこうして流れる音楽を聴くと迫力はけた違いで、体の内側から揺さぶられるような会場中に響く重低音は確かに凄いと思った。


「実際に見ると凄いですね」

「そうだな」


 石見さんはきっとこんなことは慣れっこで今の俺みたいに感動していないのかもしれないが、俺の語彙力の掛けた感想にも同意してくれた。


「これに観客が入るともっとすごいぞ」

「やっぱり違うんですか?」

「ああ、物販でペンライトも売っていて、観客がそれを振るのもあるが、伊万里が何かするたびに歓声

 で世界が揺れる」

「それはまた……、凄いというか何というか」

「いや、実際凄いんだよ。ウチの事務所は業界でもまぁまぁ大きいが、中学生でここまで大きな箱で出来るの何てここ数十年一人も出てない」


 これまで大儀さんを揶揄っていた石見さんが、珍しく大儀さんを素直に褒めるものだから、きっとこれは石見さんの本心なのだろう。

 恨み言を言いつつも大儀さんの実力に関しては認めていて実際大儀さんも結果を出しているのは間違いない。


「石見さん、大儀さんこっちに手振ってますよ」

「そろそろ、リハも終わりか、飯田君は伊万里の方に行ってくれ、休憩時間が終わったら観客の入場が始まる」

「分かりました、それじゃあまた」

「あぁ、また」


 石見さんと話していると、恐らく観客席にいる俺達を見つけたのか、大儀さんがこちらに向かって手を振るのが上に設営されている大型のモニターに映し出されていた。

 石見さんの言う通り、先ほどまで流れていた音楽も止まってそろそろリハーサルが終わるようなので、俺は軽く石見さんと会釈を交わして、大儀さんが待つであろう控室に向かった。



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