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車はなぜかよく寝れる

「石見さん……朝早すぎません?」

「……悪いとは思うが、イベントの時は大体こんな感じだ。伊万里も昨日から会場近くのホテルに前乗りしてるしな」


 千登世嬢の家で石見さんに連絡を受け取ってから、詳しく話を聞いて朝六時前に石見さんと合流した俺は、石見さんと二人で車に乗り込んでからあくびをかみ殺しながらそんな会話を交わしていた。


「とりあえず現場に着いたら、リハーサルもあるし、飯田君はそれなりに休めると思うから」

「でも……それって大儀さんに絡まれなかったらの話ですよね?」

「それはそうだな」


 結局休めると言われても、これまでの大儀さんとの仕事での絡まれようから考えると、大儀さんんが完全にリハーサルをしているとき以外は基本大儀さんの相手をしなければいけないのが石見さんの口ぶりから分かる。


 大儀さんとも既に何回も顔を合わせているし、よっぽどのことが無ければ大儀さんもアレを出さないし、最近はそこまで嫌な仕事とも思わなくなってはいるものの、それでも未だにあの大儀さんの容姿と立ち振る舞いには慣れそうになかった。


「とりあえず、現場までは一時間近くかかるし、飯田君は寝てても良いぞ」

「……それは有難いです」


 俺にとって石見さんがパソコンに何やら打ち込みながら放った言葉は願ったり叶ったりの言葉で、有難く俺は車の窓ガラスに頭をもたれ掛からせて目を瞑った。


 ◇


「……おい、着いたぞ」

「……ん、……はい」


 石見さんの言った通り、体感で小一時間ほど経ったときだろうか、俺は肩をゆすられて意識が覚醒した。

 未だぼやける視界に、目を擦ると車はイベント会場の地下駐車場で駐車しており、コンクリートの外壁に白いライトが反射して地下とは思えないほど明るかった。


 ポケットから携帯を取り出して時間を確認すると、既に七時を超えており、本当に一時間ほどで到着したようだ。


「とりあえず、飯田君には会場に入って、リハーサルが始まるまで、伊万里の相手をしておいてほしい。まだ観客は入場していないし、会場の中は関係者だけだから護衛の事は最低限で構わない」

「分かりました」

「観客が入場し始めたら、伊万里の近くにいてくれればいいから。一応スタッフにも飯田君の話は通ってるし、それなりの数のスタッフが目を光らせてるから、飯田君の負担もそこまで多くないはず」


 俺は、石見さんと会場の裏口から会場の控室に向かって歩きながら、今日の仕事内容について石見さんから話を聞くに、さすがに急な申し出だったことは石見さんにも分かっているのかそこまで俺の負担にならないように調整してくれているようだった。


「ただ、イベントの最後には握手会があるからその時は伊万里の隣で客が何かしないよう見て置いてほしい。一応護衛の人も居るが、伊万里が心を許していて、なおかつ護衛として安心できるのは飯田君ぐらいだからな」

「了解です。取り敢えず、最後の握手会が山場ですね」

「そうなるな。それじゃあ俺は会場のスタッフにあいさつ回りしてくるから、飯田君は伊万里を頼む」

「はい」


 石見さんから話を聞き終わり、控室の前で別れた。


「あ、郁真君おはよ~」

「おはようございます」


 控室の扉をノックしてから開けて中に入ると、メイクさんにメイクをしてもらっている大儀さんが鏡越しに軽い調子で挨拶を投げかけてきた。

 俺は大儀さんの挨拶に軽く返してから控室に備え付けられている椅子に腰かけて、大儀さんのメイクが終わるのを待つことにした。


「今日は急にごめんね、そういえば郁真君に、私がちゃんとアイドルの仕事してる所見せてなかったなって思って」


 大儀さんはメイクされながらも、椅子に座った俺に向かって話しかけてくる。

 どうやら今日の急な呼び出しは、大儀さんが自分の仕事をしているところを俺に見せたいが為らしい。


「一応、サイトとかに上がってるのは見たことありますけどね」

「まぁまぁ、動画と実際に見るのとでは違うから。何より、音の響きも違うしライブ感とか、ね。結構私のライブのチケット高いんだから!」

「まぁ、それなら特等席で楽しませてもらいますけど」

「舞台袖から見れる人はそうそう居ないからね」

「それもそうですね」


「よし、それじゃあ、今日も頑張りますか~」


 何て二人で話しているうちに大儀さんのメイクも終わり、イベントの為に気合を入れているのか、振り向いた鏡越しではない大儀さんの美しさはもはや怖いぐらいだった。




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