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同族嫌悪ですね分かります

 一通り仕事の流れの細部を詰め終わったので一旦石見さんと連絡先の交換を済ませお開きとなった、突然の葛西セキュリティサービスへの呼び出しは幕を下ろした。


 正直千登世嬢でお腹いっぱいの俺には、大儀さんの護衛を断る理由としては怖いからなんてのが通らないのは勿論百も承知だが、それでも今思えば失敗だったかな……なんて思ってしまうのもしょうがないだろう。


 なにせ、大儀さんは千登世嬢と同じように一般人には到底持ちえない特殊能力ともいえるモノがあるのは流石に分かるし、千登世嬢の様に普通と違うところが果たして怪力と魔性だったらどちらが良いかなんて俺には分かりもしなかった。


 街灯が明滅する帰り道に手持無沙汰だったので、大儀さんに付いて少し調べてみれば「一億年に一人の美少女」だの「超常の魔性」だのと先ほどまで当人と顔を合わせてかつその魔性を直接叩きつけられたこともあって液晶に映される文字列に渋い顔をしてしまう。


 それに、小森さんからの説明で大儀さんがアイドルをやっているのは知っていたが、軽く調べた感じでは大儀さんのファン層は何というか、その熱狂的というかそれすら通り越して心酔しきった信徒のような方々のようで、もうすでにこれからの事を思うと千登世嬢よりも大儀さんの魔性は質が悪く思えてしまう。


「千登世嬢って可愛いもんだったんだな……」


 大儀さん本人が怖いのに加えてプラスαで大儀さんのファンの人たちも怖いとなれば初めて千登世嬢と顔を合わせた時の一対一の威圧感と比べれば千登世嬢の方がよっぽどマシだ。


 それに千登世嬢はなんだかんんだ可愛いところが色々あるのをそれなりに長い事付き合っていることもあって知っているが、大儀さんに至ってはほぼ謎に加え、どこか含みを持ったようなあの笑顔を思い出すだけで暖かいどころかむしろ少し暑い気温とは関係なしに身震いしてしまう。


「……まぁ、未来のことは未来の俺が考えるってことで」


 これ以上大儀さんのことで頭を悩ませると、頭から大儀さんの事が離れなくなりそうなので、さっさと思考を放棄して何もかも未来の俺に任せることにした俺は電源の付いたままの携帯をポケットに突っ込んで自分でも空元気だと思いながらいつもよりも少しテンションを高くして家に向かって足を進めた。


 ◇


「というわけで、また半々になりそう」


 俺は葛西セキュリティサービスに急に呼び出されたところから丸ごとの説明をそう締めくくった。

 目の前でいつものように俺に淹れさせたコーヒーに桜色の唇を付けながら、千登世嬢は少し渋い顔をしていた。


「……えと、コーヒー淹れるのミスった?」

「いいえ、いつも通りよ。……それより、大儀伊万里ねぇ」


 その千登世嬢の様子は棗さんの時とは明らかに違っていて、はてコーヒーを淹れるのを失敗したかと思い聞いてみたがそんなことも無かったようだ。

 いつも通りと言われると成長しない男みたいで嫌だが、それはさておき、千登世嬢が渋い顔をしていたのは件の「大儀伊万里」という人物が原因のようだ。


「千登世嬢、大儀さんと面識でもあるのか?」

「……面識というほどの物ではないけれど、学校が一緒なのよ」

「へー案外世間は狭いもんだな」

「一応私が通っている学校は、それなりに事情のある子や名家の子専用みたいな物だもの」

「なるほどな」


「ん?それじゃあなんで面識もないのに、そんなに嫌そうな顔してるんだよ」


 千登世嬢の面識は無いという言葉が少し引っかかったので、深い意味もなく何となくで聞いたのだが千登世嬢は俺がそう言った瞬間これまでの嫌そうな表情が笑顔に思えるほどこんこんと不機嫌なオーラを醸し出した。


「……護衛なんてあの女には必要ないわ、郁真今からでも断りなさい。あのマウント女今思い出しても腹が立つ……」

「…………あぁ!そんな話もあったな」


 もうすでに受けてしまった以上急にやっぱなしでとは行かないので、千登世嬢が口にした言葉の前半分は聞き流すとして、聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で千登世嬢が漏らした恨み言の内容を正しく理解するのに少々時間が掛かった。


 どうもいつだか千登世嬢が言っていた友達マウントなるものを取られたと言っていたことを思い出してその犯人がどうやら大儀さんらしい。

 確かに学校が一緒で、面識は無いものの、明らかに嫌悪感を隠そうともしない時点で何となく予想できなくもない真相だった。


「これがミステリなら陳腐すぎるな」

「笑い事じゃないわよ……それを抜きにしてもあの女は何となく気に食わないのよね……私の郁真があの女の手籠めにされると思うだけでサブいぼものだわ」


「別に俺は千登世嬢の物でもないけどな」

「うるさい!良いから断りなさい!今すぐ!」


 千登世嬢はいつもどこか品のある言葉遣いをしているが大儀さんが関わるとそうもいかないようでだいぶ口汚い言葉を使っていた。

 恐らく千登世嬢が生理的に大儀さんの事を気に食わないのは多分同族嫌悪じみた何かが働いているに違いない。


 そんなことを考えているうちに千登世嬢が本格的にダダをこね始めてしまったので、千登世嬢をなだめるのに自分の部屋で昼寝していた千果も起こして何とか協力してなお小一時間掛かってしまった。


 ◇


「今日はこんなところだな」

「……ふ~有難うございました」


 もはや日課となっている、千登世嬢の話し相手がひと段落着くと始まる一姫さんとの訓練は一姫さんの言葉で切り上げることとなった。


「郁真もそろそろ訓練は現状維持の段階に入るな」

「あぁ、千登世嬢よりは弱く、ですよね?」


 俺の言葉に一姫さんは小さく頷いた。

 そろそろ訓練を始めてから一年が過ぎようとしていて、一年ぽっちで一姫さんからお墨付きを貰えるまでなれたと思うとなんだか感慨深い。


 たかが一年されど一年である。


 これで俺も細かい傷や流血とはおさらばできると思うと我ながらよく頑張ったと思う。


「それじゃあ、俺は着替えてきます」

「ああ」


 一姫さんと道場に一礼して俺は更衣室に向かった。


「あ、そういえば一姫さんには言ってなかったですけど、また千登世嬢と別件で依頼があるので再来週ぐらいからそっちと半々になります」

「分かった、荒事になりそうか?」

「いや、まだ話だけですけど、多分無いと思います」


 丁度更衣室で着替えている時に石見さんから連絡が入っており、次いでに一姫さんに報告がてら伝えると一姫さんは棗さんの時みたいになるのか?という意味を含ませた質問を返してきたが恐らくそうはならないだろう。


 業務連絡じみた雑談を済ませ千登世嬢と千果にも軽く挨拶をするために居間に顔を出すと丁度千果と千登世嬢は二人で遊んでいたので二人一緒に挨拶を済ませて俺は帰路についた。

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