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ダブルの裏切り

ビックリするぐらい楽しく書けました。一応本編と繋がってますが、ほぼ閑話です。

 突然だが、今俺はリビングの机に座りながら自分で淹れた珈琲を飲み、何か良く分からない物を見せられていた。


「ど、どうよ!」

「……ど、どうでしょう?」


 俺の目の前でクライマックスを迎え決めポーズをとった三人のうち二人が顔を真っ赤にして俺にそう聞いてくる。皆さんご存じ、千登世嬢と棗さんである。


 何も言わずに余韻に浸っている千果の完全やり切ったと言いたげな晴れやかな表情を見ながら、俺は千登世嬢と棗さんに何と返そうかと考えていた。俺は今、完全に調子に乗ったことを後悔している。


 ――どうして、こうなったんだろう……


 俺は、どこか遠くを見つめながら、こうなった原因は分かり切っているが一応今日の朝からの出来事を思い出す。


 ◇


 棗さんをストーカーしていた男に切られ、かなりの大けがを負ったがその傷も無事完治して退院した俺は、ここ最近の習慣であるリハビリ兼再訓練の為に朝起きてから鷺森邸に訪れていた。


「おはよう、郁真」

「一姫さんもおはようございます」


 鷺森邸の門をくぐり、敷地内に入るとちょうど庭の掃除をしていた一姫さんと出会った。挨拶をしてくれた一姫さんは挨拶ついでと言わんばかりに先ほどまで落ち葉を掃いていた竹帚をほぼノーモーションで振り下ろしてくる。


「……危ないなぁ」

「ちっ。そろそろ勘も戻ってきたか?」


 俺が振り下ろされた箒を適当に避けて呟くと、舌打ちと一緒に確認するようにそう聞かれた。


「ぼちぼちですね。大体ケガする前ぐらいには戻せた気がしますけど」

「そうか。それは何よりだ」

「何よりだ。じゃないですよ……ここまで来るのに俺がどんだけ一姫さんにボコられてるかは一姫さんが一番知っているでしょ?」

「ふん!郁真は何かと要領が良いせいで、立ち直りが早くて詰まらん」

「そりゃあ、良い師匠が本気でボコってきますから、必死にもなりまさーね」

「……全く、可愛げのかけらも無いな」


 一姫さんに箒で攻撃されながら庭を一緒に歩いて行く。今は冗談交じりに話しながら歩けているがこの人、退院初日からこれやってきてるからなぁ頭おかしいんじゃねえか?


「そういえば、今日は棗が来てるぞ」

「今日()じゃなくて、今日()でしょうに……」


 いい加減このじゃれ合いまがいの攻防にも飽きたのか俺に攻撃を仕掛けるのを辞めて一姫さんは箒を引きずりながら言った。千登世嬢はあの日、病室で初めての友達が出来てからと言う物の、棗さんがストーカーのこともあって仕事を減らしていることを良い事に何かと理由を付けて自分の家に棗さんを呼びだしているのだ。


 まぁ別に俺の仕事が増えるわけでもないので、特に文句はないが一姫さんが言ったように今日はと言われると流石に訂正したくなる。


「初めて友達が出来て嬉しいのは分かるけどなぁ」

「……まぁ、お嬢も最近は楽しそうだし私は何も言えんな」


 俺が仕事が増えていない代わりに、棗さんを仕事場まで車で送ってあげたり、一応護衛じみたことをしている仕事が増えている側の一姫さんにそう言われては俺も何も言えない。


 ご愁傷様です。


 隣を歩く何とも言い難い微妙な表情の一姫さんに俺は心の中でそう言っておいた。


 ◇


「郁真!だっこ!」


 俺と一姫さんが連れ立って鷺森邸のリビングに入ると、俺が怪我をしてから今まで以上に甘えてくることの増えた千果に太もも辺りに突撃される。


「痛った!!おい、なんで顎を太ももに刺すんだよ!」

「え~いいじゃん」


 千果からももかんを食らって苦情を漏らすが、千果は一切気にしていないように笑っていた。

 こう千果に笑顔を向けられると怒る気も失せる。ため息をついて千果の事を抱き上げる。千果のだっこ係はもっぱら俺である。


「マジでももかん痛いから、今度から辞めてね?」

「ういうい~」


 ぜってぇ分かってねぇ……


「あ、郁真君お邪魔してます」

「あぁ、どうも棗さん。今日はお仕事あるんですか?」

「今日はお休みです」

「それはそれは」


 千果を抱っこしたまま、リビングを練り歩いていたら千登世嬢の部屋から棗さんがひょこっと顔だけ出して挨拶してきた。

 毎日、毎日千登世嬢と何をして遊んでいるのかと聞きたくなるが、それに関しては案外口の緩い千登世嬢ですら頑なに教えてくれないので簡単に挨拶だけ返してリビングを練り歩くのを再開する。棗さんもされは分かっているのか直ぐに千登世嬢の部屋に戻っていった。


