地味って言うな
「ねぇねぇ?水着どんなのが良いかな?」
ぴょこぴょこと上機嫌に前を歩いていた千果が振り向きながらそう言った。
「千果はそれこそ何でも似合うだろ」
「えぇ~そうかなぁ?」
千果は誰が見ても圧倒的な美少女なので、水着がどんなものだろうと似合うだろうと思ってそう答えた。
そう、今日は結局乗り気な千登世嬢が棗さんにも連絡して無事に棗さんの予定の都合も付いたので、鷺森家の面子+俺で久しぶりにショッピングモールに来ていた。
「郁真、安心しなさい?私がきっと貴方でも似合う水着を探してあげるわ……」
「え?千登世嬢俺の事馬鹿にしてる?」
千果の後ろ姿を眺めていると、隣を歩いていた千登世嬢に可哀そうな物を見る目で見られた。
服ならまだしも、水着何てダサい事はあっても似合う似合わないとか無いと思う。
「馬鹿になんかしてないわよ、ほら郁真プールとか行ったことないって言うから、変な水着とか選んじゃうんじゃないかと思って」
「いや、学校のプールとかは入った事あるし、大体水着がどんなのが良いかも分かってるって」
「そう?ならいいんだけど」
確かに、娯楽施設としてのプールに行くのは初めてだが、かといって学校のプールには授業で入っていたので、そこまで心配されるいわれはない。……はずだ。
「逆に俺が、千登世嬢の水着選んでやろうか?」
「嫌よ。下心が透けて見えるわ」
「な、なわけないだろう」
「どうだか」
完全に千登世嬢に見透かされて動揺してしまった。ここで、俺がちょっとエロい水着を似合うとおだてれば千登世嬢の事だから何かの間違いでその水着を買ったりしないかと思ったが、そんなことは無く千登世嬢は下衆を見るような目で俺の事を見ながら両手で胸をかき抱いた。
「何二人で話してるの~早く~」
「おー、すまん今行く」
「千果も急いで転ばないように気を付けてね」
俺と千登世嬢がくだらない話をしているのに前を歩いていた千果も気が付いたのか、後ろを振り向きながら、少し怒ったように後ろを歩く俺と千登世嬢を急かしてきたので、俺達も少し小走りで千果を追いかける。
◇
「似合う?」
「良いんじゃないか?」
千果に追いついた俺と千登世嬢は千果を挟んでみんなで手を繋いで、そろそろ水遊びのシーズンということもあってかかなりの種類の水着がハンガーに掛かっているスポーツ用品店の中でああでもないこうでもないと話しながら水着を選んでいた。
千登世嬢はいつの間にか一人で水着を選びに行っていたので、千果が色とりどりの可愛らしい水着を広げて見せてくるものの、俺はいまいちこういう物の良し悪しが分からない。
「てか、スク水で良いじゃん」
「……スク水?」
あぁ、そうか千果は日本で学校に行っていないからスク水が分からないのか。
俺はそのことに千果が首を傾げたことで改めて認識した。本人も別に学校には行きたくないと言っているし、勉強に関しては何かと多彩な一姫さんに教わっているみたいだし。
「え~っと、あ、あったこういう奴」
俺は小さい子用の水着エリアを眺めて所謂一般的な紺色の水着がぶら下がっているのを探すと、無事に見つけることが出来たので、そのスク水を千果の前に広げて見せてやる。
「えぇ~なんか、地味だね」
「そりゃあスクールの水着でスク水だからな」
「このスク水っていうの日本じゃ千果ぐらいの子は大体着てるの?」
「……さぁ?俺もプールに行くのは初めてだし、分からん。ませてる子はさっき千果が見せてきたようなやつ着てると思うけど」
「ふ~ん?じゃあこれにしよっかな、地味だけど」
地味って何回も言うなよ……小学生は皆着てるんだからさ
一旦千果はスクール水着で決めることにしたのか、スクール水着をそのまま俺に手渡してきた。
「おい、なんか俺がスク水持ってたら変だろ。自分で持てよ」
「だって千果が買うわけじゃないもん。お金持ってないし」
「そりゃそうだけど。……ったく千登世嬢探すか」
このまま、俺がスク水を手に握りしめているという構図は精神衛生上にも社会的にも怪しい気がしたので取り敢えずどこかにいるはずの千登世嬢を探すことにする。
「お、千登世嬢~千果水着決めたってよ」
「決めたよ~」
少し水着が並んでいるエリアを歩いて千登世嬢を探すと無事に水着を吟味している千登世嬢を見つけたので声を掛けると、千登世嬢も話しかけてきた俺に気が付いたのか、一旦手に持っていた水着を棚に戻して振り向いた。
「あら、千果どんなのにしたの?」
「郁真一押しのスク水ってやつ!」
「……郁真?」
千果と目線を合わせるために屈んで千果に話しかけていた千登世嬢は千果のスク水という言葉を聞いて目を細めて俺を睨みつけてくる。
「な、なんだよ?別に俺は、普通だったらスク水じゃないかって言っただけだぞ?」
「ふ~ん?本当かしらね」
「本当だって。てか、千登世嬢は水着決まったか?」
俺が話を逸らそうとそう言うと千登世嬢も俺に問い詰めるのを辞めてくれた。
「……どっちがいいと思う?」
辞めてくれたのは良いのだが、千登世嬢はこの世で答えづらい質問ランキングでも上位に入る質問を投げかけてきた。
千登世嬢は俺に見せつけた二つの水着は二つとも俺にはよくわからないが、どちら者可愛らしいものだった。
一つ目はなんかフリフリしてる普通の服っぽい奴で、もう一つはビキニタイプのひらひらした奴だった。
俺が余りにもこういう事に疎いせいで、いまいち上手く説明できないが、可愛らしいのは間違いない。取り敢えず俺の好みで言えば服っぽい奴だ。
「……服っぽいので良いんじゃないか?」
「ふ~ん?郁真はこっちのが良いのね」
ほら、どっちがいいと思うってこうなるから嫌なんだよ……
千登世嬢は少し考えるように俺の選んだ方の水着をもう一度眺めて、頷いて言った。
「まぁ、じゃあ郁真が選んでくれたことだしこっちにしようかしら」
「……お、おう。そうか」
「千果の水着も一緒に買っちゃうから渡して?」
「はいよ」
俺は千登世嬢に言われた通り、今まで手に持っていた千果のスク水を千登世嬢に手渡す。
「それじゃ、最後に郁真の選びましょうか」
「おーそうだったな、なんか忘れてたわ」
「なんで忘れるのよ、馬鹿ね郁真は」
その後は千登世嬢と千果の二人に俺の水着を選んでもらって、トランクスタイプのなんか夏っぽいデザインの印刷された物を購入した。
千果がふざけてブーメランパンツみたいなのを買わせようとしてきたが、さすがにそれは嫌だったので、諦めてもらった。