 雑だと言われるかもしれないが、こちとら棗さんと毎日顔を合わせているのだ。雑になるのも必然だろう。


「あ~飽きた。下ろして」

「おい。お前が抱っこって言ったんだろ」


 このガキ……棗さんに挨拶を返した後も十分ほどリビングを練り歩いていると千果が覚めた目でそう言ったので、一旦地面に下ろしてやると、千果は千登世嬢の部屋に向かって大きく口を開いた。


「ちとねえー!ダンスしよーあのお服着てさぁ~!」


「ばっ……千果!それ秘密!」

「あ?なんだよ秘密って」


 千果が大声で千登世嬢の部屋に向かって大声で声を掛けると、少ししてから慌てたような千登世嬢の声が帰ってくる。

 俺は千登世嬢が秘密と言ったのが聞こえてしまい、千果に確認するように聞くと、千果は両手で口を押えていた。


「いみふ(ひみつ)」

「……ダブル」

「えっとね、秘密だから誰にも言っちゃいけないよ?あのね、ちとねえとなっちゃんお服作ってるの、ポリキュアのすごいひらひらの奴」

「ありがとうな、教えてくれて。お前がちょろくて助かる」


 口を噤む千果にアイスをちらつかせてやれば千果は直ぐに俺の耳元で教えてくれた。


 ――これは良い事を聞いた。


「千登世嬢~!ポリキュアのコスプレして踊ってくださいよぉ~!!俺見たいなぁ~千登世嬢の可愛いの!」


 顔がにやつくのを自覚しながら俺は先ほどの千果の様に千登世嬢の部屋に向かって大きな声で言った。


「……千果!あんた何ばらしてるのよ!今度アイス買ってあげるから郁真には黙っててって言ったでしょ!」


 流石の千登世嬢も千果に怒ることは出来ないのか、明らかに滅茶苦茶怒っているドスの効いた声色だがどこか我慢したような声が帰ってくる。


「郁真はダブル~!」

「俺はダブル~!」


 なんだか気分が良くなってきた俺は千果に続いて、千登世嬢に向かって声を掛けてやる。

 シングルで約束したのが運のツキだぜ……千果はアイスで釣れる代わりにアイスで割と裏切る。


 ――スパァンッ!


 俺が千登世嬢を散々に煽り倒していると、大音量で千登世嬢の部屋の襖が開かれた。

 ゆらゆらと頭を揺らしながらゆっくりと部屋から出てきた千登世嬢はそれこそ鬼のような形相をしていた。


「……郁真?今日の修行は楽しみね?」


 終わった。


「なぁ、千果助けて?トリプルにしてやるから」

「もう~郁真ったらしょうがないんだからぁ」


 千登世嬢に鬼の形相で睨まれ、俺は千果に助けを求めると、千果は自信満々に胸を張ってそう言った。


「ちとねえ?千果ね?一緒にあのフリフリのお服着てちとねえと一緒に踊りたいな?」

「……ぐ、」


 怒髪冠を衝く千登世嬢も溺愛している千果の媚び媚びの上目遣いには耐えられないのか、苦虫を噛み潰したような表情に変わり、呻いていた。


「ま、まぁ。バレちゃったのは仕方ないし、せっかくだから着てみようよ?」


 これは行けるか……?と様子を伺っているとまさかの棗さんからの援護射撃が入った。というか、棗さんに関してはそれなりに乗り気である。


「棗まで……!わ、分かったわよ!やればいいんでしょ!?やれば!」

「わーい!ちとねえ大好きっ」

「……いよいよ、お披露目ですね」


 千登世嬢は半泣きでやけくそ気味に吐き捨てて、棗さんはやはり完全に乗り気である。自信を持てと言ったのは俺だが、ここ最近の棗さんは仕事でも半分コスプレみたいなことを平気でやりだしているらしいし、元々そのケはあったのかもしれない。


 ◇


 何てことがあり、今現在三人はかなり出来の良いポリキュアのコスプレ衣装を身に纏い、俺の前で決めポーズをしていると言うわけだ。


 一姫さんに至っては今の千登世嬢を見ていられなかったのか、知らない間にどこかに行ってしまっている。そのせいで、俺一人の感想に千登世嬢のこれからが掛かっていると言っても過言ではない。


「……ウ、ウン。イイトオモウ、ヨ?」


 だが残念、これが俺の限界である。


 半ばやけくそで完コピしているポリキュアのダンスを踊り切った千登世嬢は俺の言葉を聞いて、ツーと頬に涙を流した。


 その涙はいつぞやの棗さんに負けずとも劣らない綺麗な物だった。



 というか、千登世嬢を煽り立ててここまでやらせた俺がそう思わないと、今すぐにでも精神をおかしくしてしまいそうだった。


「もう、イヤ」

「あ、千登世ちゃん!?」

「ちとねえ!?」


 千登世嬢は涙をぬぐう事すらせず、一切の感情を無くして部屋に戻っていってしまった。


 棗さんと千果は千登世嬢に付いて言ったので、俺は一人圧倒的な虚しさを感じながら惨劇の現場であるリビングに一人残された。




 当然、その日の夜、二人に慰められて何とか持ち直した千登世嬢に、俺が半殺しにされたのは言うまでもないことだろう。










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